02

ーごめん、ちょっと邪魔が入ったわ。生徒会長様に注意されちゃったからしばらく大人しくする。


突然電話を切った理由を説明すべく昼休みが終わる前に一言メッセージを添える。原因である人物は探し人を見つけたのか諦めたのか、既に教室に戻っていた。


「あ、藤原ー!」


教室のドアから顔を出した男子に名前を呼ばれて小春は顔を上げた。彼は隣のクラスの田中くん。ちょこちょこ教室へ来ては声をかけてくる馴れ馴れしい人。小春の姿を見つけた田中は教室へ入ってくる。


「古典の教科書、ありがとな!これついでにお礼!」

「わぁ!くれるの?ありがとう!」


律儀にチョコレートを添えてくれた田中くんはオススメの新作なのだと説明してくれる。ぺらぺらと聞いてもいない話を続けてくるのに口角を無理やり上げて相槌を打ち、早く終わってくれないかなと考えていたら田中くんは予想外のことを口にした。


「そうだ。藤原さ、今度の日曜空いてる?」

「えっ、日曜日…?…あ、その日はお母さんと出かける約束してるんだ。ごめんね」

「あ、まじか。じゃあさ、……あ、やべ次移動だった。またね!」

「うん、いってらっしゃーい」


タイミングよくチャイムが鳴り響き、田中は慌ただしく教室を走り去っていく。貼り付けていた笑顔を消して心の中で毒づいた。母親と出かけるなんて嘘に決まってる。正直今にでも従兄弟に愚痴をぶつけたいところだが時間がないので諦めて次の授業の教科書を取り出す。

後ろの席の友人が背中を突いて、今度は田中くん?なんて茶化してきたので、まさか。そんなつもりじゃないと思うよと謙遜しておく。

あの様子だと顔を合わせる度に予定を聞かれるだろう。ただ学校で声をかけてきて告白してくるだけの男子は別にいい。断ればそこで終わるのだから。でもわざわざ何とも思っていない相手に休日を返上してやる義理は一つもない。小春は食べる気が失せてしまったチョコレートを友人に分けてほとんど空にした。




****




放課後になるとすぐに小春は鞄を持って教室を出ようとした。いつも一緒に帰る友人たちには用事があるからと先に断ってある。教室を出ようとしたところでドアからすぐそばの席の赤司と目が合ってしまった。昼のこともあって一瞬ひるんだ小春に目を細めて少し笑った。


「大変そうだね」

「…え?」


なんでこう予想外の言葉をかけてくるんだ。つい猫をかぶることを忘れそうになる小春だが急いでいることを思い出していつもの笑顔を装備して「ごめん、じゃあね。また明日」と声をかけて赤司の横を擦り抜けた。

小春が向かった先は図書室。何も急いでここに来る必要はなかったのだが、教室にいれば田中に捕まる可能性があると思って逃げたのだ。

帝光中学には何らかの部活に所属しなければならない決まりがあった。小春はほとんど幽霊部員しかいない読書部に入っている。活動などというものはなく、好きに本を読めばいいだけの部だからここにした。普段は従兄弟がオススメしてくれる小説を読む程度でわざわざ図書室に足を運ぶことはない。だからこそ、人から逃げたいときはいつもここを利用していた。

急いで来てしまったせいかまだ図書委員の姿もない。借りるわけではないので適当に本を見繕って奥の入り口からは死角になっている席に腰を下ろした。


(…しばらくは顔を合わせない方が良さそうだなぁ。やっぱり真くんの言うように彼氏がいたほうが手っ取り早いか…。……そういえばアレ、どういう意味だろ?)


アレ、とは教室で赤司に言われた一言。確かに自分は急いでいたが慌てた素振りは見せていないはずだ。

手元に広げた本から視線を外して窓の外を見下ろした。校舎の裏側のため人通りもほとんどなく誰かに見つかる心配も少ない。しかし今日は珍しく歩いてくる人影を見つけてしまった。


(赤司くん?…と、女の子。後輩かな)


どう見たってそれは告白の現場で、相手の女子は上履きの色からして1年生だった。2人の位置からなら意図的に見上げなければこちらに気付くことはないだろう。それにしても赤司ってモテるんだったなぁと思い出す。


(まぁそうか。成績抜群、生徒会長で確かバスケ部のキャプテンなんだっけ?うちのバスケ部って強いんだよなぁ。真くんが言うくらいだから相当。あれ、全国大会連覇したのってバスケ部?バレー部だっけ)


慣れたように顔色一つ変えず淡々と口を動かす赤司がOKしているようには思えず、直後女子生徒は顔を覆って泣き出していた。


(うっわぁ…。男子でモテるのも大変ね。あんなのウザすぎて無理だわ)


女子生徒は涙を拭きながら走り去っていった。覗き見してしまったことに何となく後ろめたさを感じてそっとカーテンを閉めようとしたとき、赤司がこちらを見上げていることに気付いた。

目が合うと彼はまた軽く微笑んで、人差し指を口元に寄せた。告白されていたことを他言するなということかな?言わないって、どうでもいいわ、と思いながら困ったように眉を下げて頷いてみせた。

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