[刀]

(何故こうなった・・・)

私の今の心情はこの一言に尽きる。
場所は陰陽師の本家である花開院家。
目の前にはその花開院家十三代目当主である花開院秀元さん。
そして何故か私に差し出される祢々切丸・・・
そう、祢々切丸。
あ・の・祢々切丸だ。
・・・・・・・・・・うん、もう一度改めて言おう。

(何故こうなった!!!)

内心絶叫の私に対して、秀元さんは始終楽しそうに目を細めていた・・・



原因を挙げるならば、やはりあの言霊の力を使って始めて妖を滅してしまった事だろうか・・・
いや違うな。
私の力の事はバレて無い、はず。
やっぱりこの現状の直接的な原因は、是光さんが持たせてくれた護符が焼消えるほどの力を持った妖に襲われた事自体だろう。
しかもあの護符はただの護符ではなかった。
是光さんの弟であり花開院家十三代目当主でもある秀元さんが作った自信作だったのだ。
つまりそん所そこらの護符より威力ははるかに強い。
そんな護符が焼消えてしまう程の力を持った妖に襲われて、尚且つ私がそれを黙っていたからその事実を知った時の是光さんの迫力は凄かった。
何故黙っていたのですか、やはり護衛を付けるべきです、護衛の報酬?そんなもの私が自腹を切るまでです!と凄い勢いだった・・・
うん、心配してくれるのは凄く嬉しいし有り難いけど護衛は真面目に嫌だった。
だから何とか説得して勘弁してもらう交換条件が、新たに護符を数枚持ち歩く事と秀元さんが新たに作るに退魔刀の所持だ。
そして今日はその退魔刀が出来たという話を是光さんから聞いた。
・・・確かにその話をする間ずっと是光さんが渋い顔をしていたのは気になっていた。
さらに言えば、是光さんが手ぶらだった事も気になっていた。
退魔刀が出来ました、ではその肝心の退魔刀は?
首を傾げる私に、是光さんは至極申し訳無さそうな顔をした。
そして何故か、私はその後花開院家へと連れて来られたわけだ・・・


「いやぁ是光兄さんがあない必死な顔で、しかもボクに頼み込んでくるなんて珍しいもんやからね!そこまでさせる子なんていったいどないな子なんやろ〜って見たくなるのも当然やと思わん?」
「はぁ・・・」

花開院家で待ち構えていたのは笑顔の秀元さん。
是光さんの話によると、退魔刀は完成したが自分から直接渡すと言って聞かなかったらしい。
最初は是光さんも私を連れて来るなんて無理だとか、何を考えているんだとか色々と言ってくれたらしいけど・・・

(まぁ是光さんが秀元さんに口で勝てるわけがないよね・・・)

疲れきった顔をしている是光さんをチラリと振り返り、私は凄く申し訳ない気分になってしまった。
そしてそんな是光さんとは正反対にとってもいい笑顔の秀元さん。

「麻衣姫さんボクの想像以上やったわぁ。堅物の是光兄さんがあないなるのも無理ないかもしれへんね」
「秀元ぉぉぉおおおおお!!!」

是光さんの怒声にも秀元さんは笑顔を浮かべるのみだ。
うん、秀元さんが私の何を見てどう想像以上だったのかはあえて聞かない事にしよう。
それより今はこれ以上是光さんのストレスと血圧の上昇を抑えるためにも早々と帰った方がよさそうだ。
私はそう判断するとスッと姿勢を正した。

「此度は私などのために花開院家十三代目当主自ら退魔刀を」
「あぁ、硬い事は無しやで麻衣姫さん。」

私の言葉を秀元さんはヒラヒラと手を振りながら笑顔で遮った。
そんな秀元さんの態度に是光さんはまた怒声を上げ小言を続けるが、秀元さんは気にした様子も無い。
思わずその光景に苦笑を浮べれば、秀元さんも笑みを浮べた。
そしてやっと本題の退魔刀が私の前へと差し出される。

「これが麻衣姫さんのために作ったボク自信作の退魔刀や。」
「うわぁ、素敵な装飾ですねぇ・・・・・えっ?

思わず差し出された退魔刀を見たまま硬直。
うん、この装飾見たことがある気がする・・・

(えっ?気のせいだよね?似てるだけだよね?)

表情には出さないが内心冷や汗ダラダラな私。
しかしそんな私に秀元さんは笑顔のまま止めを刺した。

「名前は『祢々切丸』。ボクの最高傑作や」
「辞退させて頂きます」

名前を聞いた瞬間、即行頭を下げてそう言った。
是光さんが「どういう事ですが麻衣姫様!」とか言ってるけど、今はそれを気にしてるだけの余裕が無い。
だって、祢々切丸ってあれじゃない、珱が持つべきものじゃない。

(それを私が持ったらダメでしょー・・・)

思わず顔が引き攣りそうになる。
しかし秀元さんは私に祢々切丸を差し出したまま不思議そうに首を傾げる。

「御代の事やったら是光兄さんからたっぷり貰っとるから気にせんでもええよ?」
「いえ、御代が問題というわけじゃなく・・・って、これ是光さんが払ったんですか?!

そんな話聞いてない!
御代について聞いたら「大丈夫です」の一点張りだったから気になってはいたけどまさかの是光さんの自腹だったとは!!!

「なっなおさら頂くわけにはいきません!」
「麻衣姫様、お約束が違います!!!」
「いやいや、だってこれ凄く高いでしょ?!高いですよね?!そんな高価な物貰えませんって!」
「あっもしかしてどこか気に食わんところでもあるん?」
「きっ気に食わないなんてとんでもない!私には勿体無さ過ぎますよ!これほど素晴らしい退魔刀でしたら、私より珱に持たせた方が・・・」
「珱姫さんには是光兄さんがついとるやん」
「そっそうですけど、念には念をと言いますか・・・用心するに越した事はないじゃないですか!」
「でも麻衣姫さんにもしもの事があったら・・・・・珱姫さん、凄く悲しむと思うんやけど」
「うっ・・・・・」

秀元さんの言葉に思わずたじろぐ。
自惚れなんかじゃなくて、きっと珱は私が妖に襲われたと聞けば心配するだろう。
怪我でもしたら泣きながら治療してくれると思う。
もしも死にでもしたら・・・・・あぁぁぁぁ、想像したくない!
珱の辛く悲しそうな表情が一瞬頭を過ぎり、罪悪感とかでグラグラと盛大に揺れる心。
そんな私に秀元さんは言葉を続ける。

「是光兄さんとも約束しとるんやろ?ボクも折角作ったんやし、麻衣姫さんに持っといてもらいたいんやけど」
「でっでも・・・」
「麻衣姫様」

あぁ、是光さんの視線が真っ直ぐ過ぎて痛い・・・
もう本当に、心から思う。

(何故こうなった・・・)

結局その後、私は二人に負け祢々切丸を受け取る事になってしまった・・・
でも受け取る時にコソッと秀元さんに言われた言葉。

「・・・まぁ麻衣姫さんにはあんまり必要の無い物かもしれんけど、是光兄さんを安心さすためやと思って持っといてな」

うん、さすが花開院家十三代目当主。
どこまで分かってるのかは知らないけど、少なくとも私に何らかの力があるってのには気付いているらしい。

「・・・・・善処します」

祢々切丸を受け取って、私は笑顔の秀元さんにどっと疲れを感じてしまった・・・



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