初恋十題02

どうしたらあなたの視界に入れるの。
どうしたらあなたの傍にいられるの。


今日は黒魔道士団隊長の就任式。隊長になるのはわたし。この数年間わたしはすごく修行に勤しんだ。入団してからは研究もひたすら頑張って、前任であったお父さんに認められた。そしてお父さんが引退するに当たってわたしが新たな隊長に選ばれた。

部屋で黒いローブに身を包み、鏡の前に立つ。気を引き締めるように両手で頬をぱちん、と叩くとわたしは謁見の間へ向けて足を進めた。…あ、正装なんだからとんがり帽子も持っていかなきゃ。


「アイリス、ついに今日だね。おめでとう!」

「ローザ、セシル!ありがとう」


わたしの姿を見つけて駆け寄ったのは幼馴染みのセシルとローザ。この2人は本当に仲がいい。2人が想いを伝えあったのは数ヶ月前の話。今ではバロン一の美男美女カップルである。話を聞いたときはローザの恋が叶ったことが自分のことのように嬉しかった。セシルもずっとローザを想っていたのだと知って、親友の2人が幸せそうにしているのが微笑ましかった。だけどやっぱり次に頭に浮かんだのはもう1人の幼なじみ。わたしは2人のことを聞いたときのカインの反応を知らない。…なんて暗いことを考えるのはやめよう。今日はわたしの晴れ舞台なのだから。


「隊長の就任祝いに、今度皆でご飯でも食べに行こうよ」

「それ、いいわね!最近忙しくて皆で集まる機会なんてなかったし」

「そうだね、ありがとう!あ、じゃあわたしはもう行かないと。二人とも、またね!」

4人で集まるなんて久しぶりだ。セシルが赤い翼の部隊長に、カインは竜騎士団隊長になって、ローザも白魔道士として活躍し、今度はわたしも隊長になったからこれからはもっと会えなくなるんだろうな。実際、最近カインを見かけたのは一週間前。だって、黒魔道士団と竜騎士団は本部が随分離れているから。話せたのは…、いつだっただろう。楽しみだな。




****




そして待ちに待った食事の日。今日は奇跡的に皆の都合があって、夕方から一緒に街に行くことになった。黒いローブを脱いでワンピース姿で門に行く。みんなが集まってからバロンの城下街へ向かった。久しぶりだったけど、皆変わってなかった。ただ背がおっきくなったくらい。というか、みんな大きくない?わたしが小さいのかな…。


「アイリス、久しぶりだな」

「そうだね。竜騎士団隊長さんも忙しいからねー」


冗談半分、皮肉半分。こんなのはいつものこと。だってそうでもしないとわたしはカインと話せない。緊張するの。幼馴染み相手に緊張っておかしいと思うけど、胸が張り裂けそうになっちゃう。


「フッ、そうだな。でも、これからはお前も隊長だろ?よく頑張ったな」


くしゃ、って頭を撫でられた。この手がわたしは大嫌い。大好きだったのに、嫌い。子供扱いされてるみたいなんだもん。子供扱いしないで、と手を振り払ってみる。わたし、かわいくない。


「悪い悪い。でも妹が出世したようなもんなんだから、褒めるのは当然、だろ?」


妹って。じゃあカインはわたしのお兄ちゃんなの。それはつまり全く女の子として見てないってことなの。そうとは言えずにただ頬を膨らませてそっぽを向くとカインはまた笑って頭を撫でた。ちらりと見たカインの髪が風になびいて月明かりに照らされてきらきら光った。やっぱり変わらないな。きれいな髪。




****




楽しい時間はあっという間に過ぎる。4人で会ったのも久しぶりということで話はすごく弾んだ。帰ってしまうのが惜しいな。でも明日もあるのだからそうも言っていられない。すっかり遅くなったけれどわたしたちは街を後にして帰ることにした。

見上げた月はさっきとは随分違う場所にあって時間の経過をわたしに教えてくれた。部屋へ戻ると、ちょうど窓から月が見えた。


「どうして月は2つあるのかな」


大きいのと小さいの。本当に大きさが違うのかどうかはわからない。遠近法なのかも。カインは月みたい。あのきらきら光る金色はまるで夜空に輝く月。だけど、カインは1人しかいない。心が2つあったらよかったのに。1つはローザでもいいから。

相変わらずローザのことばかり見つめるカインを思いだしてため息が溢れた。ねぇ、わたしはどうしたらいいの。わたしはあなたの夜空にはなれないの?


月が欲しいと泣いていた
(二つあったなら、一つはわたしに頂戴と言えたのに)

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