エゴイスティックマスター | ナノ


▼ 奥さまは秘書

「疲れた」

僕はデスクに頬杖をつき、そう言った。

「…」
「疲れた」
「…」
「疲れた」
「…」
「つか」
「すみませんが仕事の邪魔なので話しかけないでください」

パソコンのモニターから顔をこちらに向けることもせず冷たい言葉を吐く伊原。椅子から立ち上がってつかつかと傍に近寄る。

「な、なんです突然」
「何の仕事をやっているんだ」
「来月のスケジュール調整です」
「そんなもの後でいい」
「いいわけないでしょう」
「そうだ。今日はもう終わりにしよう」
「何勝手に決めてるんですか。駄目です。それに夜はA商事の方と会食が入っていますし、それまでに片づけておきたいものがまだたくさんあります」
「会食?何故そんな面倒なものを」
「今朝お伝えしたはずです!面倒なんておっしゃらないでください!貴方はもう立派な社会人なんですよ。西園寺の名にふさわしい振る舞いをしていただかないと…」

しまった。このままではまた長ったらしい説教を受けることになってしまう。慌てて話を遮った。

「わかった。じゃあ少し休憩にしよう」
「休憩、ですか」
「お前も朝から働きづめで疲れただろう。ちょっとこっちに来い」
「わっ」

部屋に置いてある応接用のソファに彼を無理矢理座らせ、その脚を枕にして横たわる。所謂膝枕だ。

「…何故私の脚を枕にするんです」
「休憩だと言っただろう」

腰に抱き着いてぐりぐりと額を押し付けると、伊原は僕を退かすのを諦めたのか、少しだけですからねと溜息を吐いた。

「あぁ癒される。最高だ」
「男の膝枕なんてなんの癒しにもならないでしょうに…」
「いや、なかなかに良いぞ。程よい弾力があって」
「…」

軽く額を叩かれた。

「痛いじゃないか。何故叩くんだ」
「…い」
「い?」

見上げる伊原の顔はそこはかとなく赤く染まっている。不思議がる僕に向けて、彼はこう言い放った。

「い…いじわる」
「…」

――なんだって?

「わ、わかってますよ太ったことくらい…!でも仕方ないじゃないですか!この年になるとなかなか一度ついた贅肉は消えなく…」
「何故だ!!!!!!」
「えっ…な、なんです…」

何故お前は…お前は…僕のツボをピンポイントで押して…いや、押すというか連打してくるんだ…!!この小さな身体のどこにそれほどまでの萌えの可能性が…!!

「ワンモアプリーズ」
「え?」
「今の表情で、今の言葉を、もう一度。僕の目を見て…はぁ、はぁ」
「ちょ…息が荒い気持ち悪い!!」

勢いよく起き上がって迫る僕の顔を、必死に手のひらで押し返そうとする伊原。無駄だ。僕の興奮はそんな弱い力じゃ抑えられない。

「ひゃあ!!」

顔を押さえつけていた手のひらにぬろりと舌を這わせる。指の間も、指先も、丁寧に舐っていく。

「や…っ、やめ」
「やめない」
「ん…坊ちゃん、お願いですから…」
「坊ちゃん?」

不満げな声で聞き返すと、伊原ははっとした表情をして再度僕の名を口にした。

「の…望さん、手、離して…」
「恵司」
「!」

かぁ、と物凄い勢いで彼の頬にますます紅が走る。たった一言、僕に名前を呼ばれただけでそんな風になってしまうのだから、全く可愛くて可愛くて可愛くて…以下無限略。とにかく可愛くて仕方ない。

「確かめてやろう。お前が本当に太ったかどうか」
「わぁっ!?」

スーツのボタンを外し、ワイシャツを一気に上まで引き上げる。当然悲鳴があがるが、聞こえなかったことにして目の前に露出された肌に直接手を触れた。

「ひ…っ、ば、馬鹿じゃないんですか…!?」
「なんだ、全然太ってないじゃないか」
「貴方は毎日見てるから気づかないだけなんですよ!!」
「あぁ、そうだな。毎日じっくりたっぷり隅から隅まで見ているな」
「いやらしい言い方をしないでください!!」
「事実だ」
「もう!!離して!!」
「いやだ」
「く…っ!!」

シャツを戻そうとする彼の腕を押さえ、もう片方の手でさわさわと滑らかな肌の感触を味わい続ける。ついでに軽く乳首を抓んでやれば、掴んでいた腕からふにゃりと力が抜けていった。ふふん。僕の勝ちだ。

「あ…っ」
「ん?なんだその声は?」
「へ、変なとこ、触らないで」
「お前の乳首は変なところではない。気持ちいいなら気持ちいいと素直に言えばいいだろう。あぁほら少し触っただけでこんなに硬く…」

腕を押さえる必要がなくなったので、遠慮なく両の指でこりこりと胸の突起を転がしていると、伊原は悔しそうに顔を歪めて僕を見る。

「んっ、お、親父くさいんです…よ、っ言動が…」
「…親父?誰が?」

カチンと来たので強く乳首を捻り上げてやった。

「んやぁっ、やめ、い…っ、いた…」
「今僕のことを親父と言ったな?許さん。許さんぞ夫にそんな暴言を吐くなんて…そんな悪い口は塞がねば」
「んむっ」

唇を塞ぎ素早く舌を潜り込ませると、何度も背中を叩かれた。おい、少々力を込めすぎじゃないか。拒むにしてももうちょっと優しくしてくれないと、さすがの僕も心が折れてしまう。と思いつつも口付けを深くしていく。

「ん…っ、んぁ、あ、ふ…」

段々と背を叩く手の力が弱くなり、終いには申し訳程度の力でスーツの布地を握るだけになった。全く愛い奴め。

「も、だめ、です…っ、私は、まだ、仕事が…」

濃厚なキスですっかりとろとろになってしまった伊原が、それでもなお屈服するまいと必死になっているのがわかる。僕は濡れた彼の唇をぺろりと舐め、囁いた。

「こっちの務めを優先しろ」
「え…?」
「妻として夫を癒すという、大事な大事な務めをな」
「…!!」
「こら、どこへ行く」

慌てて逃げようとする彼のベルトを掴んで引き戻す。ソファの上で四つん這いになったその姿はなかなかにいい眺めで、僕はでれっと頬を緩ませた。

「随分積極的じゃないか」
「は、離して!!」
「今日は後ろから犯して欲しいという意思表示だな?この格好は」
「ひゃうっ!!違います!!ちょっと!!いやらしく人の尻を撫でまわさないで!!」
「安心しろ。扉の鍵は閉めてある。可愛いお前の姿を他の奴に見せたくはないからな」
「誇らしげに言うことですかそれが…っ、ん…」

どこにも逃げられないよう背中に覆いかぶさり、後ろから耳を食む。

「恵司」
「あぁ…っ」

彼の口から小さく息が漏れたのを聞き、笑いがこみ上げてきた。ふふん。お前の弱点は熟知しているんだぞ。何年一緒にいると思っている。

「恵司、僕の可愛い奥さん」
「んは…っ」

ぴちゃぴちゃと音を立てて耳朶から耳の穴まで舐めしゃぶった。伊原はぴくぴくと小刻みに震えている。

「ふ、あぅっ、あ、の…望さ…んん…!」
「ん…?」
「やっ、耳…やめて、ひうぅ…っ」
「気持ちいいか?」
「はぁぁ…ッ!!」

軽く耳に息を吹きかけてやれば、ますます官能的な声が上がった。その様子を見ながらゆっくりと手を下半身に這わせ、ズボンの中、下着の中、と順々に滑り込ませていく。

「…もう硬くなってる」
「貴方が、変なこと、するから…っ」
「強情だな。本当はもう僕に触られたくて仕方がないくせに」
「…っ」

どうやら図星だったようだ。恥ずかしさで顔を上げられないのか、伊原はうつぶせのまま顔をソファに押し付けもごもごと歯切れ悪く何かを呟いている。

「ん?何、聞こえないぞ」
「っだから!」
「だから?」
「…ふ、服を着たままなら…いいです…」
「着衣プレイがお望みか?」

それはそれで萌えるけれども。

「望みませんよそんなこと!こ、こんな明るい所で見られたくないんです!」
「まさか太っただのなんだのを本気で気にしているんじゃあるまいな」
「う…」
「太ってないと言ってるじゃないか。それに僕は多少肉がついても…」
「に、肉…!?やっぱり肉々しい私なんて憎々しくてたまらないと、そう思っていらっしゃるんですね!?」
「そんなににくにく言うな。今日はどうした。被害妄想にも程があるぞ」
「だって、だって…貴方に幻滅されたら」
「余計な心配をするんじゃない。僕はお前がいくら太ったって構わないよ」
「望さんがそんなんだから、私がどんどん駄目になるんですよ!もっと罵って下さい!豚とか家畜とか…」

おいおい。罵られるのは僕の専売特許だ。勝手に人のアイデンティティを奪われては困る。だがお前がそこまで言うのなら、僕も譲歩してやらんこともない。

「じゃあ、一緒にダイエットといこうじゃないか」



めくれあがったシャツの裾から見える白い背中に舌を這わせると、塩気のある汗の味が広がる。ゆるゆると腰を揺すりながら、僕は伊原に尋ねた。

「どうだ…?こんなに、汗を流せば…っ少しは、運動になるだろ?」
「…っぁ、う…」
「…それどころじゃないって感じだな」

腰だけを高く上げたなんともいやらしい格好のまま、伊原は甘い声を上げる。顔が見えないのは残念だが、耳や首筋がほんのりピンク色に染まっているのがわかって、それはそれでそそられる。

「あぁ…伊原、お前は本当に可愛いよ。この汗も全て舐めつくしてしまいたい」
「ひ…っン、ん…やめ、あっ、ぁっ…舐めないで、はぁっ、んんん!」

背中を飽きることなくぺろぺろ舐めながら、手を前に伸ばしペニスを握った。先走りでぐっしょりと濡れたそこを指で弄り回す。あぁ、いやらしい液でここをこんなにして…もったいない!

「お前から分泌されるありとあらゆる汁を僕に舐めさせろ」

舐めるというか…飲ませろ。僕の体内に取り込ませろ。

「もう少しどうにかならないんですかその表現!!」
「急に声が大きくなったな」
「そんな気色の悪いことを言われたら突っ込まずにはいられないでしょう!変態!変態変態変態!ド変態!」
「うっ…ここで婉曲的表現を用いずストレートに罵ってくるとは…さすがだな。もう出そうだ」
「は…っ!貴方、避妊具は…避妊具は、ちゃんとつけてますよね!?この後も仕事なんですから、まさか中に出すなんてことは…あぁんっ!!」

そのまさかだったので、僕はこれ以上追及されまいと腰の動きを激しくさせた。

「てへ」

ついでにしらばっくれておいた。

「んぁっ、か…可愛くない!全く可愛くないので、キャラに合わない言動はやめて!あっ、ちょ…つよい、ですってばぁ…!!」

ぐちゅぐちゅと濡れた中を掻き混ぜていると、手の中のペニスの先端から次々にぬめった液体が滲み出してくる。

「あぁっう、んっんっんっ…はぁっ、あ、中は、だめぇ…っだめ、だめですぅ…っ」

口ではいやいや言いながらもなんだかんだで気持ちの良いことに弱い、この男のそういうところがまたツボなのだ。現に僕の太いものを咥えこんでいるそこは、腰を送り込むたびにきゅうきゅうと締め付けを増していく。

「そんなに、締め付けるな…っうぁ、本当に、中に出してしまうぞ…?」
「だめっ、だ…ッ、あっ、あぁっ、だめなのにぃ…っ」

きもちいい、と伊原が泣きそうな声でそう言った。

「はぁ…っ、お前、そんなこと、言われたら…っ」

当然僕の興奮度合いは限界値を振り切って爆発せんばかりである。ついでにペニスも爆発せんばかりである。

「なぁ、伊原…?」
「えっ…は、はい…?」

ぐっと身体を押し倒して背中にのしかかる。びくびく震える彼の耳元で、僕はとどめの一言を吐いた。

「子どもができるようなこと、しようか」

一呼吸おいて意味を理解したらしい伊原が、真っ赤になって戦慄く。

「…なっ、な…ななななな…こ、子どもって…!!!」
「うっ…!!」

ぎゅうぎゅうと吸い付いてくる内側に思わず声が漏れた。狭い中を無理矢理掻き分けて押し入る。

「もう出るからな、いいな、出すぞ」
「ま、待っ…」

その言葉を無視して先端を最奥に押し付け、勢いよく精を注ぎ込んだ。

「んんんんん…っ!!」

僕の吐精の感覚で達したのか、手のひらに伊原の精液が出される。

「んっ、んぁ、あ…っ、あっ、あっ、あう…」
「はぁ…」

その液を塗り込めるようにぐしゅぐしゅと軽く性器を扱いてやりながら、未だ治まらない射精の快感を味わった。下半身が溶けたんじゃなかろうかと思う程気持ちが良い。

「ふぅ…」
「んぁっ、もう…急に抜かないで」
「あぁ、すまない」

しばらく余韻に浸った後、自身を孔から抜く。こぽりと奥から白濁が垂れてきた。

「…」

そのあまりの淫猥さに目眩がする。いやらしい。いやらしすぎる。こんなエロい光景、見逃すわけにはいかないとばかりに、自分の精液が彼の太ももを伝う様子をじっと眺めた。

「ありがとう…ありがとう…」

というか拝んだ。

「何がありがとうなんです…いい加減にしてくださいよ…」

いつもならば蹴りの一つでも飛んできそうなものだが、伊原はぐったりとソファに力なく突っ伏す。余程疲れたらしい。

「あまりに眼福なので拝ませていただいた」
「人の尻を拝むのはやめてください…」
「お前の尻なら僕は信仰してもいい」
「しなくていいです…大体子づくりなんて、馬鹿じゃないんですか。できるわけないでしょう」
「いや、僕の精子に不可能はないから」
「貴方の精子に不可能はなくても、私の身体に不可能はあります」
「え?」
「本気で聞き返さないでください。人間どうしたってできないことはあるんです」
「お前と僕が一緒にいて、できないことなんてないさ」

それに。

「ちょっと興奮しただろう?」

僕が笑ってそう言うと、伊原はわっと両手で顔を覆った。

「言い返せない自分が憎い…私は、私は…!!」
「いいじゃないか。僕だって興奮した」
「貴方と一緒にしないでください!!」
「まぁまぁ、落ち着け。残った仕事は僕がやっておくから、お前はまずシャワーを浴びなさい」
「えっ…ど、どうしたんです…いつになくそんな紳士的に…」
「妊娠した妻を労わるのは、夫として当然の務めだからな」
「してません!!事実のねつ造!!」
「まぁまぁ」
「わぁ!!ちょっと!!」

そのまま彼の身体を姫抱きにし、備え付けのシャワー室に向かう。

「…どうして望さんまでシャワー室に。私の代わりに仕事をやってくださるんじゃないんですか」
「妊娠した妻を労わるのは、夫として当然の務めだからな」
「だから妊娠なんてしてません!!二回目!!」
「僕だって汗をかいたし、汗くさいままで会食に行くのも相手に迷惑だろう。二人で同時に入れば時間の節約だ」
「貴方って本当に口だけはうまいですよね」

さすがにこの体勢で暴れるのは危ないと判断したのか、伊原は文句を言いつつも大人しく僕の首に捕まった。賢明な選択だ、と額に口付けてやる。

「こんなキスくらいでごまかされてやりませんから」
「じゃあ、後でお前の好きな店のケーキを買ってやろう。それとも、会食の後その店で二人でワインでも飲んで帰るか?」
「えっいいんですか?」

予想通りの食いつきっぷりに笑いながら、僕は言ってはいけない言葉を口に出してしまった。

「そんなことばかりしてるから太るんじゃないか?」
「!!」
「まぁ僕は一向に構わないし、お前がぷに腹ならぬぷに原になったとしてもそれはそれで…」
「…嫌いです」
「え?」
「坊ちゃんなんか嫌いです!このデリカシー無さ男!」
「嫌い!?撤回しろ!!大好き愛してるに言い直しなさい!!それにデリカシー無さ男とは誰のことだ!?」
「うるさいうるさい!!もう下ろして!!」
「嫌だね!お前がその気なら死んでも下ろさないね!」

――結局、僕はこの失言を許してもらうのに三日を費やす羽目になった。

end.




メグヲさんリクで、「結婚後の二人の話」でした!わかりにくいですが社長室です。これもオフィスエッチというのだろうか…。
望はそのまま西園寺グループの会社うちの一つを継ぎ、伊原は社長となった望の秘書になっていると思います。
夫婦っぽさを出すためにも、太ったかどうかを気にしてみたり、ケーキひとつで喜んでみたり、割と普通に望に甘えられるようになっている伊原を意識して書いてみました。
実はこの話をいただいたときに、「プロポーズの話にしよう!」と途中まで別のストーリーで書いていたのですが、「あれ…これまだ嫁じゃないじゃん…あとまたシリアス展開にしてしまった…リク内容と違う気がする…」と気がついて慌ててこの話にシフトさせたという…。プロポーズの話はまた近いうち完成させて公開したいなぁと考えています。というか今書き進めてます。

素敵なリクエストをありがとうございました!楽しんでいただけますように!

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[ topmokuji ]



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