シック・ラバー | ナノ


▼ 01

初めて瑞貴を抱いた。

これ以上の幸せなんてあるだろうか。今の俺には思いつかない。それくらい、満たされている。

横で眠る瑞貴の髪をさらさらと撫でる。ちょっと無理をさせすぎたせいか、気絶するように眠ってしまった。ちょっとやそっとのことじゃ起きないだろう。

一応お風呂には入ったものの、その後しっかり汗をかいてしまったのであまり意味はない。朝またシャワーでも浴びよう。

今はまだ、この幸せに浸っていたい。

「…」

瑞貴、瑞貴、瑞貴。

どうして俺はこいつがこんなに愛しいんだろう。友達として見ていた頃の気持ちを思い出せない。

「う…」

顔を近づけて額に口付けを落とすと、瑞貴は少しだけ眉をひそめた。

幼いころからちっとも変わらない顔。童顔で、あどけなくて、大学生にはとても見えない。入学式のときのスーツの似合わなさにはちょっと笑えた。

「瑞貴」

お前、本当に、俺を追っかけてきてくれたんだな。

…ずっとずっと、おかしいのは俺の方だと思っていたんだ。自分で自分が気持ち悪くてたまらなかったんだ。

頼むから俺にそんな風に無邪気に笑いかけないでくれ。何度そう思っただろう。俺がお前のことをどんな目で見ているか知らないくせに。

瑞貴は何にも悪くない。俺が、俺だけがおかしい。もう苦しい。辛い。嫌だ。

このままずっと一緒に居たい。

そんなこと出来るわけないだろ。

相反する感情がいつも心でせめぎ合って、押し潰されそうになる。限界だった。いつ手を伸ばして縋ってしまうか、自分でも予想ができなかった。

…もう、いい。一生この先会えなくてもいい。こんなに苦しい思いをするくらいなら。

求めて拒絶されるくらいなら、いっそ。

そうして逃げ出した俺を、こいつはいとも簡単に見つけ出してくれた。

好きだ、って言ってくれた。

「あ」

気がつけば瞳からぼろぼろと涙が零れていて、シーツに染みを作っていく。

馬鹿だ。情けなさすぎる。でも後から後から溢れて止まらない。

幸せで泣けてくるなんて、どこまで俺は。

「…」

とりあえずベッドから出ようと身体を起こした。ティッシュか何かが欲しい。

「ん…?」
「悪い、起こしたか」

瑞貴が薄目を開けてこちらを見る。あんまり泣いているところは見られたくなかったが、まぁもうこの際いい。っていうかさっきも見られたし。

「ひふみ」
「なに」

しかし幸いなことにまだほとんどの意識が眠りについているらしく、瑞貴は俺の涙に気が付くことなく柔らかく笑った。

「おかえり」

きゅっと横についた手を握られる。そしてそのまま再び寝息を立て始めた。

「…っ」

俺はというと、心臓を鷲掴みされたみたいな衝撃にひたすら耐えることしかできない。

おかえりって、何だよそれ。部屋に帰って来ておかえりってことなのか、それとも。

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