彼は女の子から割と人気がある。割と、なんてものではないかもしれない。ある時は化粧の派手な茶髪の子、ある時は眼鏡の似合う大人しい子、またある時は石鹸の香りのする清楚な子と、彼の隣には常に違う女の子が居た。それでも夜になれば僕の所に帰って来てくれるので、僕としてはさして問題はなかった。


「先輩、」
廊下でたまたま見付けた、くしゃくしゃの髪をした彼に声を掛けようとして、止まる。隣に女の子が居たからだ。彼にしては長続きの子、細すぎて僕はあまり好きじゃないけど。
「よう、何してんだ」
目ざとく僕を発見した彼は、僕の心の機微などお構い無しに話し掛けて来た。馬鹿、頭を撫でるな。あんたにとっちゃごく自然に友達同士の挨拶みたいに見せたつもりでも、女の勘は鋭いんだよ。
「……何、この子?」
じろじろと無躾な視線を僕に向けて、彼にしな垂れかかるようにして訊く女。彼は普通に僕の名前を言ったりこいつは部活の後輩でとか言ったりしているが、女の知りたい事はそんな事じゃないのだろう。
お前は彼の何なんだ、彼からは見えない角度からの女の視線が、僕にそう言っていた。
「ふうん……まあいいや、行こ?」
「ん?ああ、……じゃあ、また後でな」
女はぐいぐいと彼を引っ張って行ってしまった。呆然と遠ざかる二人の後ろ姿を見ていると、不意に振り返った女の視線、勝ち誇ったようにこちらを一瞥した。翻った髪の美しさに叫び出したくなるのを抑えるのに精一杯だった。



「……何、考え、てんだ」
湿り気を孕んだ彼の声に漸く我に返る。今日の女の勝ち誇った表情を思い出して、みるみるうちに自身が萎えていくのが分かった。驚いたような顔をした彼を無視して、ずぷりと身体から彼を抜く。

「は、おま、」
「口で、してあげるから」

不満を漏らした割には彼は呆気なく達してしまい、口の中に独特の味が広がる。
「ん、……っく」
「は、何してんの、飲まなくていいって」
一口なんとか喉に流し込んだものの、流石に全部は堪え切れずにティッシュに吐き出す。指の間に伝う白濁を見て、堪えていた涙が溢れた。

「なんだよ……!泣く程嫌なら飲むなよ!」
「ち、ちがっ……うっ、く」

数千、数億の命の集まり。それは僕ら二人の間では何の意味も持たない。いくら飲んでも出されても、上手く消化もされずに排泄されて終わり、だ。
ごめんなさい。生まれるはずだった、彼の子供達。生まれるはずだった、僕の子供達。

「ごめ、なさ……!」

「――……ったく、お前もさ、」

大概馬鹿だよな、彼はそう笑って僕の頭を撫でた。優しい、恋人に対するそれ。
僕は自分が大事だから、彼を愛する事をやめられない。彼に愛される事をやめられない。不毛な行為に溺れて背徳感に押し潰されそうになっても尚、それ程までに彼を愛しているのだ。

彼が汚れたティッシュをゴミ箱に放る。綺麗にゴールしたそれは、明日にでも焼却炉行きだろう。さようなら、生まれるはずだった彼の子供達。僕は君達の為には今をやめられない。頬を伝うそれは生温いけど、それでも幸せなんだと、思うから。

割と何度も繰り返し






 
2010/12/08

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