傷付こうとも


ここは何処なんだ?
辺りはまるで夜のように真っ暗だ。

光がない、どこを見渡しても見当たらない。
だけど、何故か自分の姿だけははっきりと見えた。
そもそも僕はどうしてこんな所に?

落ち着いて考えてみた。
はっきりと見える僕自身が腕を組む。
頭の中に浮かんできたのは魔物の姿。
並の魔物ではない、巨大な魔物の姿。
けれど姿形までは、はっきりしなかった。

そうだ、僕はその魔物と戦っていたはずだ。
それからの記憶がないように思える。
もう一度思いだそうとした時、僕は“目覚めた”

「マスター…気がつかれましたか」
「え、ファイ…?」

目先に映ったのは、精霊ファイの姿だった。
何度か瞬きをして、僕は辺りを見回す。
木材で作られた机や椅子、タンスなどが目に映った。
どうやらここは騎士学校の僕の部屋らしい。
意識がはっきりして、先程の場所…光景は夢だという事がわかった。

横たわっていた僕は起き上がる。
それと同時に、右腕に激痛が走った。

どうやら強く痛めたらしい。
僕は左手で右腕を押さえた。

「そ…そうか、僕は魔物との戦いで…」

敗れた、そうして僕は気を失った。
気を失う寸前、腕に強い衝撃を受けた記憶が微かにあった。

「マスター…お力になれず、申し訳ありません」
「いや、ファイは悪くないよ。僕の力不足だ」

油断してしまっていたのかもしれない。
しっかりと動きを見るべきだったと思う。

「ファイ、あの魔物の分析は出来た?」
「イエス、マスター。先程の戦いで分析は完了しております」
「じゃあ行こう。休んでなんかいられない」

こんな所で立ち止まる訳にはいかない。
負けていられない。
僕は気合いをいれた。

「マスター…ファイは休んでから出発する事を推奨します」

右腕に走る激痛に耐えながら僕は立ち上がり、ファイを見て言葉を口にする。

「ありがとう、ファイ。僕は大丈夫」

眠りについてしまったゼルダを、起こしに行くと約束した。
少しでも早く目的を果たして、ゼルダを迎えに行きたい。
そのためなら、痛みなどどうって事もないんだ。

「ゼルダが待ってる。行こう、ファイ」
「…イエス、マスター」

薬を持っていく事を推奨します、ファイの言葉に僕は頷く。
剣と盾を背負い、僕達は騎士学校を後にした。

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