真っ白な後方を見て、もう戻れないと知った。失うものは何もないと、ずっとそう思って歩いて来た道が急に目も当てられないように思えたのだ。手の平は相も変わらず空っぽの筈なのに、見えない何かが骨を軋ませる。痛いと、嘆いている。


数日前に貰った飴を舐める。
別にいらないけど、断るのが嫌だった。照れたようなあの顔の裏は泣きそうな程だったから。人を泣かせる趣味も無いので大人しく受け取って置いたけど、結局泣かせる事になるのは同じなのだから、やっぱり貰っておいてよかった。酷い奴だと、誰も言ってくれないのなら自分が言う他ない。

言葉の一つ一つを思い出す度に、吐き出したくなる。掻きむしりたくなる。幸福と絶望を混ぜたような色をした瞳が怖かった。そんな、捨てられた人形のような目をしないでくれと。

捨てた訳じゃない。
お前にはもっといい人が見つかると思うから。私なんかが持っていても、ベッドの枕元に飾られるだけだ。


『帰り、気をつけて』


誰も手の届かない所に居た筈が、すっかり尻尾を捕まれた。いつの間に足を踏み外したものか。

冷たいアスファルトに足を付けてしまった。ぬるいミルクに舌を浸してしまった。
跡形も無く消えればそれで終わると思っていたのに、消えれば残骸が残るようになってしまったのだ。


溶け切らない飴を砕いても、非現実に繋がる機械を投げても、焼け付いた足跡と空っぽのカップが私をここに引き止める。
大切なものなど、何一ついらないと思っていたのに。
一つ大切にすれば一つ壊れる。壊れていくものは、かつて何かを犠牲にしてまで大切にしたいと思ったもの。
全てを守る事は出来ないなんて、とっくに分かっていた筈なのに。
罪重ね


 
2011/04/25

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