痺れる程の愛を君に
膝を抱え、蹲(うずくま)っていると誰かが近付いて来る気配を感じた。
恐らく、こう言う時に何時も決まって私を一番に探しに来る“あの人”
「やれやれ。こんな所に居たのですか、名前」
私が落ち込んでいる時や泣きそうな時。何故かそれを察し、何処からともなく現れて必ず傍にいてくれる……六道骸さん。
「クフフ。君が仕事をさぼる何て珍しいですね。何かあったのですか?」
だけど今日だけは優しくしないで欲しかった。芽生えたばかりの淡い感情が、本人を前に溢れてしまいそうになるから。
「な、んでもありません。少し疲れてしまって。…直ぐに戻りますから」
私は自分の想いを悟られないよう、努めて明るくそう告げる。けれど骸さんは静に首を横に振り、私の隣に腰掛けた。
「隠そうとしても無駄ですよ。前に言ったでしょう?『君の気持ちは手に取るように分かる』と」
だから何があったのか話してくれませんか?優しく細められたオッドアイが私に語り掛ける。
そんな眼差しで見つめられては『何でもない』とは、もう言えない。きっと骸さんは私が話すまで此処を動かないだろう。
「大した、事ではないん…です。ただ少し…ショックな事が…あって」
諦め混じりにポツリ、ポツリと話し始めた瞬間、目頭が熱くなり、同時に鼻の奥がツンした。
「名前?」
骸さんの心配そうな声が聞こえる。泣いては駄目。分かっているのに、自分の感情を抑える事が出来なくて…。堪えていたものが溢れ出して来る。
「名前、どうしたのですか!?一体何が――」
「…ごめ…な、さい」
駄目。告げては駄目だ。
「私…骸さんの、事が」
この想いは告げてはいけない。そう思うのに…。
「――好き、何です」
言わずには――居られなかった。ザー…と、私達の間を一陣の風が通り抜けて行く。さっき廊下で告白をされていた時と同じように、骸さんは沈黙。黙り込んでしまった。
当然だ。さっきの女性と違って私達は同じ屋敷に住んでいる。毎日顔を合わせなければならない相手に「好き」と言われて困らない筈がなかった。
優しい骸さんの事だ。きっと私が傷つかなくて良いよう、最善の返答を考えてくれているのだろう。でもそれが返って悲しかった。――これ以上優しくしないで。好きにさせないで。貴方の傍に居る事が辛くなるから…。