01

「空却くん」


派手なスカジャンにボストンバッグ一つを肩にかけた少年は懐かしい地元の駅の改札を出るなり名前を呼ばれて顔を上げた。数年ぶりに見た彼女は背格好は変わらないのに雰囲気だけが大人びて見えてぱちりと目を瞬かせる。目が合えば嬉しそうに笑って駆け寄ってくる彼女にぷい、と顔を背けてからそっけなく言葉を返した。


「おかえりなさい。着くの今日だって聞いてたから来ちゃった」

「そーかよ。別に駅まで来なくたって帰ったらすぐ会えんだろーが」

「うん、そうなんだけど」


空却くんに早く会いたかったの。

ちらりと横目で見た彼女は本当に嬉しそうに笑っていて、突然ナゴヤを出て行った自分のことなどもう忘れてしまったのでは無いかと思っていたがそれは杞憂に終わったらしい。

よく見れば彼女はジャケット、膝丈のスカートといかにも仕事用の服を着ていて帰るところだったのかもしれない。ヒールを履いた彼女よりも目線が高かったので少し安心したのは絶対に内緒だ。カツカツとそんな細っこいかかとの靴でよくも器用に歩くものだ。


「あー、なんだ、その、元気にしてたかよ」

「…!ふふ、うん。元気だったよ。空却くんも元気そうでよかった」

「…心配かけて悪かったよ」


止まった足音に振り返れば泣きそうな顔で笑う小春の顔が見える。昔からこうやって泣きそうになるところは何回も見たことがあるのに彼女が涙を流しているところは一度だって見たことがなかった。


「…ほんと、ラップバトルとかそんな危険なことして、心配したんだから。全然連絡もくれないし」

「…悪りぃ」

「…まぁ、無事に帰ってきてくれたから今回は特別に許します」


再び隣に並んで歩き始めた彼女はじっとこちらを見てくる。その視線に気付いてなんだよ、と言えば彼女はまたへらりと笑った。


「空却くん、大きくなったね」

「なんだよ、イヤミかよ」

「そんなんじゃないよ。本当に、知らないうちに大っきくなっちゃったなぁ」


どこか寂しそうな目にその額を軽く小突いてやった。いたい、なにするの、と両手で額を押さえている彼女を思い切り笑ってやった。


「た〜け!オメェのこと守れるくらいでっかくなったんだよ」

「……頼もしいねぇ。お姉ちゃん嬉しい」

「…おう」

「これなら彼女が出来ても安心だね」


それをお前が言うかよ。思い切り不機嫌な顔になったのを見て、あれ?もしかしてもういる?だなんて見当違いなことを言ってくるから無視してさっさと歩いてやった。ようやく高校を卒業して帰ってきたというのに、もう彼女は社会に出て働く歳になっていて、埋めようの無いその差に嫌気が差す。

はやくあんたを姉から恋人にしたいのに


(高卒と同時にナゴヤに帰ってきた空却くんと幼馴染のお姉ちゃん)


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