捧げ物 | ナノ


ふたつの頬花 後編
翌日

「じゃあ大気と水野、責任持ってフォローよろしく」
「分かりました」
「はい」
「昨日話した作戦、美奈覚えてる?」
「ひとつ、あたしはなるべく大気さんと、夜天君はなるべく亜美ちゃんといること。
ひとつ、それぞれのファンには毅然とした態度で振る舞うこと。
ひとつ、どうにもならなくなったら『急な仕事』が入った事にして早退すること」
「うん。よくできました」

「夜天君はあたしをなんだと思ってるの!?」
「時々暴走しすぎる僕の恋人」
「なっ///」
夜天にサラッと返され、美奈子は赤くなる。

「はい、じゃあ───そろそろいい?」
「うん」
「大気たちも、あ、そうだ。先に言っとかなきゃ…大気ちょっと来て」
夜天が大気と少し離れたところで小声で話し始める。

亜美はちらりと“夜天”を見つめ、両手を合わせてごめんなさいをする。
美奈子はくすっと笑って、首を横にふる。

「亜美ちゃんもう気にしないで。勝手に飲んだあたしも悪かったんだし、ね?」
「う、うん」
「まぁ、最初はどうしようかと思ったけど、夜天君の身体だったから、まだ…ね?」
「そう?」
「そうよ。これがもし星野君とか大気さんだったら、さすがに無理だったけど…」
「あ…うん」
「亜美ちゃんもさすがに嫌でしょ?」
亜美は素直にこくんと頷く。



昨日あの後、美奈子が直面した大問題がお手洗いだった。
その時になって、美奈子はようやく夜天の言葉の意味と、亜美が泣きそうになっていたわけを理解した。

我慢するにも限界があり、美奈子は夜天に諭されて、なんとか事なきを得た。

『…っ、夜天君…あたしっ、頑張った?』
『うん。よく頑張ったね。美奈』
夜天はよしよしと美奈子をなだめた。

ちなみに、大気が星野とうさぎにも話して協力してもらおうと言ったのだが…

『月野はドジって周りにバレそうだし、星野は絶対に面白がるから嫌』
と、一蹴したため協力者は亜美と大気の二人だけだった。

「ごめん。お待たせ。そろそろ学校行こう」
「うん」
「いい?ここを出たらどこで誰が見てるかわからないからね?
美奈はちゃんと“僕”になりきってよ?」
「分かってるって」
「よし、じゃあ───」

ガチャリとマンションの扉を開ける。



校門を入ると女子生徒の眼差しが大気と“夜天”に集まる。
亜美と“美奈子”はあえて少し遅れて校門をくぐった。

「おはよう!大気さん、夜天君」
彼らのファンらしき少女達が、ここで会えたのはラッキーとばかりに挨拶を交わす。
「おはようございます」
「“…おはよ”」
アイドルスマイルの大気と、“眠たそうにした夜天”がにこりともせずに返す。

「おはようございます!美奈P先輩、水野先輩」
「“おっはよ〜”」
亜美と“美奈子”に後輩の男子生徒が挨拶をしてきた。
夜天は内心で『何、気安く呼んでるんだ』と、思いながらも“美奈子”として笑顔で挨拶を返した。
亜美も「おはよう」と返し、教室に向かう。

「おはよう、亜美ちゃん美奈子ちゃん」
「おはようまこちゃん」
「“おっはよ〜まこちゃん”」
「今日も元気だね、美奈子ちゃん」
「“当然よん♪”」

「あ、大気さんと夜天君もおはよう」
「おはようございます」
「“オハヨ”」
「あれ?星野君は?」
「まだ寝てましたね」
「“月野と二人そろって遅刻なんじゃない?”」

そんなやりとりを亜美は感心して眺めていた。

(美奈子ちゃんも夜天君もすごいわ。お互いの事がよくわかってるのね。
あたしが失敗しないように気を付けないと…)

「亜美?」
「え?」
「何か考え事ですか?」
「いえ、別に」

───キーンコーン

「“あ、予鈴”」

星野とうさぎは遅刻かと誰もが思った時だった。

───バンッ!

「「セーフっ!!」」

同時に二人が教室に入って来た。
みんなでくすくす笑って挨拶を交わした。

「おはよ〜。美奈子ちゃん」
「“おはよ、うさぎちゃん。ギリギリね”」
「うん。二度寝しちゃってさぁ〜……うん?」
うさぎが“美奈子”をじっと見つめる。

「“なぁに?”」
「うーん?」
うさぎが“美奈子”を見つめたまま首をかしげる。

「っ、“やーん♪うさぎちゃんたら、そんなに見つめられたら美奈子テ・レ・ちゃ・う♪”」
「あ、ごめん。なんでもないの。今日は美奈子ちゃんお仕事お休み?」
「“うん”」

担任の夏海が入ってきたため、夜天はホッとして席についた。

特に問題なく授業は進んでいった。
運良く“夜天”も“美奈子”も当てられずに済んだ。

ただ、休み時間は何かと面倒だった。
美奈子が載ったファッション雑誌を持って話を聞きに来る女子生徒がいたり。
夜天が出たCMが今朝から流れ始めたため、夜天を見にくる生徒がいたり。

学校はプライベートだからそっとしておいてくれと言ってある。

普段はこんな事はないのだが、今回のようにスリーライツや美奈子が雑誌に載ったり、新しくCMに出たり、ドラマ出演があったり、さらにCDが発売された直後などにはこういう事は起こってしまう。



───お昼休み

逃げるように教室から飛び出し、屋上でみんなでお弁当を食べる。

「ん?今日の美奈子ちゃんと夜天君のお弁当は亜美ちゃんと大気さんと一緒?」
「“うん。大気お手製だよ”」
「“あれ?亜美ちゃんも手伝ってたわよね?”」
「うん。ホントに少しだけどね」
「そんな事はありませんよ」

「ねぇ、大気さんと亜美ちゃんは何時に起きたの?」
「六時前ですね」
「あたしもよ」
「はやっ!じゃあ夜天君と美奈子ちゃんは?」
「“あたし達は亜美ちゃん達のお言葉に甘えさせてもらって七時半までゆっくり寝てたわ。ね、夜天君”」
「“うん。美奈はかなりギリギリまでぐっすり寝てた”」
「“だって疲れてたんだもん”」
「“うん。僕も”」

「お前ら昨日オフだったんだろ?そんなに疲れる事したのかよ?」
「……“星野君サイッテー”」
「なんでだよ!?」
「星野サイテー」
「なんでだぁぁぁぁぁぁっ!」

「そういや美奈子ちゃん」
「“ん?なに?うさぎちゃん”」
「今日はまこちゃんのおかず貰わないの?」
まことのお弁当のおかずを頬張りながら、うさぎが聞くと夜天がギクリとした。

(そういや、いつも木野のおかず貰ってたな…でもさすがにそこまで……やらなきゃダメ…だよね)

「えっと……」
「好きなの持ってっていいよ?」
どうしたものか迷う“美奈子”にまことがそう言う。

「“美奈、ダイエット中って言ってなかった?”」
“夜天”がそうそう助け舟を出したが、夜天は美奈子に「ちゃんと“僕”になりきれ」と言った手前、自分も“美奈子”になりきらなくては示しがつかない。

「“ちょっとなら平気だもん♪まこちゃんこの野菜の肉巻き貰っていい?”」
「うん、いいよ」
「“ありがと♪んむっ、おいし〜♪”」
もぐもぐと野菜の肉巻きを食べる“美奈子”を“夜天”がじっと見つめる。

(あたしもまこちゃんの野菜の肉巻き食べたいっ!)

「ねぇ、まこちゃん?あたしも野菜の肉巻きもう一つ貰っていい?」
「え?いいけど、うさぎちゃんそんなに気に入った?」
「ありがと。あたしじゃなくて───はい、夜天君」

うさぎは貰ったそれを食べずに“夜天”の弁当箱に入れる。

「え?」
「美奈子ちゃんを羨ましそうに見てたから、もしかしたら欲しいのかなって」

驚く“夜天”にうさぎがそう言うと、大気と亜美が素早く視線を交わし小さく頷きあった。

「あ…“ありがと。美奈があんまりおいしそうに食べるもんだからさ”」
「あぁ、おだんごもだけど。愛野もうまそうに食べるよな」
「星野君もいるかい?」
「ん?木野自分の分なくなるぞ?」
「いいよ。実はこれ昨日の夕飯の残りなんだ。
亜美ちゃんと大気さんも良かったらどう?」
「じゃあ、いただきます」
「ありがとうございます」
「サンキューな」
「どういたしまして」

お弁当を食べ終わり教室に戻る途中、うさぎが屋上に忘れ物をしたから亜美についてきてと言って、屋上に二人で戻った。

「うさぎちゃん?」
「えへ、忘れ物したなんてウソついてごめんね」
「…どうかした?」
「あのさぁ…あたしの気のせいかもしんないんだけどね。
“美奈子ちゃん”と“夜天君”なんかヘンじゃない?」

亜美はやっぱりと思った。
うさぎは亜美や大気のように勘が鋭いほうではない。
ただ、本能的なところで感じる“その人”のまとう空気の変化にはとても敏感だ。
“二人のなりすまし”は完璧でも、まとう空気に違和感を覚えたのだろう。

さっき“夜天”にまことのお弁当のおかずを差し出した時に亜美は確信した。

朝、うさぎが不思議そうにしていたのも“何かが違う”と思ったからだろう。

「うん。なんか違和感があるんだよねぇ。亜美ちゃんはどう思う?」
「そうね……」

亜美はどう答えようか悩んだ、その時だった。

「へぇ?意外とやるじゃん。月野」
「やっぱりうさぎちゃんは騙せなかったかぁ…」

どこか感心したような“美奈子”と、苦笑いする“夜天”がいた。

「───“夜天君”と“美奈子ちゃん”?」
「そうだよ」「そうよ」
「なんで?」
「説明は放課後にでも家でするよ」
「そろそろチャイム鳴っちゃうわよ?」
「う、うん」
「あ、それと悪いけど、僕は学校を出るまでは“美奈”で、美奈は“僕”だから、他の子たちに余計なこと言わないでね」
「うん。分かったよ」



残すところあと一限となった時だった。

「おい、なんか隣のクラスのやつにきいたんだけど、次の英語抜き打ちやるみたいだぞ?」
クラスメイトの会話が聞こえ、みんなが青ざめる。

「“美奈、水野、大気、ちょっと”」
“夜天”が三人を呼び出した。
「待って。夜天君、美奈子ちゃん」
「“どうしたの亜美ちゃん”」
「さっきの授業のノート持っていって」
「“うん”」「“えぇ”」

人の少ない階段の踊り場で小声で早口で話す。

「どうしよう?抜き打ちとか…」
「今から仕事って言って帰るのがいいかな…」
「落ち着いてください二人とも」
「そんなに心配はいらないと思うわ」
二人のノートをめくっていた亜美がそう言い切る。

「どこがさ!美奈の成績が僕の成績になるよ!?」
「ならないわ」
「どういうこと?」
「今、二人のノートを見せてもらったんだけど。
今日の授業内容のところは夜天君のノートは“美奈子ちゃんの筆跡”、美奈子ちゃんのノートは“夜天君の筆跡”なの」
「本当ですね───あぁ、なるほど」
亜美の隣からノートに視線を落としていた大気が納得したように頷いた。

「夜天君も美奈子ちゃんも自分の名前を書いて受ければいいわ」
「え?でも」
「先生達はあたし達の筆跡を意外と知ってると思うの」
「つまり夜天が愛野さんの名前を書いて抜き打ちを受けると逆にマズイんです」
「でも、そんなにうまくいくかな?先生が回ってきて見られたら」

「だから名前は最後の最後に書いて。
そうすれば答案は裏向けて回収だから他の人に観られる心配はないと思うの」
「わかった」「了解」

そんなこんなで無事に今日一日の授業を終え、帰路についた。

ライツマンションでお茶を人数分入れ、手短に説明をすませた。

「え?亜美ちゃんが作った薬で?」
「水野、お前…」
「ごめんなさい……」
「気付いていなかった星野にえらそうに言われたくありません」
「うっ…悪かったな…」

「はぁっ、つっかれた〜」
「うん。ホントにもうクタクタ」
ソファの背もたれに身体を預けて、美奈子と夜天は緊張状態からようやく解放される。

「二人ともすごいね。あたしも全然気が付かなかったよ」
「ふーん。そんな事になってたのね…それにしても、亜美ちゃん」
まことと、校門の所で待ち合わせしていたレイも一緒だった。

「そういうところはマーキュリーと変わらないなぁ」
「ホントよね。昔もやたらと色んな薬とか作ってたもんね?」
まこととレイが亜美を見つめてなんとも言えないとばかりに笑う。

「ねぇ、そもそも亜美ちゃんいつそんな薬作ってるの?」
うさぎが聞くと、亜美がきょとんと目を丸くする。
「だって亜美ちゃん忙しいよね?いつ?そもそもどこで作ってるの?」

「ヒミツ」
亜美はそう言って笑顔を見せた。

なんとなくそれ以上は聞かない方がいい気がしたので、追及しないでおこうと密かに心に決めた。

「美奈子ちゃん、夜天君。
あと五分くらいで“くる”と思うから気をつけて」
「うん」「了解」
時計を見た亜美が言うと、夜天と美奈子は嫌そうに頷いた。

「え?何がくるんだよ?」
「入れ替わりにともなう症状で、激しい目眩」
「そうだったんですか?」
「はい。ほんの一瞬ですけど意識がブラックアウトします」
「「「「…………」」」」
さらりととんでもない事を言ってのける亜美に、星野とうさぎ、まこととレイが唖然とする。

みんな黙って、静かに時間が過ぎるのを待つ。

「ーっ」
「うっ」
夜天と美奈子の身体がぐらりと傾く。

「あぶねっ」
夜天の身体を星野が。
「おっと」
美奈子の身体をまことが支えた。

「二人とも大丈夫?」
亜美が静かに声をかけると夜天と美奈子はゆっくりと目を開ける。

「目眩が残ってたりしない?」
「僕は大丈夫」
「うん。あたしも平気」

「良かった、戻ったね〜」
うさぎが安心したように言う。

「“まだ僕が美奈のフリをしてるかもしれないよ?”」
「ううん。今の美奈子ちゃんは美奈子ちゃんだよ」
美奈子がいたずらっ子のように笑って言うと、うさぎははっきりと否定した。

「僕はこんな事もうこりごりだよ…」
「さすがにあたしももういいわ」
二人がげんなり言うとみんなが苦笑する。

「美奈子ちゃん、夜天君。迷惑かけて本当にごめんなさい」
亜美が二人に頭を下げる。

「あたしは頑張ってる夜天君を見られてちょっと楽しかったわ♪」
「僕はひたすら疲れたよ」
「二人ともすごかったよね〜、亜美ちゃん」
「そうよね。お互いの事をよく見てるのね」
「うん。そうだよね。空気に違和感がなかったらわからなかったよ」
「あたしはホントに分からなかったよ」
「俺もだよ。つーか教えてくれれば俺だって協力したぜ?」

「嘘だね。星野は絶対に面白がるよ」
「あー…まぁちょっとはな」
「ったく…こっちはバレないようにするのに必死だったってのにさ……」
ハハハと笑う星野を夜天がムッと睨む。

「あ、そうだ。水野」
「なに?」
「“約束”覚えてるよね?」
「あ……、えっと……ハイ」
「「「「約束?」」」」
「入れ替わった時に薬を作った責任として、あたしと夜天君のお願いをひとつずつ聞くっていう……交換条件だったの」

「美奈はなんかある?」
「ある」
「なに?今なら多少の無茶でももれなく水野が聞いてくれるよ」
「うぅっ…お手柔らかにお願いしたいんだけど…」
「泣かせると大気に飛ばされるけどね」
((((どこに?))))

「亜美ちゃん」
「ハイ…」
「あの…ね」
美奈子はなぜか言いにくそうに、モジモジする。

「今からどっちがいいか選んで」
「……え、えぇ…分かったわ」
「男子はちょっと部屋から出てって」
「「「は?」」」
「いいから。ほら、夜天君おトイレ我慢しちゃ身体に悪いわよ?」
「ーっ、美奈のせいだろ!」
三人をリビングから追い出した美奈子はくるりと亜美に向き直る。

「ねぇ、亜美ちゃん」
一歩一歩、ゆっくりと亜美に近づく。
「な、なぁに?」
亜美は一歩一歩美奈子から離れるが壁に追い詰められる。

「まずは一つ目の選択肢」
「うん」
「すっごいえっちぃ下着で大気さんを誘惑する」
「ふぇっ!?」

「「「ちょっと!美奈子ちゃん!?」」」
見守っていた三人がギョッとする。
「もちろん下着はあたしチョイスよ?」
「いや、あたし達が言いたいのはそこじゃないよ」
「いくらなんでもやり過ぎだよ」
「そうよ!見なさい!亜美ちゃんが現実逃避しちゃったじゃないの!」
うさぎやまこと、レイは口々に言い募るが、亜美は言われた事への衝撃で固まっている。

「で、もう一つの選択肢」
「……」
「あーみちゃん?聞いてる?」
「っ、あ、えぇ」
「あのね…亜美ちゃん」
「な、なぁに?」
「亜美ちゃんに一曲弾いて欲しいのっ!」
「えぇっ!?」
“お願い”のポーズで亜美にそう言う美奈子を見てうさぎ達がホッと胸をなで下ろす。
美奈子の本当のお願いはそれかと思い至る。

「亜美ちゃんこの前の学園祭でスリーライツとコラボしたでしょ?」
「えぇ」
「その時にね、あたしも亜美ちゃんの演奏で歌いたいなぁって思ったの。
夜天君も大気さんも星野君も、すっごい気持ち良さそうに歌ってて、あぁいいなぁ、あたしもあんな風に歌いたいなぁって思ったの」
「っ///」
美奈子に言われた亜美は赤くなる。
「来年にファーストアルバムを出すのがあたしの目標なの!
だから亜美ちゃん、前向きに考えてて?おねがい」
「えぇ、分かったわ」
亜美はふわりと笑った。



その後、夜天は「僕の水野への“お願い”は大気に一任するよ。煮るなり焼くなりご自由に」と言ったため、亜美が遠い目をした。
大気は「いいんですか?夜天の権利ですよ?」と言ったが……。
「いいよ。水野にとっては一番効果的でしょ?」
そう言った夜天の言葉にみんなが「確かに」と頷いた。

「なるほど…では───ありがたく戴かせていただきます。ねぇ亜美?」
“にっこり”と笑った大気の笑顔に亜美はがっくりとうなだれた。

「夜天君……」
「ん?」
「亜美ちゃんのイジメ方をすっかり心得てるわね?」
「そりゃあ美奈達のやってる事と、大気と水野を見てればね」
「ひどいなぁ」
「えっちぃ下着で大気を誘惑させようとしてた美奈には言われたくない」
「あれ?」
「美奈の声よく通るからね。全部聞いてたよ。僕だけじゃなく大気も星野も」
「ありゃ〜?」
「まぁ、いいんじゃないの?」
「え?」
「最近、水野が忙しかったせいか、大気が色々と限界っぽかったでしょ?」
「なるほど」
美奈子は納得したように頷いた。

「さて、美奈」
「なぁに?」
「あんまり学校の男共に愛想を振りまかないこと」
「え?なんで?」
「……ナンデモ」
美奈子に馴れ馴れしく声をかけてきた下級生や同級生たちにいちいち嫉妬したから、なんて絶対に言ってやらないと心に決めて夜天は美奈子の髪にそっとくちづける。

「おーい、大気も夜天もここに俺達がいるって忘れてるだろ…ったく」
「はぁっ、なんだかんだで美奈子ちゃんのところだけじやなくて、亜美ちゃんのところもバカップルなのよねぇ…
やれやれだわ。あ、あたしそろそろ帰って仕事しなきゃ」
「あ、レイちゃん。あたしも帰るよ。
浅沼ちゃんとこ行かなきゃならないんだ」
「え?二人とも帰っちゃうの?」
「うん。じゃあね。みんなまた明日学校で」
「それじゃあねうさぎ、星野君もまたね。
そこのバカップルズもまたね?」
「「レイちゃん///」」
「お気をつけて」
「じゃあね」

まこととレイが帰ったリビングで六人はお茶をおかわりしてくつろいだ。

「そうだ。水野」
「はい?」
「薬の処分ちゃんとしてよ?」
「あ、うん」
「そんな危険そうな薬どうやって処分するの?」
「ふたつ一緒にすれば無効化されるから大丈夫」

「亜美、その薬ってどこにあるんですか?」
「持ってますよ」
『えっ!?』

亜美が鞄の中から当たり前のように“それ”を取り出す。

「中を見てもいいですか?」
「どうぞ?」

大気がひとつを包みから出すと、うさぎと星野も興味津々でそれをじっと眺める。

「キレイだね」
「え!?あの薬ってそんなビー玉みたいなヤツだったの?」
「夜天は見たんじゃねーのか?」
「包まれてたやつしか見てないから中身は見てない」

「亜美ちゃんこれって食べても大丈夫なの?」
「えぇ、人体に影響の無いものしか使ってないもの」
「それでなんで中身が入れ替わるんだよ?」
「さぁ?あたしは文献に書いてあったとおりに作っただけだもの」

「これってどんな味がするの?」
「おい、おだんご?お前なに興味持ってんだ?」
「だって気になる」
「無味無臭よ」
「うん。コーヒーに入れられてもまったく気付かなかったくらいに味もにおいもなかった」
「うん。コーヒーに跡形もなく溶けたわ」

「ふむ……」
「大気?飲むのか?」
「まさか」
「もし水野と入れ替わったら色々するって言ってたよね?」
「えぇ」

薬を見つめたまま考え込む大気にみんなが首をかしげる。

「亜美。この薬って」
「はい?」
「基本的に同性間でしか効果を発揮しないはずですよね?」
「……えぇ…、本来はそのはずなんですけど…」

「え?なに?大気それ知ってるの?」
「直接見たのははじめてですが、キンモク星の書庫にあった本に載ってあったんです」
「……マジかよ。お前ら二人なんでそんな無駄に記憶力いいんだよ…」

「亜美ちゃん…同性間でしか効果を発揮しないってどういうこと?」
「あたしにも詳しいことはわからないんだけど、その文献にはそう書いてあったの。
“基本的には同性間で効力を有するものであり、異性間ではよほどの事がない限り効果は発揮できない”って…」
「つまり“よほど”の事があれば効果があるって事?」
「そうね。でもそれがどんなものなのかわからないのよ…」
「うーん…美奈子ちゃんと夜天君……よほど…よほど……なんだろ?」

「あの…いいですか?キンモク星にあった別の本にははっきり“よほど”の答えが載っていたんですが……」
大気が切り出すと、みんなの視線が集まった。

「すごく簡単な事です」
「え?恋人同士?」
「それは第一条件だと思います」
「え?なんだ?俺とおだんごでも替われるか?」
「さぁ?それは私にはわかりませんが……」
「じゃあ、大気と水野は?」
「替われると思いますよ」

「大気さん。亜美ちゃんと替われると思うって言い切ったのは確信があるから?」
「えぇ、そうですね」
「……なるほど…、大気さんもしかしてそれって……」

美奈子が真面目な表情で、真剣な声音で答えと推測した“言葉”を口にした。

「身体の相性だったりする?」

美奈子の言葉に固まる夜天と亜美に、目を丸くする星野とうさぎ。
そして───ニッと笑って「正解です」と言い放つ大気。



その後、作成者の亜美が責任を持って薬を処分した。






あとがき

20000のキリリク下さった方。
リクエストありがとうございます。

なかなか難しく、入れ替わるのなら外的な衝撃か薬品のどちらかだろうと思って、悩んだ結果、薬品にしました。

夜天君の美奈のふりを書いてて楽しかったです。

少しでも楽しんで戴ければ嬉しいです。



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