捧げ物 | ナノ


花火 1
近所の神社である花火大会にみんなで行く事になった。
星野が『せっかくだから女子は浴衣にしろよ』と言った。
それに異論に唱える人物なんているだろうか?
いや!いるはずがない!

「だったらあたし達だけじゃなく男性陣も浴衣じゃなきゃね!」
と言ったのは、うさぎだった。

そんなわけで、待ち合わせ時間は午後五時半に神社の鳥居のところとなった。





──午後六時

待ち合わせ場所の鳥居には浴衣を来た男性五人がいた。

「あいつらおっせーなぁ」
時計を見ながら星野。

「僕もう疲れた」
げんなりと夜天。

「夜天君、大丈夫ですか?」
そんな夜天を気遣う雄一郎。

「俺、冷やしたタオルの予備があるんで良かったらどうぞ」
そう言いながら、タオルを夜天に差し出す浅沼。

「何かあったんでしょうか?連絡もないなんて…」
大気が心配そうに言って、携帯を取り出した

──その時



「「おっまたせ〜っ」」
「「「ごめんなさい!」」」
元気な少女達の声が聞こえた。

そちらに振り向いた彼らは、言おうとした言葉をのみこみ、思わず見惚れる。

うさぎは濃い青の生地に白いウサギ柄の浴衣に、ピンクの帯。
トレードマークのおだんごはいつものままに、普段はそこからストレートに下ろされた髪は、邪魔にならないようにと、くるりと円を描いてコンパクトにまとめられている。
(おだんご!やっぱすっげぇかわいい!)


美奈子は紺の生地に。ひまわり柄、帯の色はオレンジ。
髪は後ろで結って、コサージュで止めている。
トレードマークの赤いリボンはない。
(美奈、髪をアップにしてるせいかな?いつもより大人っぽい)


レイは黒の生地に牡丹柄、帯は鮮やかな朱。
ポニーテールにされた髪には帯と同じ色合いの朱色のリボンがついている。
(レイさん!似合います!くぅっ!ポニーテール!うなじ最高!)


まことは、濃いピンクの生地に色とりどりの蝶々柄、帯は緑。
髪はいつものポニーテールよりも低い位置で、左側で一纏めにされ椿を模した髪飾りが施されている。
(まこと先輩、すごく綺麗だ。いつものポニーテールもいいけど、今日の髪型も可愛い)

亜美は、白の生地に、金魚柄で帯は青。
ショートヘアの髪には、蒼にはえる鮮やかな色合いのヘアピンが留められている。
(亜美、今日は一段と可愛いですね。
髪にヘアピンを使うだけでそんな犯罪的に可愛くなるなんて…もうどうしたらいいんでしょう)

男性陣は自分の彼女を見つめ、それぞれの思いを抱く。
(夏祭り最高!)





「浴衣の着付けにバタバタしちゃったのよねぇ…うさぎと美奈子ちゃんのせいでっ!」
レイが二人を睨む。
「「だってぇ〜…」」
「だってじゃないわよ!」
いつものバトルが始まったのを横目に、男性陣が亜美とまことに目線を向け説明を促す。

「えっと…」
「うさぎちゃんと美奈子ちゃんが、せっかく締めた帯でお代官様ごっこ始めちゃってさ」
まことが苦笑いで手短に言うと、呆れたような、仕方ないかと言うようなリアクションが起こる。

「ホントにバッカじゃないのっ!」
「「バカじゃないもん!」」
「大バカよ!」
「だってしょーがないじゃない!帯を『あ〜れ〜』ってやるのは女の子の憧れよ!」
美奈子が自信満々に胸をはって言う。
「そんなわけないでしょっ!」
「そんなわけあるよ!ねぇ!亜美ちゃん!まこちゃん!」

「「えっ!?」」
うさぎが突然、亜美とまことに話をふる。
「「憧れるよねぇ!」」
「あたしは別に…」
「うん。あたしも……ないな」
亜美とまことは否定する。

「「なんでっ!?」」
「なんでって…むしろそれはあたし達が聞きたいよ。
なんでそこまで二人がお代官様ごっこに憧れるのかがわからないよ?」

まことが言うと亜美もこくこくと頷いている。

「おだんご」
「美奈」
彼女の“お代官様ごっこしたい発言”に反応したのは二人。

星野はうさぎ、夜天は美奈子の肩をガシッと掴むと、とびきりの笑顔で似たようなことを言った。

『そんなに“お代官様ごっこ”がしたいんなら、今夜二人きりになってからたっぷりしてあげる。今夜は楽しめそうだね』
大体こんな感じの言い回しだった。

周囲の空気が固まる。
うさぎと美奈子はさすがに真っ赤になる。

「お、お代官様ごっこ…」
「何赤くなってんのよ!雄一郎のバカっ!」
「レイさんとお代官様ごっこ…っ」
「言っとくけど、あたしは絶対にしないんだからっ!」
妄想世界に入りかけた雄一郎の背中をバシバシと叩くレイの顔は真っ赤だ。

「月野さんと愛野さんはいつも面白いですね」
爽やかに笑いながら浅沼が言うと、
まことは疲れたように頭を押さえる。
「笑ってる場合じゃないよ…ホントに大変だったんだから…」
「そうよ。亜美ちゃんが浴衣の着付け出来て助かったわ。あたし一人じゃ、あの二人はどうにもならなかったもの」
「うん。ホントだよね」
「ううん。そんな事ないわ。レイちゃんほどうまくできないもの」
亜美は母から浴衣の着付けを教えてもらっていた。
「まこちゃんも髪のセットありがとね」
「ううん。それくらいお安い御用さ」



「それにしてもおだんごか愛野がピンクの浴衣で来るのかと思ってたんだけど?」
「僕も思った。そうだよね。木野がピンクで水野が白ってなんか以外だよね?」
「お二人が青とか紺のイメージありますからね」
「でも、みなさんすごく似合ってます!」
「えぇ。髪型も可愛いですしね」

「ん〜…浴衣を買いに行った時に、あたしと美奈子ちゃんはレイちゃんに白とかピンクは却下されちゃったんだよね」
「なんで?」
「レイちゃんたら、あたしとうさぎちゃんが屋台の食べ物で浴衣を汚すから絶対にダメだって却下したのよ!」
「「あぁ」」
なにやら納得した様子の星野と夜天。
「さっすが火野」
「美奈達のことよくわかってる」
「「ひどーい!」」
「な、なによ?ホントのことでしょ?だからせっかくだからイメージを変えてみるのも
ありかと思ってまこちゃんにピンク、亜美ちゃんに白の浴衣を薦めてみたの」
「「なるほど(火野さん感謝です)」」
「確かにまことさんや亜美さんは食べ物の屋台で浴衣を汚すことはなさそうですもんね」
「でしょ?」

「さて、ここでおしゃべりもいいですが、そろそろ行きませんか?」
大気が促すと、みんなから賛成の声が上がる。



ちなみにトップアイドルのスリーライツがこれだけ騒いでバレないのにはちゃんとした理由がある。

うさぎが使っていたムーンスティックをルナとアルテミスが分解し手を加えた。
それを使えば周りの人からは、本人とはわからなくなるものをつくってしまった。

なんでも人体に影響のないオーラのようなものが彼らを覆い、人の視覚・聴覚から得た情報を改竄し、脳に認識させる事でバレないようにする。

つまり、周りの人には、星野、夜天、大気は本人達として認識されていないのだ。

彼らの耳にシンプルなシルバーのイヤーカフがつけられている。
これこそ、彼らの正体を分からなくする『認識誤認装置』である。
それでは、なぜうさぎ達だけでなく、雄一郎や浅沼が認識できているのかと言うと、
ルナとアルテミスがキャンセラーを作り、二人に持たせているからである。

ちなみにアルテミスが言うにはこれはキンモク星人である彼らが使った時にのみ効果が発揮できるようになっていて、
さらに、うさぎ達セーラー戦士には効かないようになっているらしい。
なんだかすごいぞルナとアルテミス。
(“すっごい強引”とか“おかしい”とか地の文にツッコミ入れない)





そんなこんなで、他の人から騒がれることなく(むしろ彼らが騒がしい)五組のカップルは動き出す。

「あたしたこ焼き食べたい!あっ!いか焼きも〜っ!焼き鳥もおいしそーっ☆」
「玉子せんべいは外せないわ!当たりが引ければ玉子増量よ〜♪」
「お前ら…」
「食べ物しか頭にないの?」
先頭を歩くのは食べ物の屋台にはしゃぐうさぎと美奈子に、それを止める星野と夜天。

「あら、ベッコウ飴」
「おぉっ!懐かしい!俺好きなんですよ」
その後ろにレイと雄一郎が続く。

「林檎飴って小さい方が食べやすいし、飴とのバランスもいいよね?」
「確かにそうですね。でも俺、つい大きい方買っちゃいますよ」
そこにまことと浅沼が続き、大気と亜美は最後尾を歩いている。

「亜美」
「はい?」
「浴衣すごく似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます///」
「自分で着付けしたんですか?」
「いえ、レイちゃんにしてもらいました」
「ヘアピンは?」
「まこちゃんがたくさん持って来てて……変ですか?」
少し不安そうに聞く亜美に大気はくすりと笑う。
「いえ、すごく可愛いですよ」
「っ///」
みんなが食べ物屋台の話をしてる中、やたらと甘いムードの二人。



まずは礼節として境内への参拝をすませる。
レイと雄一郎の作法に習ってきちんとお参りをして、再び屋台に戻る。



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