あったかいけれど
がたん、と重いものが重力に従い落ちる時の鈍く重い音を聴いた。今自分が居る場所を考えればそれは恐らく、扉に掛けられていた重くて大きい閂が外された音であろう。厚い鉄の扉越しに感じる霊圧が自分のよく知る者のそれであることも相俟って、警戒は抱かなかった。推測ばかりではあるが、間違っているとは思わない。それに付随するだけの実力を有してしまうと、どうも、本能的なところでなんとなく解ってしまうのだ。

やっとこの息苦しい場所から解放されると思うと、自然に溜め息が漏れる。何時までもこんな居心地の悪いところに留まっているなど、余程の好き者でない限り、もう二度と御免被りたい。好き好んでこの様な場所にいるなど、その人物の思考回路を疑いたくなる。

しかし身体を動かすことも気怠く、体勢を整えるだけに終わった。想像以上にダメージは大きかったらしい。自覚すると、ずきずきと鈍痛に見舞われた。

「…手加減つうものを知らねぇのか、護廷の阿呆共は…」

常人だったら死んでてもおかしくねぇぞ、色々と恨み辛みの籠もった言葉を吐き捨て、ぎぎぎ、と軋んだ音を立て開かれていく扉を静かに見据える。開いた隙間から差し込む光に顔を顰め、腕で目を覆った。暗闇に慣れた目は突然の視界の変化に対応仕切れず、ちかちかと星が散ったような気さえする。それも少し経てば慣れていき、しっかりと対象を目視できるまでになった。

「随分とまぁ、無様な姿ですねぇ。貴方ともあろう人が。それとも何ですか?油断でも、したんですか?」

「直兄大丈夫ー?生きてるよね?」

呆れたような冷たい声と、無邪気で楽しげな声。対照的な二つの声に、苦笑を漏らしつつも上がる口角を抑えられない。つくづくも自分の神経を逆撫でする男と、純粋に、けれども完全にそうではなく、無邪気に己を慕う幼子と。



貼り付けた笑みのまま此方へ足を進める旭が嗤った。恐らく自分も同じような顔をしていることだろう。

「それで、わざわざ呼び出した御用件は一体なんです? ふざけた内容だったらそのお綺麗な顔を潰しますよ」

「…本気で言ったな。冗談じゃねぇなそれ。実際にそれをお前は実行すんだろうが」

「当たり前でしょう」

「は、救いようがねーな。その性格の捻じ曲がり具合は」

「お互い様です」

「全力でお断りだ。何故俺とお前が一緒にされなきゃなんねえんだ。俺はそんなお前ほど性格捻じ曲がってねぇよ」

「おや気づいてないんですか?貴方も僕に引けを取らないくらいには捻じ曲がってますよ」

「嘘吐け」

「事実です」

「直兄も旭兄も僕を置いてきぼりにしないでよ!」


延々と続きそうな口論に歯止めをして、ぷくりと旬は頬を膨らませた。その姿は河豚のように見えて、怒りよりも可愛らしさのほうが勝った。思わず頭を撫でてしまいそうになるくらいには愛らしい。

ぴたりと水を打ったように口論が止まり、ゆるゆるに緩んでいた空気はぴりぴりと張り詰め真剣なものに変わる。表情も先ほどまでのふざけていたものから一転、眼に力強い光を宿しきりりと引き締まったものになった。一気に堅く真剣なものに変じた空気に、思わず背筋をぴっと正した。
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