Look only me


「ねぇ、エド?」

「・・・・・・」

「エドワードさーん・・・」

「・・・・・・」

「エーーードーーー」

「・・・・・・」


これでいったい何度目か・・・
先ほどからいくら呼んでも返事は無し。
今日会おうと約束したのは3日程前の事。
楽しみに来たのに、エドの家に来て部屋に通され「ちょっと待ってろ」って言われてからずっとこんな調子だ。
もう既に30分以上は経っている。
約束の時間より確かに気持ち少し早く着いてしまったかもしれない。
でもそれを言ったってせいぜい5〜10分程度。
時計の針は約束の時間をもうとっくに過ぎている。
さすがに酷くない?
エドのちょっとはいったいどの程度の時間の事を言うんだろうか?
苛立ちと久しぶりに会えたのに放置という寂しさも手伝って、私はグイッと目の前の腕を引くという強硬手段に出た。


「もう、エドったら!」

「あぁ?」


やっと返って来た反応。
振り返るその顔。
普段なかなか見られない眼鏡姿に一瞬見惚れそうになるが、「違う違う私は今怒ってるんだ」と慌てて頬を膨らませた。


「エドワード・エルリックさん。
私はいったいいつまで待ってればいいんでしょうか?」

「だからこれ読み終わるまで待ってろって言ったろ?」

「違うよ!ちょっと待ってろって言ったんだよ!」

「そうだったか?
・・・じゃあ訂正。
これ読み終わるまで待ってろ」


そう言って合わさっていた視線はまた前方へと向いてしまう。
詳しく言うならば、前方のテーブル上に置かれている資料へ、だ・・・
ぶ厚く古いその資料は、以前からエドが読んで見たいと言っていたもの。
それをやっと先日マスタング先生経由で見せてもらえるよう頼めたとは聞いていた。
その代わりに何を要求されたのかは聞かなかった(すごく不機嫌で聞けなかったという方が正しい)けど、そこまでしても読みたいと思っていた資料だとは私にも分かる。
しかし・・・だがしかしだ!
タイミングが悪いにも程がある!
今日は久しぶりに会えると思って朝から楽しみにしていたのに!!!
最近お互い忙しくてなかなか会えなかったし、電話も出来なかったからなおのこと・・・
だから今日は私なりに服も髪もバッチリ気合を入れて来たんだ。
それなのに私が来るほんの少し前にマスタング先生が資料を届けに来ていたなんて酷過ぎる!!!
もう見計らっていたようにさえ感じるのは気のせいだろうか?
普段はあんなに反発し合ってる二人だからついそんな嫌な方に考えも進んでしまう。
そしてそんな自分が凄く情けなくて惨めだ。


(・・・・・エドの馬鹿)


はぁ・・・と小さく溜息。
別にどこかに出かけたかったわけじゃない。
ただエドと話して、エドと触れ合いたかっただけなのに・・・
その金色の瞳は私を全く映してくれない。
私の視界に映るのは、資料を熱心に読むエドの後ろ姿だけだ。


(・・・・・もう、帰ろうかな)


チラッと壁に掛かった時計を見てついそんな事を考えてしまう。
いや、頭ではちゃんと分かっている。
後1、2時間もすればエドはあの資料を読み終えてしまうだろう。
・・・・・まさかそのまま他の資料も引っ張り出してきて研究モードに入ったりはしないとさすがに信じたい。
とにかくそう信じるとして、遅くとも後2時間もすればエドは私にかまってくれるだろう。
でも今の私にはその1時間だか2時間だかがとても長く感じられる。
それこそ、いっそ帰ってしまった方が楽な程に・・・


(・・・・・エドは、私よりあの資料の方が大切なんだよ)


そんな事あるわけない。
自分の考えを自分ですぐに否定する。
でも寂しさとか悲しさとかがゴチャゴチャしてて、普段は思いもしないような考えがまるで実はそうであるかのように浮かんでくる。
・・・ダメだ、なんかこのままだと泣いちゃいそう。
手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいるエド。
現にさっき腕を引っ張ったばかりだ。
その前はちょっと寄りかかってみたり、邪魔にならない程度に髪に触れたりもしていた。
それが今は手を伸ばすのすら戸惑いを感じるのはなんでだろう?
・・・・・・きっと、少しでも拒否を示す態度を取られるのが怖いんだ
無意識の内にその背に触れようと浮かしかけていた手をギュッと握る。
そしてもう片方の手を、持って来たまま投げていた鞄へと伸ばして立ち上がる。


「私帰るね」


聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言って玄関へと向かう。
いや、向かおうとした。
私の行動を阻むようにガシッと腕を掴まれなければ・・・


「何で帰んだよ?」


驚いて振り返れば、ムスッとして不機嫌さを隠そうともしない表情で見上げてくるエドと目が合った。
・・・絶対に聞こえてないと思ったのに
エドの集中力は凄い。
さっきだってあれほど呼びかけても反応がなかったんだ。
腕を引っ張ってやっと気付いてもらえたくらいだ。
だからあんな小さな声、ソッと玄関に向かう私になんて気付かないと思ってたのに・・・


「何か用事あんのか?今日は俺と約束してあっただろうが」


グッと掴む手に力が込められた。
そのまま引っ張られれば、素直にその場に座り直すしかない。
そして正面から睨まれれば、自然と肩を小さくして俯いてしまう。


「おいマイ」

「・・・・・・」

「おい」

「・・・っ、だって!・・・だって私がいてもいなくても一緒じゃない!
エドは1時間も2時間も資料読んで、私はその間する事も無くて・・・
せっかくの久しぶりの時間がそうやって減っていくの悲しいんだもん!」


上げた視界がじわりと滲む。
何かが切れたように一気に言葉が溢れてきた。
そんな私の様子にエドは驚いたように目を見開いている。
しかしすぐにその口からは呆れたような溜息が出てきた


「あのなぁ・・・たかが1時間ぐらいで何言ってんだよ」


そのエドの言葉に一気に悲しみが広がる。
確かに1時間も2時間も大した事無い時間かもしれない。
でもネガティブ思考全開で、冷静さを失っている私にはそう軽く受け止められなかった。
滲んでいた涙が零れそうになって、でもそれをエドに見られたくなくて顔を逸らして手で拭う。


「マイ、お前」

「エッエドにとってはたかが1時間かもしれないけど、私にとっては違うの!
それに読み終わるまで待ったって、あっという間にまた帰る時間になるじゃない!」


エドが何か言おうとしたのを遮るように口を開く。
そしてそのままの勢いで再び立ち上がり部屋を出ようとする。
しかしまたしても腕を掴まれて、思うようにいかない。


「待てよマイ!」

「離してってば!」


掴まれた腕に力を入れて抵抗してみるけど、その手が外れる事は無い。
もう半ばムキになっている。
どこか冷静な部分ではそう分かってるのに、感情がそれを受け入れようとしない。
悲しくて悲しくて、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


「落ち着けって」

「もうエドなんて知らない!
ずっと資料でも読んでたらいいじゃない!」


言ってしまってすぐに後悔する。
こんな事言うつもりなんて全くなかったのにとさらに涙が零れる。
すると今の私の言葉にさすがに苛立ったのか、私の腕を掴むエドの手に力が入った。
そしてそのまま近くのソファーまで引っ張られて無理矢理座らされる。
これにはさすがに驚いて顔を上げる。
すると私を囲うようにソファーの背に両手をついて、エドが不機嫌そうな表情で私を見下ろしてきた。
そして・・・


「言っとくけど、今日はお前帰すつもりねーからな」


真っ直ぐ、それも近い距離で絡む視線。
一気に心音が早くなったのを感じた。


「この前お前がこの部屋来たのいつだと思ってんだ?
こっちがせっかく忙しい中時間作ったっつーのに、ウィンリィと映画観る約束してるからってこの間断ったの誰だよ?
・・・やっとお互いの都合ついて会って、何もせずに帰すわけねーだろ?」


そう言いつつエドの片手が私の頬に触れる。
そのままゆっくりと唇を、首筋を、肩口を撫でられて背筋を何かが駆け抜けた。
一気に顔がかぁっと熱くなり、慌ててこの近い距離をどうにかしようとエドの体を押す。
しかしそんな私の行動にエドはおかしそうに口端を上げ、さらに距離を縮めて耳元に口を近づけた。


「何だよ?1時間も待てないって言ったのはお前だろ?」

「そっそれはこういう意味じゃ」

「こっちがせっかく夜まで待ってやろうと思ってたのによ」

「よっ夜って、私今日泊まるなんて言ってないし」

「着替えなら前お前が置いてったのがあるだろうが。
・・・それとも、俺より大事な用があんのかよ、マイちゃん?」

私の反応を楽しむように、追い詰めるようにして笑みを浮べるエド。
逃げる隙も無いし、エドをかわす程の技量が私にあるわけがない。
だから自然と黙るしかないわけで・・・
そんな私の思考もきっと全部分かってて、それでもエドは今の距離を変えようとはしない。
間近で絡むエドの瞳の中に、何とも言いがたい表情の私が映ってる。
さっきまであんなに向けてほしいと思ってた瞳が今はこんなにも近い。


「・・・・・」


無言でギュッとエドの服を掴めば、エドが小さく笑ったのが分かった。


「満足するまでたっぷり構ってやるよ」


かけていたメガネをゆっくり外してそう言うエドに、私は掴む手に力を込めるだけで答えた・・・










<後書きという名の言い訳>

かなりあさんへの相互記念品です!
『俺様なエド』というリクだったんですが・・・
こっこれは俺様と言うんだろうか?(;゚∇゚)
・・・すみませんこれが私の限界でした_| ̄|○ il||l(おいおい)
しっしかしこんな駄文ですが気持ちだけは無駄に込めてます!!!
・・・むしろもう気持ちだけしかない気が( ̄~ ̄;)(←・・・・・)
こんな駄文で良ければどうぞ貰ってやって下さい!!!
返品や苦情等24時間年中無休で受け付けております!
それでは改めまして、これからもヨロシクお願い致します♪



- 1 -

[*前] | [次#]
ページ:


捧げ物TOP
サイトTOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -