この島と言えるような陸地の周りに溜まっている水が全く無い所は一度も見た事がない。 いつも一定の量で溜まっている。 ふと、前ここでそんな風に話していた事が頭によぎったけれど、今はあまり深く考えなかった。 「母上、どうしたの?」 木を背に座る私の膝の上に座った、愛しくてたまらない存在の男の子。 幼いながら凛々しさを感じるような瞳をしたその子はそう口にする。 何でもないと、笑顔を作って見せたらその子は笑顔を見せた。 ささっと葉がなる音がしたかと思えば、木の上から彼が降りて来て。 「ヤエ…」 「何かしら?」 私の名前を口にした彼は、そう言うと寂しげな表情を微かに浮かべ、俯いた。 私は寂しげな表情を浮かべたつもりは無いのだけれど、いつもと違ったのか彼には分かったらしくて。 「大丈夫でゴザルか…?」 そう言って私を心配してくれた。 「大丈夫よ。…姿形が変わっても……サスケはサスケよ?」 「そうなのでゴザルが…いいのでゴザルか?」 姿形が変われば、私が彼から引いてしまう、彼はそんな心配をしているのだろうか。 そんな心配は全くいらない。 貴方は…サスケはサスケなのだから。 ただ、私の中の何処かにある心配、それは。 「ねえサスケ…こっちに来てひとつ聞いてくれないかしら…?」 「ん…何でゴザルか…?」 私が言った通りに彼、サスケは隣に来て座って、私の話を聞いてくれる。 「姿形が変わったら…この子の事…忘れたりしないわよね…?」 そう、姿形が変わるのなら、記憶もなくなり変わってしまうのではないか。 忘れてしまうのではないか。 何処かにあった心配を口から言葉にして出す。 「…大切な者を、この子を…」 小さな手と体で私とこの子を抱き締めてそう言って。 私は静かに彼に自身を預け、彼の言葉を耳にする。 「…ヤエを忘れたりなどしないでゴザルよ」 「…うん…」 今まで、何度も彼が言ってくれた言葉で安心して、今もこうして安心した。 「この、出雲大社の周りの水が、いつ来ても同じ一定の量で溜まっていて変わらないように、姿形は変わっても…記憶がなくなる事は、変わる事はないでゴザルよ」 「…うん」 そっと離れて言う彼も、私には愛しくてたまらない存在で。 小さい体でも心は大きくて。 そんな彼がいるから毎日が楽しかった。 お互いに人助けをしながらこの子の世話をしたりして。 それはこれからも変わらないわ。 「明日お父さんはもっと強くなって、その後暫くは、中々家に帰って来る事が出来なくなっちゃうかもしれないけれど、大丈夫?」 「父上明日もっと強くなるんだよね!全然大丈夫!拙者ももっと強くなって、父上に追いつきたい!」 「必ず追いつけるでゴザルよ」 「うん!」 三人でよく来た出雲大社。 その木の下で、私とサスケの宝物はにっこりと笑顔を見せるのだった。 |