雨が降っている。冷たく僕を濡らしていく。淋しいような、清々しいような。天を仰げば、薄い雲が青空を隠すように広がっていた。頭の足りない僕は、こうして少し冷たい水を被っていればいい。傘は要らない。

信号を待っている間にも雨足は強まって、道行く人々は僕を何か変わったものでも見るような目で見ている。そりゃあ雨が降っているのに傘もさしていなければ十分変わっているか。青信号が待ち切れなくて、逆側の信号が点滅し出した辺りで足を進める。水溜まりをぱしゃりと踏んで、横断歩道を渡る。
じっとりと湿り気を含んだ空気はいつもの照り付けるような暑さとは違って何とも気持ちの悪いものだった。しかし、雨空は嫌いではなかった。僕に纏わり付いた何かを洗い流してくれるような気がしたから。ぐしゃりと踏み潰した蝉は、何の為に生まれて来たのだろうか。僕に踏み潰される訳に生まれた訳では、決してなかっただろうに。

洗い流してくれ。
僕の靴の底に付いて取れない泥水を、蝉の残骸を。

もうすぐ着くというところで、また信号に足止めを食らう。
信号の向かい側では、水色の傘をさしたあの子が溶けそうな微笑を湛えて僕を見つめている。優しく、僕を待っている。

この信号が変わるまでに、洗い流してくれ。愚かな僕が犯した罪を。
だからあなたに赦されたい


 
2011/08/25

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