エゴイスティックマスター | ナノ


▼ 類は友を呼ぶ

うううう、と私は絶望の混じった声を出しました。頭には尖った耳、そしてお尻には真っ黒な尻尾――そう、猫です。あの悪夢が再び蘇ってしまったのです。

しかし絶望に打ちひしがれていても事は解決しません。とにかくこれは夢なのですから、坊ちゃんにバレなければ良いのです。そしてそのうちに目覚めてしまえばこっちのものです。

そう。夢なのだから、休んでしまえばいい。

――ごめんなさい!今日だけ、この夢の中でだけ、仕事放棄させてください!

猫と化してしまった自らの姿を隠すように、私はベッドの中に潜り込みました。お願いします今すぐ夢から覚めさせてください、と祈るように両手を合わせ瞳を閉じます。

しかし、現実――いえ、夢はそう甘いものではありませんでした。

「…っはぁ…」

身体が熱い。腰の奥がじんと痺れて、もどかしい。呼吸も乱れてきます。

私はいつか坊ちゃんが言った言葉を思い出しました。

発情期だ――と。

「ん…っん、ん…」

シーツに擦り付けるようにして身を捩ると、それだけで鼻にかかったような声が溢れだしました。みるみるうちに性器に熱が集まるのがわかります。

「はぁ…っん」

誰に見られているわけでもありませんが、なんとなく後ろめたい気持ちになって布団の中でうつ伏せになると、兆し始めたペニスがシーツに擦れてしまいました。びく、と腰が浮き上がります。

「あ…ぁっ、やだ、ぁ…」

はしたない。こんなのだめだ。

頭では理解しているのに、ずり、ずり、と小刻みにベッドに下半身を押し付ける動作が止まりません。

「はぁ…っ、はぁ、は…んんっ」

声が漏れないように片手で口を押さえたまま、もう片方の手を服の中に差し入れくりくりと乳首を弄り回します。自分の指とはいえ気持ちいいことには気持ちいい。けれど、やっぱり彼に触られるのとは大違いだ、と思いました。

「ん…っん、ぅ、んん」

足りない分の刺激を補うため、口を押さえていた手を下半身に伸ばします。代わりに唇を噛み締めてみましたが、あまり意味はありませんでした。

「あぁぁ…ッ!!」

熱く勃起した性器に触れた瞬間、聞くに堪えないようなはしたない声をあげてしまったからです。

「あっ、ぁっ、あ…っ、ん、ん」

指で作った環で根元から扱き上げると、私のそれは悦んでとろとろと透明な蜜を吐き出しました。

布団の中は薄暗くてよくわかりませんが、今の姿を誰かに見られたとしたら、もしも坊ちゃんに見られたとしたら、私は舌を噛み切って死のう。それくらい恥ずかしい姿になっていることは想像に難くありません。

――ほら、見ろ伊原。お前に触れているのは誰か。

「…っあ…!?」

ふと頭の中に彼の声が響いてきて、私は動きを止めました。中途半端なまま投げ出された身体がズキズキと疼きます。

「な、なん、でぇ…っや、やだぁ」

恥ずかしいのに、知られたくないはずなのに、わざわざ坊ちゃんのことを思い浮かべるなんて、私の頭はおかしくなったのでしょうか。

――お前はどこもかしこも可愛いよ。全部僕のものだ。

「…っ、ん…!」

頭の中の坊ちゃんが語りかけてきます。私の手はそれに合わせて再び動き出し、ちゅくちゅくと控えめながらもはっきりとした水音が聞こえてきました。

坊ちゃん。坊ちゃん。知られたくはないけれど、見られたくはないけれど、やっぱり私、貴方に触られたいみたいです。

「は…っはぁ、坊ちゃ…」

シーツに全身を擦りつけながら強く瞳を閉じれば、瞼の裏には彼の顔が思い浮かびます。びくっびくっと腰が小刻みに跳ね、その度に先走りの液体が溢れてきました。あぁ、後で洗濯しなければ。

「坊ちゃ…っん、坊ちゃん、んんっ、あ、のぞむさ…ッ」
「なんだ、そんな声で僕を呼ぶな。我慢がきかなくなる」
「いいです、我慢なんかしないで…っ、お願いします、触って、私、貴方に…」

――え?

「な、ななななな…っ」

布団の中、まさに目と鼻の先。ふと瞼を開ければ、そこには今の今まで想像でしかなかったはずの彼の姿がありました。

「い、いつの間に、人のベッドに…!?」

わからん、と坊ちゃんは言います。

「最初は僕もただいつもと同じような夢を見ていただけだったんだがな。恐らくお前が僕のことを呼んだことによって夢同士が繋がって、僕の意識がこちらに引き込まれたんだろう」
「そんなSF映画のような出来事が…」
「現に今、現実として起こっているわけだからSF映画も何もないだろう。あぁ、ちなみにこの場合の現実というのは夢と対比した現実世界のことではなく、夢の中での事実という意味で…」
「ややこしい!!」
「そうだな」
「ちなみに貴方が最初に見ていたいつもと同じような夢というのは、どのようなものなんですか?」
「お前の夢だよ」
「え…わ、私の…?」
「もっと正確に言うと、お前とあんなことやこんなことをする夢だよ」
「そんなことだろうと思いました!折角ときめいたのに!」
「どんな形であれ、お前に触れることができるのは嬉しいことだ。そうだろう?」

坊ちゃんの手が私の頭を撫でました。

「ん…」

すりすりと耳を愛撫され、唇から小さくも悩ましい吐息が溢れ出します。

「…全く、ずるいぞ。一人でこんないやらしいことをして、自分だけ気持ちよくなって、僕は置いてけぼりか?」
「ご、ごめんなさい…」
「別に謝らなくたっていい。お前が僕の名前を呼んでくれたのは結構…いやかなり嬉しかったからな。許してやろう」

彼はそう言って笑うと、優しいキスをしてくれました。

「んん…っ」

唇にその熱を感じた瞬間、全身が歓喜に震えるのがわかります。私が求めていたものはこれだったのだ、と思いました。

「…熱烈歓迎だな」
「あ、待っ…」
「待たない」

坊ちゃんは体勢を変え、私をベッドの上に組み敷きます。そして布団を剥ぐと、あられもない姿になった私を見て嬉しそうに目を細めました。

「何もしなくても入りそうだ」
「へ、変なこと、言わないで…」
「だってそうだろう。ほら」

ぐぷ、と彼の指が後ろに差し込まれます。

「こんなに濡れてる」
「や…っ、やめ、ん…ぁあっ」

そしてわざと音を立てるかのように浅く出し入れされ、耳を塞ぎたくなる気持ちでいっぱいになりました。

「何回イった?」
「んにゃっ、ま、まだ、一回も、あうぅっ、イってな…」
「そうか」

長い指がくちゅくちゅと私の中を掻き回します。発情期とやらでただでさえ敏感になっている身体はもう限界で、私はシーツの上で魚のように跳ね回りました。

「ひうぅっ、い、イっちゃ…ぁっ、だめぇ、だめ」
「もうイくのか」
「んんっ、イく、坊ちゃ、あぁっ、あっ、そこだめっ、だめ、ぐりぐりってしないで、出ちゃ…」
「こんなにきゅうきゅう締め付けておいて、駄目なことはないだろう」
「ちがうぅ、ちが…っだって、ん、はぁ…っ、きもちいいぃ…!!」
「いいからほら、早く出せ」
「んにゃぁああ…っ!!」

猫さながらな甲高い嬌声を上げ、私は早くも一度目の絶頂を迎えます。ペニスからはとぷとぷと勢いよく精液が噴き出し、お尻の方まで垂れていきました。

「あ…っあ、あ、うぅ…」

吐精の余韻でぴくぴくと痙攣していると、今度は身体をうつ伏せにひっくり返されます。そして今の今まで指で弄られていた場所に、硬い彼のペニスが押し付けられました。

「…もう入れたい」

掠れた声で囁かれ、私はドキドキと心臓を高鳴らせます。

「ん…っ、は、はい、だいじょぶ、です…っ」

大丈夫どころか、もう一秒だって待てない。待ちたくない。

「…――――ッ、あぁ…!!」

シーツを握り締めたその瞬間、後ろから一気に大きな塊が入り込んできました。ごりごりと内側を無遠慮に潰され、目の前が真っ白になるほどの快感が押し寄せてきます。

「…っこら、逃げるな…」
「ひぁっ、あ、あぁっ、や…」

強すぎる感覚に自然と逃げ腰になってしまうのを彼の手が引き止め、さらに奥までこじ開けられてしまいました。

「う…っ、うぅ、あ…っ」

あまりの気持ちよさに涙が止まりません。シーツに縋り付いて浅い呼吸を繰り返す私の背に、坊ちゃんの胸がぴったりとくっついて、どくどくという心臓の鼓動が伝わってきます。

「あ…っ」

汗に濡れたうなじを強く噛まれたかと思うと、すぐに律動が開始されました。

「んはぁ…っ、あっ、あっ、ああっん、んんっ」

最初からばちゅばちゅと激しく腰をぶつけられ、私はもうただ喘ぐことしかできません。

噛みつかれて、上から押さえつけられて、まるで支配されているみたいだ、と思いました。動けなくて辛いはずなのに、それがどうしようもなく嬉しくて、気持ち良くてたまりません。

「あうぅっ、坊ちゃん、んぁっ、坊ちゃ…っ、あぁあっ」

太く張り出した部分が抜けていく瞬間に孔の縁に引っかかり、腰がびくびくと勝手に浮き上がります。開きっぱなしの唇からはだらしなくも涎が滴り、シーツに糸を引きました。

「気持ち、いいか…っ」
「いい、いいっ、あぁん…っ」

ふ、と坊ちゃんが後ろで笑う気配がします。

「お前はここも気持ちいいんだったな?」
「ひにゃあ…ッ!?」

突然尻尾を掴まれ、悲鳴が漏れました。

「だめ、だめ、いやぁ…っ」

ただでさえ飽和状態な快感をさらに上乗せされ、私はいやいやと首を横に振ります。

「ひ…っ、な、なに、して」

しかし坊ちゃんはあろうことかその尻尾を結合部に近づけると、とんでもない言葉を口にしたのです。

「…入るか?」

――まさか。

「無理です!入るわけないでしょう…っ!」
「人間チャレンジ精神をもって生きていくことが大切だぞ」
「わ、私は猫です!にゃはらです!人間ではありません!」
「せめて先っぽだけでも」
「だめだめ!だめです!」
「折角こんなにいいものがあるんだから、活用しないなんてもったいないじゃないか」
「私のお尻が裂けてしまいます!」
「そんなことはないと思うんだが…」

顔を見なくても彼がどんなに落胆しているかがわかります。私は彼のこの声に弱いのです。

「…か、活用の仕方なら、他にもあります」
「え?」

…仕方ない。こうなったら、奥の手を使うしかありません。こんな恥ずかしいことはしたくなかったのですが、お尻に尻尾を突っ込まれるよりは何倍もマシです。

「こ、ここを…」

尻尾を自らの性器に巻き付け、私は言いました。

「ここを、こうして…尻尾を使って自分でしますから、早く、後ろを…」
「…そんないやらしい真似、どこで覚えたんだ」
「知りません…っ」

ぼふっとシーツに熱くなった顔を埋めると、坊ちゃんがまた後ろで笑います。

「二輪挿しがそんなに嫌なのか?」
「に、二輪挿しなんて言わないでくださいっ」
「そのいやらしさに免じて今日はやめておいてやるが、いつか絶対に試してやるからな」
「決意を新たにしないで!」
「まぁまぁ、そうかりかりするもんじゃない」
「ん…っ」

彼は私の腰を抱え直し、ゆっくりと動きを再開させました。

「あぁ…っ、あ、っ、ふぅ、う、んんっ」

その動きに合わせるように私も尻尾を上下させ、ちゅこちゅことペニスを扱き上げます。

「んっ、んんっ、は、あ…っ」

二倍になった快感を前に、思考はあっという間に蕩けてしまいました。上半身はへにゃりと力なくベッドに沈み込み、乳首や性器の先端がシーツに擦れ、それがまた刺激となって全身を駆け抜けていきます。

「んやぁ…っ、擦れちゃ、あっ、んん、きもちい…っ」
「自分で擦り付けて、やらしい奴だな…っ」

私はにゃあにゃあと雌猫のように喘ぎながら、段々と強くなっていくピストンを必死で受け止めました。

「あっあっ、あっ、ん、強…っ、あうぅ」
「…っん、なぁ、どこに出して欲しい…?」
「え…っ?」

そんなの、決まっています。

「な、なかに、中に…っ」
「中?」
「んんっ、わ、私の、お尻の中、にっ」

震える声で私は呟きました。

「…は、孕ませて、ぇ…ッ」

ぐぐっと彼のモノが一気に質量を増します。

「馬鹿、お前…っなんてこと、言うんだ…」

切羽詰ったような声が嬉しくて、大きくなったそれを一層強く締め付けました。ペニスを握った尻尾の動きも激しくなり、もうすぐそこに絶頂の波が迫っているのがわかります。

「にゃっ、ぁ…っん、あぁっ、んっ、ん、にゃあ…!!」
「本当に、孕ませるからな…っ、いいんだな…っ?」
「はい、はいっ、あうっ、いいです、いいから早くぅ…っ!」

後ろでくぐもったような声が聞こえたかと思うと、そのすぐ後にお腹の中にぶわりとぬるい液体をぶちまけられた感覚がしました。それでも律動は止むことなく、ぐちゅぐちゅと濡れた空間を何度も抉ってきます。

「あっ、あんんっ、ぐちゅぐちゅするっ、しないで、いく、いく、出ちゃう」
「あぁ…っ、早く、イけ…っ」
「あ゛―――ッ、あっ、だめ、それだめぇぇ…っ!!」

腕を後ろに引かれ、エビ反りになったところをがつがつと突かれて堪え切れるはずもなく、私はとうとう悲鳴をあげて精を吐き出しました。

「あ…〜〜っ、あ、うぅ…っ、あっ、あ…っ」

吐き出された精液はペニスに巻き付いていた尻尾を伝って滴り落ち、シーツを濡らしていきます。坊ちゃんは掴んでいた腕を一旦放すと、ベッドに崩れ落ちた私のうなじにキスをしてくれました。

「大丈夫か?」
「は、い…」

――き、きもちよかった…。

ほう、と余韻で甘い息を吐きます。このままずっとこうして抱き合っていたい、なんて不埒な考えが頭を過りました。普段の私ならばありえない考えです。発情期とやらが未だ思考を支配しているのかもしれません。

「坊ちゃん…」
「ん?」

ちゅ、ちゅ、と首筋に小さなキスを繰り返している彼に呼びかけます。顔が見たい、と私が言うと、彼はいいよと優しい声で返事をして、体勢を変えてくれました。

「え…?」

――そこで私が見たものは。

「は!!!!」

がばっと勢いよく起き上がります。全身汗だくになっていることにはすぐに気がつきましたが、それよりも今はまず、確かめねばならないことがありました。

「坊ちゃん!坊ちゃん!起きてください!」
「んぁ…?なんだにゃはら…まだ僕の子種はいっぱいあるから、そうがっつくにゃ…」
「何が子種ですかこの絶倫猫!」

夢から目を覚ます直前に見たもの。それは。

「いたっ!なんだ騒々しい…せっかくいい夢を見ていたというのに、無理矢理起こすなんてひどいじゃにゃいか」

――私と同じく、猫の耳を生やした坊ちゃんの姿でした。

「その気色の悪い口調を今すぐに正してください。いつまで夢気分でいる気ですか」
「おっと失敬。ついクセで」
「そんなクセ今までなかったでしょう!とってつけたように言わないでください」
「まぁまぁ」

坊ちゃんは眠い目を擦りながらむくりと起き上がります。

「晴れて僕も猫になれたことだし、細かいことは気にせず素直に喜べばいい」

やっぱり!

「あぁっ、そんな…私の見間違いであって欲しかったのに…!」

夢の中だけとはいえ、人間が猫になるなんて馬鹿げた現象は私一人だけで十分だったのに。坊ちゃんにまで耳や尻尾が生えてしまったら、一体どうやって収集をつければいいのでしょう。わかりません。手に負えません。もう無理です。

頭を抱える私を余所に、坊ちゃんはううんと唸り声をあげました。

「目下の悩みは、僕の名前をどうやって猫風にアレンジすればいいかということだけだな。にゃぞむ、じゃちょっと語感が悪くないか?」
「…」

心底どうでもいいです。

end.




名無しさんリクエストで、「にゃはらで甘々」でした。お待たせして申し訳ないです。
にゃはらといえばエロ、ということで終始いたしてるだけの話になりましたすいません…。
途中猫の発情期についてググったり、交尾動画をようつべで見たりしながら書きました。あまり活かせてませんが楽しかったです。
にゃぞむは本当に語感がよくないので他にいい呼び方あったら誰か教えてください…。なんだにゃぞむって…。

素敵なリクエストをありがとうございました!楽しんでいただけますように!

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