何の気無しにおかしな声を上げた君を見て僕は無意識に君を凝視していた。
今のは欠伸?遠吠え?

「……何だよ、見んな」

今さら恥ずかしそうにする仕種をみて、堪え切れずにくすくすと笑い出してしまった。

ああ、変な人。
そうやって、おかしなふりをする実は誰よりまともな君が、僕は大好きなんだ。

近いようで遠い、大股で3歩程の距離の先に居る君と、いつまでこうして平和で居られるだろう。
いつか壊れてしまうのだから、今こうしているのは何の意味も無い事なのかも知れない。
それでも、じゃあいっそ今のうちに壊してしまおう、なんて事をする勇気は僕にはない。

夏の日照りに遣られた温い水槽のような、舌の上に残るさっき食べたチョコレートの芳香のような、50メートル先の標識のような。

曖昧でよく分からない、それ。

壊す勇気がないのなら醜く縋り付く他はない。今日も明日も明後日も、その日が来るまで。
僕は縋り付いているだけだから、君が他の人とどんなに仲良さげに喋っていようが止める権利はない。
でも、それでいいとも思う。
微妙な距離から君を見つめて、ふとした仕種に心臓をぐちゃぐちゃにされて、たまにこうして笑い合って。
それだけでいいんだと思う。



そんな事を考えて一瞬笑顔が崩れた。
その隙、教室のドアを開けてするりと出ていってしまった君を見送って、

何て事だ。

僕は、縋り付く事すら出来ていなかったと 気が付いた。



 
2010/08/31

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