06

「私と、付き合う気は無いかね?」


突然のそのロイ・マスタングの問いに俺は・・・


「無いな」


即 答 し た 。
完璧に反射的だった。
だからそれから数秒後、改めて今言われた事の意味を理解すると頭を抱えたい衝動に襲われた。

何だ、どこだ、どこで間違った?

こんないらない展開を引き起こすようなフラグを立てた覚えは無い。
むしろ全て全力でへし折ってきたつもりだ。
俺は少しの脱力感に肩を落としつつも思わず問いかける。


「お前は俺のどこをどう見てそんな言葉が出てくるんだ?
腹殴るは猫かぶってたはで、正直こんな俺と付き合いたいなんてお前趣味最悪だぞ?」

「殴られたのは私の行動のせいだ。
性格に関しては線を引いた他人行儀さより、本当の君が知れて嬉しいとさえ思っているよ」

「・・・・・・・・訂正する。
お前の趣味は破滅的だ、救いようが無い


まさに『さじを投げる』とはこの事だ。
自分で言うのもなんだが、俺のような奴を好きになる人間はいないと思っていた。
前世ならまだしも、今は中身と外見が一致してないんだ。
需要と供給さえ一致するはずがない。
だからこの第二の人生でそういう相手を見つけるつもりは毛頭無かった。
医者になり手に職をつければ十分一人で生きていけると思っていたし、両親は失ってしまったがこの町の人間は皆見知ったいい人ばかりだ。
困った事があれば手を貸し合える人達がいるなら、正直人生の伴侶など必要ない。
本気でそう思っていたのに・・・・

いったい何の間違いが起こった?

こんな奴に好かれるような事をした記憶は無い。
むしろ記憶に残らないよう、好かれないよう徹してきたつもりだ。
その上昨日なんて殴ったんだぞ?
しかも思いっきり
何だこいつMか?Mなのか?

思わず神経を疑うように視線を向ければ、ロイ・マスタングはゆっくりと笑みを浮べた。


「君は十分魅力的な女性だと思うが?」

「止めろ二度とそういう事を口にするな寒気がする」


ギロッと睨んで早口で言い切る。
女相手には有効だろうその笑みと言葉も、俺にとっては寒気と鳥肌を呼ぶ以外の効力は無い。


「あのな、正直そんな事言われても嫌がらせか悪い冗談にしか聞こえないんだよ。
もし本気で言ってるなら俺は真面目にお前の脳を心配する。
早めに設備の整った大きな病院に行って診てもらえ。」


溜息混じりにそう言えば、今までとは違い少し真剣な視線が返ってくる。
そして・・・


「私が好きになったのは、医者を志し進む君の姿だ。
・・・始めてここに来た時の、私の体調を心配してくれた君は嘘ではなかっただろう?」


・・・・・そうか、もう何もかもあの始めのやりとりがダメだったわけか

なるほどと納得するのと同時に、なら話は簡単だと俺は顔を上げる。
そして目の前の男に言い聞かせるようにゆっくりと口を開いた。


「あのな、それは恋や愛なんて感情じゃねーよ。
あん時お前は内乱から帰ってきたばかりで精神が弱ってたんだ。
そこに俺がたまたま声かけたもんだから勘違いしてんだよ」


ある意味刷り込みと似ている。
付け込むつもりなど全く無かったが、結果的にはそうなったようなもんだ。


「落ち着いて考えてみろ。
そうだな、時間を置いた方がいいな10年くらい。
とりあえず帰って周りにいるまともでいい女と遊んで来い。
この際2、3人同時でもいい。
とにかくこの場から去れ。
そしてとっとと勘違いから目を覚ま」

「勘違いではない」


言葉を遮られ、グッと手首を掴まれ引かれた。
テーブル越しにだが、距離が近付いて真っ直ぐと視線が合う。


「どう言ったら君は私が本気だと信じてくれる?」

「お前もどう言えば諦めて帰るんだ?」


俺の言葉と睨むような視線に、ロイ・マスタングは黙った。
近付いた距離をそのままにしておくつもりは無く、俺が手を引けば意外にも呆気なく離れることが出来た。
そしてそのまま掴まれた部分を軽く擦りながら、どうしたもんかと溜息を吐く。

正直こいつは重症だ。

前世で見た映画かドラマで命の恩人を好きになるという結末を見た事はあるが、まさしくそれと一緒の感覚か・・・
あんなもん数年経って冷静さと日常を取り戻せば、一時の感情だったんだと目を覚ますもんなんだよ。
だがこの男が目を覚ますまで付き合ってやるつもりはないし、俺は仕方ないと溜息をついて次の手段に出る。


「わかった。
お前の気持ちが本物だとしよう。
だがそれでも俺の答えは変わらない。
NOだ。
そもそもお前は俺の好みじゃないんだよ。
問題外だな」

「なら参考までに聞かせてくれないか?
君の好みを」


向けられる視線と問い。
俺はそれを真っ直ぐと見返しながら淡々と答えを口にする。


「綺麗で落ち着いた大人の女」


俺の答えに、数秒沈黙が訪れた。


「・・・・・女?」

「そう女」

「それは・・・確かに私とはかけ離れた人物像だな」

「だろ?」



お前には逆立ちしても無理だろう。

だが嘘を言ってるわけではない。
容姿に拘る方ではないが、それでもどちらかと聞かれればやはり綺麗な人物がいいと答える。
煩く喚かれるのは煩わしいので落ち着いた人間がいいし、俺の前世からの通算しての精神年齢を考えればこの世界での俺の年齢より下は御遠慮したい。
下手をすれば恋人というより親子になってしまう。

俺の言葉にさすがに驚いた表情をしているロイ・マスタング。
俺だっていくら本音とは言え、わざわざ傍から見れば同性愛者かと思われるような発言はしたくなかったさ。
だがこれぐらい言わないと、こいつはいつまで経っても目を覚まさない。


「わかったならとっとと帰れ。
口説くなら女に生まれ変わってから出直して来いよ。」


前例知ってるから出来ないこともないぞ?
これ以上付き合ってやるつもりは無いと視線を逸らせば、数秒して立ち上がる音が聞こえてきた。


「突然来てすまなかったね」

「お前が事前に連絡をして来た事なんてないだろ?」


思わず呆れて言い返せば、苦笑が返ってくる。
そして出口へと向かう背を、一応見届けるために追う。
ちゃんと帰るか確認しないと安心出来ないからな・・・
ドアを開けて出て行く背に、今度こそ縁が切れると安堵の息を吐きかける。
しかしスッと振り向いて紡がれたロイ・マスタングの言葉に思わず固まった。


「女性に生まれ変わる事は出来ないがまた来るよ」

「・・・・・は?」

「私は諦めが悪い質なんだ」


そう言って嫌味なほど爽やかな笑みを浮べて今度こそその背は去っていく。
・・・・・諦めが悪いっつーか、普通に質が悪い


「マジであの男1回死ねばいい・・・」


俺の憎々しい呟きは、残念な事に相手には届きはしなかった・・・


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