毒を食らわば皿まで | ナノ


▼ 01

自分がゲイであることを自覚して、ある意味小山の世界は大きく広がった。勿論マイノリティであることには変わりがないので、無意味に周囲に性癖をカミングアウトすることはしなかったものの、小山には比較的すぐに恋人と呼べる存在ができた。

同じ大学の、同じゼミの、同級生だった。

告白は向こうからで、付き合ってほしいと告げられたときは随分驚いたものだ。自分の嗜好を明かしたつもりは無いのにどうしてわかったのだろう。不思議がる小山に彼は言う。

「なんとなく、わかるもんだよ。小山もこっち側なのかなって」

こっちとあっち。そうか。世間ではそんな風に線引きがなされているのか。単に意識の問題なのかもしれないが、彼の言う「こっち側」と「あっち側」には大きな隔たりがあるんだろうなと思った。

「違ってたら、ごめん」
「いや、違わない…けど」

彼は、とても優しかった。人懐こく笑う顔が印象的だった。ゼミの中では人気があり、たびたび女子の間で話題に上がっているのも知っている。そんな彼が自分なんかと付き合っていいのか、と問うと困ったような笑みを返された。

「女の子にモテたって、嬉しくないんだ。悲しいことにね」
「…男が、好きだから?」
「そう。それに、小山のことは初めて見たときから、ずっと好きだった。あんまり綺麗だから」
「褒めてるのか、それは」
「褒めてるよ。すっごく」

無理をして恋人を作る必要はないと思っていたが、男同士で恋人になることに興味がないわけではなかった。

「付き合ってほしい。小山のこと、俺本気だから」
「…うん」

だから、彼の申し出を受け入れた。

彼との付き合いは、とても心地が良いものだった。お互いがお互いを理解し合えるのも、良かった。世間からは隠さなければならない自分の根底の部分を曝け出せるのは楽だったし、好きだと言ってもらえるのも嬉しかった。

小山が彼を好きになるのに、そう時間はかからなかった。

――ただ、ひとつ問題があるとすれば。

「ん、んぁっ、んっ、んぅ」
「はぁ…ッ」
「あぁ、まさ、むね…きもちい、あっ」

彼との性行為が、苦痛でしかなかったことだろうか。

男同士の行為を経験したことはない小山は、その辺りのことがよく分からなかったため、受け身だという彼に合わせ挿入する男性側の役割を果たすことになっていた。彼の身体には、女の子と付き合っていたときとは明らかに異なる興奮を抱くこともできた。

だが、小山にとってセックスは「作業」だった。

気持ちいいことには気持ちいい。自分の手によって快楽を得ている彼を見るのも好きだ。

――でも、どうしても、イけない。

あと少し、何かが足りない。一度自覚した違和感は小山の中に着実に降り積もっていき、最終的に性行為そのものを忌避しようとする気持ちさえ生まれてしまった。

恋人はそれを聡く読み取ったのか、ごめんねと申し訳なさそうに小山に言った。彼は優しい。そんな優しい恋人にそんな風に謝罪の言葉を口にさせる自分が、小山は嫌いだった。

そして、その日は訪れた。

「え?」
「友達に、ゲイのカップルがいて…その、やり方、みたいなの見せてもいいよって…雅宗が嫌なら全然いいんだけど。断るし」
「やり方…」

言わずもがなセックスのことを指していることは分かった。直接的な言葉を使わない、そういう気遣いのできるところは、小山が彼を好む理由の一つだった。

「…」

正直なところ、気乗りはしない。他人の性行為を見るのも気が引けたし、セックスが上手くいかない、なんてデリケートな領域に自分と彼以外の人物が踏み込んでくるようで嫌だった。

だが、自分達の抱えているものがこのまま放っておくことができない問題であることも確かだ。恋人とのセックスを苦痛に思うことに罪悪感を感じていた小山は、半ば縋るような思いでその申し出を承諾した。

――今思えば、断るべきだったのだ。

何度後悔しようともう遅い。取り返しのつかないことをしてしまった。自分が誤った選択をしたばかりに、彼を深く深く傷つけてしまった。

「あっ、あぁ、こんなの、こんな…っ」

こんなの、知らない。

媚びたように漏れる甲高い声も、内側を擦られる度に震える身体も、自分のものだとは到底思えなかった。

「はぁっ、あぁっ、や、あぁ…ッ」

シーツを握り締めて首を振る小山に、ごめんねと後ろの男は言う。そしてまた中を強く穿たれた。きゅう、と縁が強くその男のものを締め付ける。

「直接、教えた方がいいかと思って」

だからと言って、どうして自分が別の男とセックスしなければならないんだ。しかも自分が入れられる側だなんて、そんなこと聞いてない。

「ここ、こういう風に擦ってあげなよ。締め付けが増して、すごい気持ちよくなれるよ…今の小山くんみたいに、ほら」
「んっんっ、ん、ぁ…知らな、わかんないぃ…っ」

わかってたまるか。ギリギリのところで意識を保ち、必死に踏みとどまろうとする。

prev / next

[ topmokuji ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -