僕の下に収まって体勢的にはどう考えても君の方が不利なのに、どこまでも余裕たっぷりで上から目線な表情をしてくる。透き通るような白い腕が頬に伸びて来る。振り払えない、振り払うつもりが無い。

「あ、なに、や」

頬を撫でていた手は僕の眼球に触れて来た。正しくは、眼球に張り付いた薄いレンズに。
いたい、やめてとどんなに喚いても君は手を止めてはくれない。生理的な涙をぼろぼろ零しつつも君を睨む。滲んでよく見えないのは涙のせいだけじゃないだろう。

「ほら」

君が僕の目の前に人差し指を突き立ててくる。その上には確かにさっきまで僕の眼球に張り付いていたコンタクトレンズ。でも、この距離が限界だ。あと数10センチでも離れられたらそこにある透明のレンズなど見えなくなってしまうだろう。現に今君がどんな表情をしているのか、全く見えない。どうせさも愉しそうに片頬を釣り上げているのだろうけど。

手探りでサイドテーブルにあるであろうフチ無しの眼鏡を引っ掴み、涙を拭って乱暴に掛ける。目の前には、さっき想像した表情と寸分違わぬ顔をした君。大きく舌打ちをして唇を合わせる、が、やはり眼鏡が邪魔だった。ああ、とつい苛立った声を上げながら眼鏡を部屋の隅へ投げ付ける。邪魔なんだよ、あんなガラスの壁。どうせ君の表情なんか見なくても分かってたんだから。

「返して」

そう告げて手の平を突き出すも、君はあろう事かそのレンズを握り潰してしまった。
嗚呼、この馬鹿野郎。

なあ、今どんな顔をしてるんだ。
どうせまた愉しそうに緩く笑っているんだろう。分かっているから。だから見せてくれよ。

決壊した涙腺は生理的ではない涙を流し始める。ぼろぼろと溢れて止まらなくて、下で笑う君の頬まで濡らしてしまう。

見えない、見えない、見えない。
分かっていても、見ていないと駄目なんだ。肩を震わせて笑う君に抱きしめられて、ついにはわあわあ声を上げて泣き出してしまった。
何より確かな体温に包まれても尚、僕は目の前の事実を欲しがっていた。
きみしかみえない盲目になりたい


 
2010/10/28

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