辿り着いた倉庫の扉には、見た目の通り頑丈で重く大きな閂がしっかりと掛かっていた。

「………とどかないし」

自分の頭二つ分くらい上にある閂を見上げながらも不機嫌そうに睨みつけて、苛々とした声音で吐き捨てた。旬の身長では背伸びをしても遥かに及ばない高さに設置された閂は、手がとどきさえすれば開けることができる。手がとどきさえすれば。

それなりに力はあるつもりだし、幼い見た目に反してそれを裏切る要素が自分には多い。そのことは自覚しているつもりだったし、それを利用したことも幾度かあった。しかし今回ばかりは自身のその見た目と中身とのギャップの差を恨みたい。

試しにその場でぴょんぴょんとジャンプをしてみるが、手がとどくどころか掠りさえしない。ならばと助走もつけて跳んでみたがこれも結果は同じだった。
開けられるのに開けられない。開けたいのに開けられない。とどけば開けられるのにとどかない。とどかないけど開けられる。

そんな葛藤に板挟みにされ、苛々が急速に募っていく。開けられないなら壊してしまえ。最後にはその結論に至った。手っ取り早いからぶち壊してしまえ、である。

よし、と決断を下してからの旬の行動は速かった。決めたからには行動は迅速に手早く。躊躇いなく行動に移す。一瞬の躊躇が命取りになる場合もあるから、これと決めたからには即座に行動に移せと、そう教えこまれていたから、なんの迷いもなく動いた。



扉から五歩ほど後退り、片手を扉に向けて突き出す。集中してやらないと暴発したりとんでもない方向に向かったりするからしっかりと集中を高め、破壊する為にぎらりと扉を睨みつけた。邪魔な障害物をぶち壊そうと術を放つ構えになり、さあこれから術をぶちかましてやろうと意識を集中させた右掌にどす黒い光を纏った力が収束していく。準備は万全、目標物はしっかりと補足した。

あとは術の名を口にして、それを重く堅く閉ざされた扉にぶつけるだけ。術の名を紡ぎ、それをぶちかます為に旬が口を開きかけた、その時。

「おやおや、こんなところで零式舞なんて物騒なものはいけませんよ、旬」

「あ、旭兄」

タイミングがいいのか悪いのか、旭は音も気配もなく旬の隣に現れ構えていた右手を掴み、やんわりと掌に収束していた力を拡散させる。きょとりとした表情を一瞬浮かべたものの、旬は即座に笑顔になり、嬉しそうに微笑んだ。術を止められたことに関する文句はない。自分以外の人物が現れたことで、わざわざ扉を破壊する手間が省けただけだ。つまりは自分より身長があるから自分ではとどかなかった閂に手がとどく。

「旭兄、丁度よかった。閂、開けて。僕じゃとどかないから。壊そうと思ってたからほんとによかった」

「いいですよ。というより元々その為に来ましたし。破壊されるよりマシです。でも、破壊するなら術でなくて蹴り壊してもよかったのでは?」

「あ、そっか」

にこりにこりと互いに笑顔を浮かべつつも交わされる言葉は物凄く物騒である。旬は旭の影響を受けた所為か、どこか性格に難があるし、旭は言わずもがなの性格。そんな二人の会話はやはりどこかずれていた。



がたりと閂を抜いて、地面に落とす。ごとりと落下の際に聴いた大きな音に少々顔を歪め、旭は扉をゆっくりと押し開ける。旬から早く開ければいいのにという意味合いを込めた視線を向けられたがスルーした。




声を掛ければ軽口を返されたことから、そこそこ元気であると判断する。動けないほど重傷ならば聴こえる呼吸音はもっと小さく弱々しい筈で、傷のダメージにより動けない様子ではあるが、然程のダメージではないらしい。少なくとも口論ができるぐらいの元気は有り余っていると見た。

旬を放置し口論を始めた直弥と旭に割って入れば直弥からは生温かい視線を向けられた。しかしすぐに張り詰めた空気で、多少の不快感はすぐに拭いさられた。真剣味を帯びた雰囲気に背筋を直した二人に倣い旬も背筋を正した。
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