▼ 02
俺、お前の隣に戻ってもいいのかな。ただいまって、言っていいのかな。
握られた手にこちらからも指を絡め、もう一度ベッドに身体を埋める。
瑞貴、瑞貴。ありがとう。
お前以外いらないって言ったのは嘘じゃない。本当に俺にはお前しか欲しいものなんてなかった。
そしてその気持ちは変わらない。お前がそこにいるだけでいい。それだけで俺は生きていける。
「ただいま、瑞貴」
耳元で囁くように返事をすれば、瑞貴がまた笑ったような気がした。
*
「…なんでいんの」
「なんとなく」
「あのなー、いるならいるって連絡くらいしろっつの!」
我が物顔でベッドに寝転び本を読む俺に、帰ったばかりの瑞貴は冷たい視線を向ける。
「今日3限までしかなかったから」
「じゃあそれからずっと俺ん家いたわけ」
「うん」
「自分家帰ればいいのに。暇な奴だな」
別に暇ではない。
「ん」
ベッドのスペースを開けて、ぽんぽんとそこを掌で叩いた。
「なんだよ」
「おいで」
「…」
少し優しい声を出す。いぶかしげな表情をしつつ近寄ってくる瑞貴に笑いが零れた。ふ、本当素直だよなこういうとこ。
恐る恐る下ろされたその腰に強く腕を回す。そしてそこにぐりぐりと額を押し付けた。
「ひふみ?」
「んー」
「何かあったのか?」
「別に、何も」
「でも」
本当に何でもないことなんだ。だってこの気持ちは俺の中にいつもあるから。特別だけど稀代なことじゃない。この気持ちがなければ俺じゃない。
「瑞貴、ただいまって言って」
「…た、ただいま?」
「うん」
「なんなんだ本当…」
分からなくていい。以前みたいに独りよがりじゃない。気持ちはちゃんと繋がってるって実感できているから。
だから、お前はそこにいてくれればいいよ。俺の隣は今も昔もこれからもずっとずっと瑞貴だけのものだ。
「キスしていい?」
「はぁ?」
「おかえりのキス」
「お前、頭でも打ったんやない?」
「打っとらん」
後頭部を引き寄せて口付ける。突然のことに瑞貴は目を見開いたままだったが、舌で唇をノックすれば、すぐに恥ずかしそうに瞼を固く閉じた。
「ん、んん」
「…」
「っ、は、いきなり何すんだ!」
「顔真っ赤」
「うるせえ!!」
あぁ、本当に、なんて愛しい。
いつか言ってくれたのと同じように、お前が俺の隣に戻ってきてくれる度、俺はこの言葉を言うよ。
「瑞貴、おかえり」
end.
prev / next