2.5
麻衣から切原と付き合う事になったと報告を受けてから数日。
応援すると決めはしたもののやはり心配な気持ちは変わらない。
いや、むしろ日が経つごとに酷くなっている気がする。
そしてとうとう限界を迎えた私は顧問の先生の都合で部活が休みなった今日、久しぶりに麻衣がいるであろう図書準備室へと顔を覗かせた。
「麻衣?」
「あれっ、莉緒ちゃんどうしたの?部活は?」
「高梨先生が今日は集まりがあるから休みなの」
窓際のいつもの席。
そこに麻衣は問題集を広げて座っていた。
向かいの椅子を引いて私も座り、何となく外に目を向ければ見える光景に思わず溜息を吐く。
・・・相変わらずここからはテニスコートがよく見える。
距離はあるが、視界を遮る物が無いので麻衣がここを気に入ってるのを知っていた。
「莉緒ちゃん?」
「ん?」
「どーしたの?」
「別に・・・あっ、私も今日出た課題ここでやっちゃおうかな」
そう言って鞄から数学の問題集を取り出す。
目を向ければ笑顔を浮かべる麻衣の姿。
私もそれに笑い返してから、とりあえず問題を解いてからそれとなく麻衣に切原とどうなってるのか聞いてみようと思った・・・
課題に取り掛かって、気づけば30分程経っていた。
いかん、静かだから思っていた以上に集中してしまったと私は慌てて顔を上げる。
しかしそこには窓の外へと視線を向ける麻衣の姿。
その視線の先を追えば、思ったとおりの人物がいた。
3年相手の練習試合。
でも勝敗はもう明らかな状態だった。
ほんと、テニスをしてるところだけ見るとモテる理由も分からなくもないんだけど・・・
「ねぇ、麻衣?」
「えっ?!あっ、何?」
「・・・切原とどんな感じ?」
見惚れていたのか、いきなり私が話しかけた事に驚いた様子で視線をこちらに向けた麻衣。
けれど、続けて発した私の問いには首を傾げた。
「えと、どんな感じって?」
「付き合い始めてどう?って意味」
麻衣は切原と一緒のクラスになった事は無い。
私は何の呪いだか知らないけど中2、中3と、今年また一緒のクラスになってしまったけど・・・
今まで遠くからしか見た事がなかった切原と付き合い始めて、麻衣の中で何かが変わったとかないんだろうかと疑問に思った。
主に悪い方向面で・・・
けれど先ほどの麻衣の視線や表情を見る限り、幻滅したなんて答えは期待出来そうにはない。
私がそっと溜息を吐きつつも答えを待っていると、どこか困ったような表情で麻衣が口を開く。
「ん〜〜〜どうって言われても・・・あの日から会ってないから」
「はぁっ?!」
聞こえてきた言葉に私は思わずバンッと机に手をついて立ち上がる。
そんな私の行動にビックリしたように目を丸くしている麻衣だけど、本当に驚いているのは私の方だ。
「何で?!」
「えっ?何でって?」
「だから何で会ってないの?!」
当然の疑問だろう!
しかし麻衣は首を傾げて困ったような顔をする。
「だって、特別な用事も無いし・・・」
「無くても会いに行ってもいいのが恋人でしょ!」
「でっでも、切原君部活とかで忙しいだろうし・・・
ここから見てるだけでも私は幸せだし」
「それじゃー今までと何にも変わらないでしょ!!!」
そのまま話を聞けば、会話をしたのも告白した時以降無く連絡先の交換もしてないらしい。
下手すれば切原の奴麻衣の事忘れてるんじゃないだろうか?
中学の時、英語の点数があまりにも悪過ぎて先生に泣かれた事もあるような馬鹿な奴だ。
このままでは確実に忘れて、また他の女と付き合いだす可能性すらある。
そんな事にでもなれば、怒りが爆発する。
もちろん、麻衣ではなく私が!
「あのね、せっかく勇気出して告白したのにこれじゃ何の意味も無いでしょ?
とにかく、明日切原の所に行ってみな?」
「でっでも、切原君きっと迷惑だよ・・・」
「彼女が会いに行っただけで迷惑がる男なんてクズでしょーが!」
「だ、だって切原君部活とか忙しいだろうし・・・
何の用も無いのに会いに行けないよ」
そう言って俯く麻衣の様子に思わず溜息を吐く。
この子絶対に尽くすタイプだ・・・
それが悪いとは言わないし、相手の事を思いやれるのは麻衣のいい所だ。
しかし如何せん相手はあの切原赤也。
麻衣のこんな健気な想いなど伝わっている可能性0だ。
それじゃー悔しい、私が!
麻衣の友達として「 麻衣がここまで想ってるのに! 」と腹が立つ。
「わかった。なら会いに行く理由があればOKなわけね?」
落ち着くように、一度深呼吸してから麻衣へと問いかける。
麻衣は普段静かでおとなしいけれど、相手の事を一番に考えて行動できるとってもいい子なんだ。
そんな麻衣のいい所も知らないで、切原が麻衣を振るような事になるなんて絶対に許さない。
「莉緒ちゃん?」
「麻衣、切原に弁当作って持って行ってやりなよ」
「・・・・・・えっ?」
私の言葉に、ポカンとする麻衣。
しかしすぐに意味を理解したのかブンブンと首を横に振る。
「ダメッ、無理だよ!
私が作るお弁当なんて切原君きっと食べてくれないよ!」
「大丈夫!あいつ、いっつも昼までに持って来てる弁当休み時間に食べてるの。
だから大抵購買でパンとか買ってるんだけど、今日の昼『ヤベッ!そろそろ金が尽きる!』とか言ってたから!
麻衣からの弁当、有り難がっても迷惑だとは思わないわよ」
「・・・・・・・・・・・本当?」
「ほんとほんと!ねっ、明日作って持って来てみな?」
私の言葉に迷っている様子の麻衣。
しかしジッと我慢強く待てば、ゆっくりと麻衣が一度頷いた。
「ありがと莉緒ちゃん。
私、頑張ってみる」
そう言って微笑んだ麻衣に、私も頑張ってと笑い返した。
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