痺れる程の愛を君に
その日はボンゴレの屋敷で内輪だけの小さなパーティーが行われていた。
同盟ファミリーのトップや、その次期後継者など多数の関係者が出席していて私も準備に大忙し。
周りは「名前がそんな事をする必要はない」と口を揃えて言うけど、元はお手伝いとして此処に置いて貰っていた身。接客は無理でも、雑用に関しては手慣れたものだ。
そんな私がメイド長さんの指示で足りなくなったお酒の補充に倉庫まで向かっていた時の事。廊下の角の辺りから女性の話し声が聞こえて来た。
「ずっと好きでした」
しかも非常に気まずい場面に遭遇してしまったらしい。これは倉庫までのルートを変えた方が良さそうだ。そう思い、来た道を戻ろうとした私は。
「骸様」
相手の女性が告げた名前にピタリと足を止めた。――骸。それは私も良く知る人の名だ。ボンゴレ霧の守護者、六道骸。
「貴方様をずっと前からお慕いしておりました」
じゃあ女性が想いを伝えている相手は骸さん?
それが分かった途端、何故か胸の中にモヤモヤとした感情が漂い始める。――何だろう、これ。
(凄く…気持ち悪い)
私はズキリと痛む胸を押さえながら、後ろの壁に凭れ掛かった。
二人の話を盗み聞きするつもり何て無いのに、骸さんがどう返事をするのか気になって…。いけない事だと分かりつつ、私はそっと耳を傾ける。
すると長い長い沈黙の後に骸さんが口を開いた。
「気持ちはとても嬉しいのですが、僕には既に心に決めた女性が居ます。ですから貴女の気持ちに答える事は出来ません」
けれど、それを聞いた私は愕然とする。『心に決めた女性』それはつまり、骸さんには想い人が居ると言う事になる。瞬間、目の前が真っ暗になって。気が付くと私はその場から逃げ出していた。
◇ ◇ ◇
「…はあ…はあ…」
騒がしい屋敷を飛び出し、静かな庭へと向かった私。木の幹に手を着いて、荒い呼吸を整える。
ショックだった。骸さんに好きな人が居た事が…。でも、それと同じ位ショックだったのは…。
(――私、骸さんの事が…好き…だったんだ)
こんな状況にならなければ気付けなかった、自分の想いだ。失恋してから気付く何て、どれだけ間抜けなんだろう。情けなくて涙が出そうになる。
「本当に…間抜け」
私は立っているのもままならなくなり、その場にペタリと座り込んだ。