Real Lover - 02
「小春、お昼いこ〜」
「行く行く〜!」
1、2年の頃一緒のクラスだった友人たちは綺麗に2人ずつくらいで分かれてしまった。それでもお昼はどこかの教室や中庭に集まったり放課後は一緒に帰ったりしている。
「ねぇなんで昨日バスケ部の試合観に来なかったの?」
「ごめんごめん、勉強してたの。模試近いしさ」
「赤司くん観なくてよかったの?」
「うん。あ、ちゃんと結果は教えて貰ったよ」
やっぱりうちのバスケ部強いね、といえば当たり前じゃんと彼女に胸を張られた。
「決勝は来るでしょ?再来週!」
「再来週はテスト前だから…でも大丈夫。ちゃんと征くんのこと応援してるよ」
それでいいならいいんだけど…、まだ言いたいことがありそうな友人を横目に強引に話を変えた。
偽りの恋人として付き合っていた頃から、どことなくバスケの話をするときは身構えているような気がしていた。それでもプレーしている姿は楽しそうだったし、部活の話もしてくれた。だからあまり気にしないようにしていた。
いつからか、彼は部活の話もバスケの話もしなくなった。小春から聞いてもあまり話してくれないことも気づいていた。
(気にならないわけじゃないけど。でも言いたくないのかもしれないし)
バスケの練習も試合も、女子を遠ざけるためという理由以外で誘われたことはない。まだそばにいる時間が長いわけではないし、彼の知らないところなんかたくさんある。自分の目で確かめればいいだけかもしれないが、なんとなく小春には行かない方がいいような気がしていた。
****
赤司は昼休みのため学食へ向かっていた。いつの間にか合流していたチームメイトたちの会話に耳を傾けていると後ろからパタパタという足音と共に名前を呼ばれ振り返る。
「赤司くん!ちょうどよかった」
「桃井か。どうかしたかい?」
「うん、来週の練習について確認したくて…」
赤司の隣に並んだ桃井に気付き黄瀬と戯れていた青峰が振り返る。いつものように息の合ったやりとりをし始めたのでしばらく本題には入れないのだろうと仲のいい幼馴染を眺めた。
「もう、青峰くんには関係ないでしょ!」
大きな身体を両手で目一杯押しのけて桃井は再び赤司に向き直った。青峰は一度舌打ちを落としておとなしくなったようだ。
「あ、でね、赤司くん。来週のこの日なんだけど…本当に丸一日練習でいいんだよね?」
「ああ、来週は試合がないからね。何か問題でもあったかな?」
「ううん…問題っていうか…、赤司くんがいいならいいんだけど…」
「?」
スケジュール帳を胸の前に抱きしめてちらちらと見上げる桃井に首をかしげる。試合前なのだから、練習はあって当たり前だというのに一体どうしたというのだろうか。
「こういうのは当人たち同士の問題だし、私が口を挟むことじゃないのはわかってるんだけどね!」
「桃井?」
「でも私だったら当日に会いたいなぁって思っちゃうっていうか。もちろん赤司くんが部活優先してるのはきっと理解してくれてるんだろうけど」
「桃井、」
「あ、もしかして練習の後にもう約束してたりするのかな」
饒舌に一人語っていた桃井はようやく赤司に目を向けた。やたらとキラキラした目で見上げられた赤司が一体なんの話だい?と尋ねると桃井の表情に戸惑いと驚きが浮かぶ。
「やだ、しらばっくれないでよ!」
「何をだい?」
「…もしかしてだけど赤司くん、知らないの?」
ふむ、と顎に手を当てて考えてみても何も思い当たらない。毎年この時期は大会期間と、そのすぐ後に控えたテストに向けて調整を行っていたくらいだ。その日にちに特別な意味があるのだろうか?わからない、と桃井に目線を向ければ少し遠慮がちに口を開いた。
「その日、藤原さんの誕生日だよ」
「…」
たっぷり数秒無言で目を見あってから赤司は額に手を当てた。すっかり失念していた。そうあれは去年の12月、彼女も全く同じことをしていたじゃないか。上から降ってくる緩い声に小さな好奇心が含まれていたがそれを指摘することもできなかった。
「……教えてくれたことは感謝する。それでも練習は関係ないよ」
言ってくれたらよかったのに、なんて自分のことを棚にあげるつもりはないけれど。
「赤ち〜ん、藤原さんの誕生日どうすんの〜?」
「どうだろうね」
小春の喜んだ姿を想像すれば自然と笑みがこぼれそうになる。ふ〜ん、という声に咎めるように彼の名前を呼べば相変わらずの緩い声で謝られた。
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