飢えた子供のような目をしてこちらを見てくるそいつは、もう随分と前から満たされていないらしい。哀れだと思う事はあっても、決してその渇きを満たしてやるような事はしなかった。その目が、私を求めて止まない目が、好きだったから。

「愛してるんだ」
うん知ってる、それだけ吐いて、にやりと笑ってみせる。優しく頭を撫でてやれば、苦しそうな幸せそうな表情が顔を出す。もっともっと、見せてくれ。絶望に染められた中でもまだ光を追い求める不毛な自分に嫌悪感を抱きつつも止める事も出来ず、ただ濁った泥沼に沈んでゆくお前の顔を。

優しく、壊れかけた硝子細工に触れるそれのように撫で続けていれば、その内こいつは泣き出す。よわい生き物のような呻き声を上げて。
「うう、うう」
そして濡れた目元を隠すように、ソファに伏せってしまう。ああ、悪い事をしたな、と思う。だが、思うだけだ。


すうすうと規則正しい寝息が聞こえて来た頃には、私の頭もとうに冷えきっていた。たまにああして、意味も無くこいつを貶めたいと思ってしまう時がある。
涙の跡が付いた頬をなぞり、頭を撫でる。さっきのような酷い撫で方ではなく、こいつの存在を確かめるように、一回一回、力を込めて。

本当に、こいつに全てを投げ渡していいものか、私は悩んでいたりする。重たい荷物を重たい私ごと、どこに運ぶのかも指示せずに。
お前が荷の重さに耐えきれずに壊れてしまうくらいなら、私はいくらでもお前を絶望の谷底に突き落とす。そちらの方が、幾分かはましだろう?
お前の酷く歪んだ、美しい瞳を手離したくない。ああお前を、愛しているんだ。
それは生ぬるい絶望


 
2011/06/22

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