きみのこと、ぼくのことA

ミツバが倒れてから小春は土方の命を受けて屯所に戻ってきた。近藤と沖田にこのことを知らせるためだ。しかし小春にはこう思えて仕方なかった。

"土方さんはあの場からわたしを遠ざけたかったんだ"、と。

何もわかりたくなかった。ミツバさんがどうして倒れたのか、なぜ土方さんを名前で呼んだのか。何も考えたくなかった。そんな心とは相反して、小春の頭は冷静に状況を判断する。ただの憶測に過ぎないけれど、勘違いであってほしいけれど、土方とミツバの間には何かある。それが男女の関係でないことだけを祈って、眠れない夜は更ける。


一方屋敷に残ったのは、土方、銀時、山崎だった。


「ようやく落ち着いたみたいですよ。体が悪いとは聞いちゃいたが、俺達が思っているより、病状は良くねェみたいで…。それより旦那、あんたはなんでミツバさんと?」

「なりゆき。そういうお前はどうしてアフロ?」

「なりゆきです」

「どんななりゆき?」


ミツバが眠る部屋の隣で、三人はいた。山崎は襖の間からミツバの様子を見つめ、銀時は出された茶菓子を食べる。他愛もない会話だったが、土方は混ざろうとしなかった。


「そちらさんは…、なりゆきって感じじゃなさそうだな」


銀時が縁側の外を向いている土方に声をかける。


「面ァ見ただけで倒れちまうたァ、よほどのことがあったんじゃねェの?おたくら」

「テメェにゃ関係ねェ」

「あァ確かに関係ねェな。でもな、小春は大事な妹なんだ。あいつを傷つけたら許さねェぞ」


土方は何も答えず、そして銀時もピリピリとした空気を壊さなかった。


翌日、小春はいつもより早めに起き上った。眠っていたわけではないので、寝坊をすることもなく、着替えてから仕事に向かった。今日もまた、土方は小春とは別行動を取るようで、正直小春にはありがたかった。

夕方になると小春は見回りに行く。ぼんやりと考え事をしながら歩いていると、見知った銀髪を見つけることができた。


「銀ちゃーん!」

「ん?おー、小春か」


相変わらずの死んだ魚のような目をした男は、手にビニール袋を携え、歩いていた。小春がのぞくと、その中は激辛のお菓子だらけで、すぐに用事の察しがついた。


「銀ちゃん、ミツバさんのところに行くの?だったらわたしも行く!」


もうもやもやと考えるのは嫌だった。小春の頭には、一つの答えが出ていた。

病院に着くと、ミツバの婚約者とすれ違った。しかし彼は、小春の真撰組の制服を見ても、声をかけてくることはなく、むしろ逃げるように去って行った。そのことに疑問を持ちながらも、あまり気にせず二人はミツバの病室へ向かった。


「すごーい、依頼すれば何でもやってくれるのね」

「万事屋だからな」

「あら、あなたは…?」

「ちゃんと会うのは初めてですね。こんにちはミツバさん。わたし、真撰組の藤原小春って言います!」

「まあ、あなたが。総ちゃんからよく聞いていたわ。女の子で隊長格だなんて、すごいのね。よろしくね、小春ちゃん」


何故だか、ミツバには土方の補佐だなんて言えなかった。役職を言わなかったのはそのせいだ。もっとも、すでに知っているかもしれないが。銀時はミツバに袋を渡す。みるからに真っ赤なパッケージは体に悪そうだ。


「おい、お前もどうだ?」

「ザキさん、かくれんぼですかー?」

「いえ、結構です。隠密活動のときは常にソーセージを携帯しているので」


いるはずのない山崎の声に不思議に思ったミツバがベッドの下をのぞくと、ソーセージを食べる山崎がいた。


「あれ?山崎さん、どうしてここに?」

「見つかってやんの、ザキさん」

「しまったー!!!」


観念した山崎も出てきて、改めて三人でお見舞いをする。といっても銀時は見舞の品を勝手に食べていたが。


「小春ちゃん、総ちゃんはね、いつも私にくっついて育ってきたの」

「そうみたいですね。わたしにも、兄がいるんです。だから総悟がお姉さんのこと好きなの、すごくわかります」


少し遠い目で話す小春と、それを見つめる銀時。山崎も小春の兄が誰なのか知っているからこそ、つらいところがある。それでも小春は笑顔だった。


「お兄さんと、仲良くね」

「もちろん、そのつもりです!」

「それからね、小春ちゃん。総ちゃんの事、お願いね。あの子いつも人と距離をとって、歩み寄ろうとしないの。だけど、あなたならきっと総ちゃんも気を許してるから」

「…はい」


ずるい、小春はそう思った。弟を心配する姉としては当然かもしれないが、土方ではなく、総悟と、なんて。土方とミツバの関係をなんとなく悟っている小春からしたら、まるで土方を取らないでと聞こえた。


その後、ミツバの病室を出た小春と銀時は、山崎を問い詰めた。なぜ、あの場にいたのか。一体何を探っているのか。


「転海屋。不定浪士と大量の闇取引をしているとの嫌忌があります。密輸で仕入れた武器を浪士に売りさばく、闇商人の可能性があります。俺だってミツバさんの旦那さんがそんな人だなんて信じたくはないですが…」

「あの女は知ってんのかよ」

「いえ、副長に誰にも言うなと…」

「言ってんじゃん!わたしたちに!ていうか、土方さんと一緒に調べてたのね!?」


土方さんはいつも、危険な仕事はわたしにやらせてくれない。その気持ちは嬉しいけど、だけど…。


山崎によると、取引は明日の晩。きっと乗り込むことになるんだろうな。ミツバさんはとってもいい人だから、旦那さんを斬るなんてしたくない。それに、どうして土方さんはザキさんと二人だけでこのことを調べているの?近藤さんや総悟は知ってるの?もしかしたら、一人で乗り込む気じゃ…。

(あなたはいつまでたっても、わたしを頼ってくれないのね)




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