約束


「本当にやるのかい?ヤエちゃん」

空に浮かぶ町、浮世町。
歩いていたゴエモンは立ち止まり、ヤエに聞いた。
ヤエは立ち止まり、サスケとエビス丸も立ち止まる。

「ええ。もしかしたら、手形があるかもしれないでしょ?」
「それはそうだけどよ…」

お嫁に行けなくなるかもしれないんだろ?とゴエモンは付け足す。
子供の悩みを解決する仕事がこの町にはある。
働くためには紹介状というものが必要らしい。
ヤエは手形があるかもしれないと、それを貰いに行った。
その時に「あんたみたいな可愛い娘があんな所で。お嫁に行けなくなってからでは遅いズキン」と、三角ずきんという者に言われたらしいのだ。

「…その時はその時よ」

ゴエモンの言葉に数秒無言になったヤエだったが、笑顔を見せてそう言った。

それから少し歩き、ゴエモン達は仕事場へと着く。
仕事場である家の前には、紹介状をくれた三角ずきんとは別の三角ずきんが立っている。

「覚悟は出来ているんだな。さっさと中に入って準備しろ!」

三角ずきんがそう言うと、ヤエは家の中へと入って行った。

それから少し時間が経ち、ヤエは家の中から出て来た。

「ヤエちゃん!」
「待たせてごめんなさい。はい、報酬で手形をもらったわ」

笑顔を見せてヤエはそう言うが、ゴエモン達は大丈夫だったのかとばかり思う。
エビス丸が大丈夫だったのかと聞いたが、ヤエは大丈夫と言って笑顔を見せた。
ヤエがそう言うので、エビス丸は安心し、ゴエモンも少し安心する。
しかし、サスケだけは安心した表情を作り見せていた。

それからゴエモン達は宿へ向かう。
今日はここで休む事にしたのだ。
ゴエモン達が眠りにおちた中、サスケはヤエがいる部屋へと向かう。
昼はほとんど何も言わなかったが、サスケはヤエの事を一番心配しているのだった。

「……ヤエ殿、起きているでゴザルか?」

ヤエの寝る部屋に着き、小さな声でそう言うが、ヤエからの返事は帰って来ない。
もう寝たのだろうかとサスケは思ったが、襖が少し開いている事に気付く
中に、ヤエの姿はなかった。

「ヤエ殿…?」

外だろうか、とサスケは思い、外に出る。

近くの橋の上に、ヤエの姿はあった。
声をかけようと近付こうとしたその時、ヤエは独り言を口にする。

「…お嫁…行けなくなっちゃったかな」
「そんな事はないでゴザル!!」
「えっ…!?」

独り言を聞いたサスケは思わず大きな声でそう言い、ヤエは驚く。

「そ…その…お…お嫁に行けなくなった事など、ぜ、絶対にないでゴザル…!」
「サスケさん……」
「ヤエ殿は…必ずいつか…お、お嫁に行けるでゴザルよ…!」

それを聞いたヤエはサスケの元へと走り、サスケを強く抱き締める。

「…!?」
「…そう…だといいわね…」
「そ、そうに決まっているでゴザル…!!」
「…うん…」

涙声でそう言った事にサスケは気付き、ヤエを抱き締める。

「…正直…ヤエ殿がお嫁に行ってしまうのは…拙者にとって寂しいでゴザルが…」
「え……?サスケさん…今なんて…」
「………」

もう一度と言えない事を呟いてしまったとサスケは思う。

「……サスケさん」
「な…何でゴザルか…?」

少し間を置いて、ヤエは言葉を口にする。

「…私は、サスケさんが大好きよ」
「や…ヤエ殿…そ…それは拙者も同じでゴザルが…」
「からくりロボットだから、って…?」
「そ…そうでゴザル。だからヤエ殿は…拙者ではなく他の者を…」

そうサスケが言った時、ヤエは抱き締める力を強めた。

「前も言ったわ。サスケさんだから。好きだから。そんな事関係ないわ」
「ヤエ殿………」

自分がもしも人間だったら。
からくりだなんてそんな事は気にせずに気持ちを言えた。
自分が人間だったら、とサスケは何度か思って来た。

しかしもし自分が人間だったら。

ヤエどころか物知りじいさんやゴエモンやエビス丸や、みんなには出会えていなかっただろうとサスケは思ったのだ。

からくりでよかった。
こうして沢山の人達に出会う事が出来て。
大切な人、愛する人に出会えたのだから。

「………いつか」
「…いつか……?」
「その…拙者の…お…………よめさんに………な…なっていただけるでゴザルか……?」
「…いいの…?」
「も…もちろんでゴザル……!」
「ありがとう…もちろん…喜んで」

夜空の下、橋の上で、大切な約束を二人は交わすのだった

[*前] [TOPへ] [次#]