爪先に当たった落葉の乾いた音を聞いて、秋だなあと呟けば秋だねえと呑気な声で返されて、思わず笑みが零れた。数歩先を歩く君の長い黒髪が揺れる、見取れる。
気を抜けば、すぐ言ってしまいそうになる。僕は、君が、
「ねえ、秋は食べ物が美味しいよね。何が好き?」
思考を遮られ、脳は彼女の涼しげな声に耳を澄ませるよう指示を出す。というか、僕は読書の秋派なのだけど。秋刀魚かなと当たり障りの無い返事をする。

いつも、決まって、遮られる。
彼女は超能力者なのかと本気で疑った事もあったが、ただ単に鋭いだけだろう。それか、そんなに直ぐに分かるくらい顔に出ているとか。その事を考えたり、言葉にしようとすると、遮られてしまうのだ。
遮る理由も、僕だって分かっている。彼女が「分かっている」事に、僕だって分かっている。だからそれは彼女なりの優しさであったり情けであるのだ。彼女が遮らなければ、僕は伝えてしまうだろう。伝えてしまったらこの距離が保てなくなるぞと、警告されているのだ。
けれど今日こそはと、放課後、一緒に帰らないかと誘ったのだ。彼女は了承した。

早足でみるみる離れて行ってしまう君を呼び止めた。
程なくして追い付き、膝に手を付き、そのまま顔を上げられなくなる。体全部が心臓になったみたいに、鼓動が速くなる。
伝えてしまったら、どうなるのだろうか。
この距離が保てなくなってもいい。僕は君に近付きたいんだ。

真っ赤になっているであろう顔を上げた先にあったものは、凍てつくような彼女の視線だった。
僕が発しようとした言葉は音に変換されず、ただ二酸化炭素だけが、口から出ていった。

 
2010/10/09

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