05

「やぁ、おはようマイ」

「・・・・・・・・・」


とりあえず開けたばかりのドアを閉めた。
誰か嘘だと言ってくれ。
もしくは悪い夢だと起こしてくれ。

違う違う見間違いだと首を振る俺だが、俺の意に反してドアが向こう側から引かれる。
そして・・・


「おや、診療所を開けなくてもいいのかね?」


何故いるロイ・マスタング・・・

向こう側からドアを開けたのは、間違いなく俺の中で死亡フラグの代名詞であるロイ・マスタング。
昨日やっと縁が切れたと思っていた人物だ。
清々しかった先ほどまでの気持ちを返しやがれ
何自分だけ爽やかに笑顔浮かべてやがる・・・
俺はもう昨日の事で素はバレているだろうと、遠慮などせず思いっきり顔を顰めて問いかけを口にする。


「何故いる・・・」

「今日は久しぶりに休みなんだ」

「そうか休みかそりゃよかったな。
ならここからとっとと消えうせ勝手に休みを満喫しな」


目を細めてそう言い切ると、顔など見たくないと再びドアを閉めるために手に力を入れる。
だが少し動いた所で、向こうも閉まらないよう力を入れたのかドアが動かなくなった。
それでもさらに力を入れて閉めようと試みたが、すぐに無駄だと諦める。

こっちは筋金入りの引き篭もりと言ってもいい。

昔から主要キャラに間違っても会わないためと、必要以上に出かけなかったのがこんな所で災いするとは思わなかった・・・
前世以上のインドア生活を送ってきた俺だ。
そんな人間が軍人の力に敵うわけが無い。
さらに言えば不服ながらも身体的にも男女の差がある。
赤ん坊からの成長により前世より力が落ちたと特別不便に思うことは無いが、それでも思い返せば力は弱くなっているのかもしれない・・・
とにかくこれ以上この男と力比べしてもこちらが疲れるだけで意味が無い。
俺はそう結論付けると大きな溜息をついてドアから手を離した。


「何のつもりだ?
嫌がらせなら他所でやれ。
つーか二度と俺の前に現れるなと言ったはずだが?」

「・・・昨日の事を謝りに来た」


目の前の男の言葉に、思わず訝しげに眉を寄せた。
被害的には俺の方が本当は謝るべきじゃないのか?
そのつもりはサラサラ無いが・・・
言わせてもらえればあれはある意味正当防衛だ。
条件反射とも言える。
少し過剰だったかと思えなくも無いが、そこは俺の精神的苦痛を是非考慮してもらいたい。


(・・・何考えてやがる?)


俺は改めて目の前の男を窺うように視線を向けた。
だがその表情からは、本当はあるのかもしれない思惑を読み取れない。
それどころか、俺の疑うような視線を受けて目の前の男は苦笑を浮べた。


「少し話がしたい。
中に入っても構わないかね?」

構う。
・・・・・・が、ここにいられても迷惑だな」


小さな町とは言え、人通りが全く無いわけではない。
こんな道沿いの入口で長時間軍人とやりとりしている所なんて見られれば、何かあったのかといらぬ心配をかけそうだ。
特にこんな俺をまるで孫を見るような目で見てくれている酒屋のじいちゃんには両親の事で散々心配をかけたばかり・・・
これ以上心配させれば真面目に倒れかねないぞあれは。

俺は溜息を吐くと、仕方なく部屋の中へと戻る。
その背にロイ・マスタングがついて来るのを感じてもう一度溜息を吐いた。










「で?話ってなんだ?」


初対面の時に食事を取らせた部屋に通して、茶の一つも出さずに話を切り出す。
しかしロイ・マスタングは不機嫌になるでも、怒って帰るでもなく口を開いた。


「昨日は急にすまなかった。
随分と驚かせてしまったらしい」

「いや、どっちかっつーと今日またお前が来た事の方が驚きだ」


昨日のは驚きと言うより不快だった。
そう心の中で吐き捨て顔を顰めれば、目の前の男は苦笑を浮べた。


「どうしてもきちんと君に謝っておきたかった」

「謝るくらいなら始めからするなよ」

「君の意思を無視してあんな事をするつもりは無かった。
だが、君があまりにも・・・・いや、いい訳にしかならないな」


言葉を切って軽く視線を落とす目の前の男に、俺はある意味感心する。
なるほど、女を落とすにはこういう手もあるわけか、と・・・
君があまりにも、の続きはご想像にお任せしますってやつか?
まぁ話の流れと状況から悪い意味に取るやつはまずいねーよな。
それにしても強引さに失敗した場合、次には一歩引いた口振り。

まさに押してダメなら引いてみろか・・・

一応こいつ世間一般的に見たら顔良いし、言葉に含ませれば勝手に女の方も意識しだすってパターンか?
しかし非常に残念ながら、前世男の俺には鳥肌は立ってもトキメキはしないがな・・・
俺は溜息を吐くと、とっとと話を終わらせ帰ってもらおうと口を開く。


「分かった、謝罪を受け入れる。
これでいいだろ?」


話は終わりだサッサと帰れこの野郎と立ち上がる。
しかし・・・


「あと一つだけ、いいかね?」


呼び止めるように発せられた言葉。

・・・嫌な予感しかしない。

だがこの場合、ダメだと言ってそれで済む可能性とはどれくらいなんだ?
いいかね?と聞いてきているが、ほぼ聞くこと前提な感が否めない・・・
ここで断って、また後日来られるのも面倒だ。
またドアを開けてこの顔ってのは今回で終わりにしてもらいたい。
仕方なく俺は顔を顰めて続きを促した。

すると・・・


「私と、付き合う気は無いかね?」


まさに嫌な予感的中で、俺は久しぶりに神様とやらを力いっぱい殴り飛ばしたい衝動に駆られた・・・


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