「ああ、もうやってらんないっ。なんだよ、この量。全然減りやしない」
大量に集めた資料の整理をしていた可奈が手を止め、お手上げとばかりに盛大な溜息を吐くと、想はキーボードを叩いていた手を止めた。視線だけを可奈に向け咎めるように藍色の瞳を細めたかと思うと、ぴしゃりと切って捨てた。
「――そう思うなら、初めから首を突っ込まなければ良かったんです」
「そんなことできるわけないじゃん!」
いーだ、と子供のように舌を出す可奈に向かって、想はあからさまに顔をしかめながら続けた。
「それなら、ちゃんと自分がすべきことをしてくださいね」
言いながら彼が浮かべたのは、人の良さそうな、それでいて反論など許さないと言わんばかりのやたら強制力のある笑顔だった。自分も働いているのだから、言い出したことに対して責任を持て、と。それは至極尤もな言い分であるし、彼を巻き込んでしまった手前、反論などしようもない。
ふぅ…とひとつ溜息を吐いて作業を再開すると、彼も再び画面に向かった。
融通が利かないと思うことも多々あるが、彼を好ましく感じるのはこういうところだ。そんな関係が心地よい。
可奈とて無責任に放棄するつもりはないが、一旦引き受けたことに対してはつべこべ言わず、反故にはしない。なんだかんだと言いつつ、関わったことに関しては誠実に対応するこの人に惹かれているのだ。