毒を食らわば皿まで | ナノ


▼ 01

自分が所謂世間一般で言うところの「普通」から逸脱した性癖を持っていることに気がついたのは、ほんの些細なきっかけだった。

何てことはない。昔からいいなとか好みだなと思う対象は全て男性で、それだけではまだしも初めてできた女性の恋人といざ事に及ぼうとしたとき、その丸みを帯びた柔らかい身体に強い違和感を覚えたのである。

違う。そう思った。自分が求めているのはこれではないと。

性的な面以外では至って良好な関係を築いていたため、自覚してしまった自分の性癖をわざわざカミングアウトすることもなかろう、と彼女には大学進学を理由に別れを告げた。まぁ円満な別れだったのではないかと思う。

そしていろんな意味で世界が広がった小山が自覚したのは、自分の恋愛対象が男性であるということだけではなかった。

男女の関係ならば、必然的に役割は決まってくる。身も蓋も無いあけすけな言い方をすれば、男は「入れる」側で、女は「入れられる」側だ。

しかし男性同士となれば話は変わってくる。どちらかが男性役で、どちらかが女性役を担わなければセックスという行為は成立しない。

小山が気がついたこと。それは。

「ん、んっん…は、ぁあっ」

入れるより入れられる方が、何倍も気持ちがいいということだ。

「ひ…ッ、あ、あぁ、ん、んんっ、んぁ」

卑猥な音を立てて後ろから激しく責め立てられ、小山はぼろぼろと涙を零す。気持ちいい。たまらない。ここが職場であるということを忘れ、めちゃくちゃに声を上げてしまいそうになった。

「ここ、好きだよね…っ」
「んはぁっあ…きもちい、いい、いい…!」

仕事は好きだ。だが人付き合いはあまり得意な方ではない、と思う。もともと口数は少ないし、表情もに乏しい。愛想や社交性などといった処世術も持ち合わせていない。

職場での小山の評価は当然「仕事は出来るがいけ好かない奴」だ。

「小山、すげ、かわいい」
「あぁっ、ん、ん、んぅ」

それなのに何故この「いけ好かない奴」に男が寄ってくるのか。答えは簡単だ。小山が非常に容姿に恵まれているからである。

一見すると冷たい印象を与えがちな一重の瞳は、すっと通っていて色気がある。少し高めの鼻に加え、唇は薄めかと思いきや下唇だけがふっくらとしている。さらさらした黒髪は、学生時代も一度も染めたことがなかった。

「なんで、お前、そんなエロいの?」

腰を動かすリズムのせいか、途切れ途切れで質問が聞こえる。どこか蔑んでいるようなその口調に、自分の中の被虐心が悦ぶのが分かった。

エロい。それは今自分を貫いているこの男にも、他の男にも散々言われてきた言葉だ。

普段性的なものには一切興味がないかのような顔をしている小山が、甘えるような声で泣き、快感に腰をくねらせ、もっともっとと貪欲に行為を強請る。「入れる」側の男は、小山のその乱れっぷりを嬉しそうに詰るのだ。

――なんでって、言われても。気持ちいいのだからとしか言いようがない。それ以外の言葉は小山の中には存在しない。

気持ちいいからセックスする。仕事が好きで今は恋愛に興味がないから、恋人はつくらない。でも性欲はあるからセフレはいる。

随分と短絡的な思考だが、小山はこの生活にそれなりに満足していた。自分はこんな風にしか生きられないのだろうな、と思っていた。

「いく、いく…ッも、でる、でる」
「なにが、でるの…」
「せいえき、でる、あぁっ、すご、ん、んぅ、い…」

いく、と甲高い声で鳴き、目の前の机を必死で掴んだ。普段は会議で使っている机だ。会社でこんないやらしいことをしている、という意識が快感を増幅させ、後ろに埋められた性器をぎゅうと食い締める。

「小山、ナカ、出していい…?」
「ん、ん、だめぇ、だめ、ナカ、だめだ、だめ、無理…っ」
「はぁ、おまえ、マジでエロすぎるわ」

ぐずぐずに溶かされたそこに、熱い体液を流し込まれる想像をした。ビクビクと身体が痙攣し、もう立っていられない。後ろの同僚――今はセフレだが――が息を詰めるのを感じ取る。

「こやま…ッ」

あぁ、こいつ絶対中に出すな。そう思ったら案の定大量の精液をぶちまけられた。小山もそのすぐ後に吐精する。

後処理、しなきゃ。面倒くさい。熱を吐き出して急激に冷静さを取り戻していく小山を、同僚は後ろから抱きしめた。

「あーすっげぇ良かった…たまには会社っていうのも燃えるな」
「…もう、離せ…休憩終わる」
「相変わらず冷たいの」
「早く掻き出したいんだ。お前が勝手に中に出すから」
「ごめんね」

――そのとき、閉まっていたはずの会議室のドアが開いた。

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