捧げ物 | ナノ


スター 6
「いやぁ、すっごい盛り上がったわねぇ♪さすがよねぇ〜♪」
学園祭のすべてのスケジュールが終了し、ライツマンションへと戻ったメンバー達。

もちろん、うさぎ、まこと、レイも一緒だ。

「ホントにびっくりしたわよぉっ。美奈子ちゃんだけじゃなく星野も全然なんにも言ってくれなかったし」
「わりぃわりぃ。絶対に情報が漏れちゃダメだったからさ。おだんごにも秘密にしてたんだよ」
「シークレットライブ自体もそうですが、それよりも亜美が出ることを知っていたのは、担任の楠先生と音楽の柳井先生だけでしたし」
「もし生徒に情報が漏れたらライブそのものをやらないっていう条件だったからうさぎちゃん達にもナイショだったのよ。
亜美ちゃんにも参加することになってから教えたしね」
「それに当日に先生達の動きがあやしかったらダメだろうって言って、楠先生達以外には直接関わらないようにしてもらってたしね」
「まぁ、そのおかげで色々と動きやすかったですね」

「それは分かったんだけど、亜美ちゃんはそれで良かったの?」
レイが心配そうに亜美を見つめる。

今回の事で、世間に正体がバレてしまう可能性は非常に高かった。
いくら学園祭の後夜祭で、外部関係者がいないとは言え───リスクは大きい。

それだけじゃない。
大気との関係もバレてしまう可能性があった。

そうなると、亜美の“ハーピスト”としての道は険しくなる。

“ハーピスト”としてよりも、世間からは“スリーライツの大気光の恋人”として注目を集めてしまうだろう。

その事を案じての事だった。

「───うん。全部覚悟して自分で決めたことだから」
そう言ってふわりと微笑む亜美。

「うーんと…さ。正体の方はなんとも言えないけど、大気さんとの事は心配はいらないと思うよ」
まことが言うと、みんなの視線が集まる。

「今までだってスリーライツ復活の時とか、美奈子ちゃんがデビューした時とか他にも学校に取材が来たりしただろ?
関係がバレるんだったらその時にバレててもおかしくなかったって思わないかい?」
「そうかもしれないけど……今回もうまくいくか分からないじゃない」

「ありがとう、レイちゃん。心配してくれて」
「っ///」
「レイちゃん照れてる〜♪」
「う、うるさいわね!/// バカうさぎ!」
「レイちゃんは一人だけ学校が違うから、心配も人一倍なんだよね」
「うっ///」
「もうレイちゃんてばやっさしぃなぁ♪」
そう言ってうさぎがレイに抱きつく。
「ちょっと///」
「やっぱ制服かっわいい〜♪うさぎちゃんそのまま抱きついてて!」
「ラジャ!」

───ズキューン

「ちょっと勝手に撮らないでよ!」
「だってレイちゃんのコスプレ」
「コスプレ言うな!」
「美奈子ちゃんそれあたしに送って〜」
「オッケーよん☆まこちゃんと亜美ちゃんもいる?」
「あ、欲しい」「あたしも///」
「なんで!?///」
「いや、だってレイちゃんの十番高校の制服姿なんてもう見られないだろ?」
「そうよね。それにすごく可愛いわ」
「〜っ//////」

そんな五人の久しぶりのやり取りをライツの三人は温かく見守る。





そして、代休明けの学校。

ガラリと教室の扉を開け、亜美が教室に入るとクラスの視線が一気に集まる。
学校に入ってから教室に入るまでの間も同じような視線を感じていたが……。
亜美はあえてその視線を気にせず自分の席に着くと鞄の中身を机に詰める。

自分の親友の少女達はまだ来ていない。

「あの、水野さん」

前の席の子が亜美にそっと声をかける。

「はい?」
「えっと、おはよう」
「えぇ、おはよう」
「あ、あの」

何やら言いたそうにしている。

「なぁに?」
「あの!わたし、この間の水野さんの演奏すごく感動したの!」

「───え?」
「すごく綺麗で、優しくて、あったかくて。
それが、スリーライツの歌とすごく合ってて、わたしが今まで聞いたスリーライツの“流れ星へ”で一番好き」

そう言って亜美の手をギュッと握った。

「───あ、ありが、とう//////」

亜美はそれしか言えなかった。

それがきっかけになったのか、亜美は質問攻めにあった。

「あの変装ってどうやったの?」
「水野さん勉強できてハープまで弾けるなんて、すごすぎる!」
「一日に何時間くらい練習してるの?」
「え?朝から弾いてくんの!?」
「手見せて?」
「うわぁ、水野さん手ちっちゃいねぇ」
「指とか痛くなったりしないの?」

そんなやりとりとしていると、まことが登校してくる。

「ありゃ…」
亜美の席の周りに人だかりが出来ていて、まことは少し心配そうに様子をうかがうが、今のところ問題はないようだった。

大気達も登校してくると、教室はさらにすごい事になった。

「すごいねぇ」
「ホントだね」
うさぎとまことは離れたところで見守るしかできない。

校門前にマスコミがいなかったところをみると、今のところ情報は流出していないと考えていいだろう。
が、油断は出来ない。

結局、その日は休み時間のたびに他のクラスや学年の生徒が、興味津々でクラスを覗きに来たりと、亜美達の周りは騒々しかった。



「星野君、大気君、夜天君、愛野さん、水野さん、ちょっといいかしら?」
放課後になり、担任の夏海が五人を呼び出した。

夏海に連れられ五人はある部屋へと通された。

【校長室】

「失礼します」
挨拶をして、その部屋に入ると校長、教頭、学年主任の足代、進路指導の草野がいた。

「っ」
亜美は小さく息を飲む。

彼らとは“あの日”以来、授業以外では顔を合わせていなかった。
放課後も呼び出される前に学校から去って、朝も予鈴ギリギリで教室に入るようしにしていた。

「座りなさい」
校長からそう言われ、五人はソファに座る。

「まずは、シークレットライブお疲れ様だったね。
とても盛り上がって、みんな楽しそうだった。
本当にありがとう」

「いえ、校長先生がシークレットライブを言い出してくださったからです。
俺達じゃきっと思いつきませんでした」

星野がスリーライツのリーダーとして話す。

「正直言うと最初はめんどくさいって思ってたんです…。
でも、曲を決めたり、衣装を決めたり、みんなをどうやって驚かそうかって考えてたらすごく楽しみになって。
ステージに立ったらすごく楽しくて、気持ち良かったです。
本当にありがとうございました」

「デビューして日が浅いあたしにも声をかけてくれて、ありがとうございました。
すごくいい経験になりました。
とっても楽しかったです」

夜天と美奈子が校長にお礼を述べる。

「そうですか。あなたたちにも楽しんでもらえましたか」
校長はそう言ってにこにこと優しく笑う。

「大気君はどうだったね?」
「そう───ですね。
すごく個人的な意見になりますが、私は“彼女”のハープで歌えた事がすごく嬉しかったです。
先生方を騙した事は申し訳なく思いますが、それが私の本音です」

「そうですか」
当然、大気と亜美の関係を知っている校長は楽しそうに頷くと、亜美に視線を送る。

「水野さん」
「はいっ」
「水野さんは、九月に海王みちるさんのリサイタルに出ていたね?」
「っ…はい」
「やっぱりそうですか。実は私は彼女の大ファンでね。あの日あそこにいたんだよ」
「え?」
「海王さんのヴァイオリンと、水野さんのハープの音色はとても素晴らしかったです」
「ーっ」
「もちろん今回のスリーライツのみんなとも素晴らしかったですよ」
「ありがとうございます」
亜美は頭を下げる。

「水野さんは、将来はどうするのかな?」

校長室の空気が張り詰める。

「ーっ、わたし、は」
亜美は顔を上げて、校長を真っ直ぐに見つめる。

「わたしはプロのハーピストになります」



「そうですか。君ならきっと素晴らしい奏者になれるでしょう」
校長は優しく微笑みながら、うんうんと頷く。
「大変な事もたくさんあるだろうけど、がんばりなさい。
決めたのなら簡単に諦めてはいけませんよ」

「はいっ、ありがとうございます」

「さて、教頭、足代先生、草野先生。
水野さんの進路希望は今ここで校長の私がはっきりと聞きました。
彼女はプロのハーピストを目指すと言っている。
これ以上の勝手は許しませんよ」

「ですが、校長!」

「君達は水野さんの演奏を聴いて何も感じなかったのか?
あれだけの音を聴いて、まだ子どもの遊びだと言い切るつもりか?」

「ですが、大学進学をしないとは…」

足代の言葉に亜美は慌てる。

「あ、あのっ!ちょっと待ってください!」

みんなの視線が亜美に集まる。

「あの…わたしは確かに医学部に行きませんとは言いましたけど…大学進学をしないとは一度も言ってないんです...けど」

亜美の言葉に教頭達が目を丸くする。

「水野君…大学進学するのか?」
「もちろん」
「するのか?」
「はい」

「何でそれを早く言わないんだ!?」

「えっと…先生方が医学部のことしか言わなかったので、医学部には行かない事はすでに決定事項だったので…」

「楠先生は知ってたんですか!?」
「担任なんですから当然です」
「なぜ言わなかったんですか?」
「足代先生たちは聞く耳持たずだったじゃありませんか?」

足代達はぐうの音も出ない。

「まぁ、あれだよ。教頭先生も足代先生達も水野さんの事を思いすぎての事だったんだよ」

「それはつまり───教頭先生や足代先生や草野先生が“彼女”にした言動や行動を許せと言うことですか?」

黙って状況を見ていた大気が校長の言葉に静かに口を開く。

あまりに冷静すぎる大気の声音に、星野や夜天がぎょっとする。

「そうだね…彼らにだって悪気はなかったはずだ」
「───悪気はなかった?」

大気の脳裏に泣きそうに瞳を潤ませていた亜美が、あの夜、眠りに落ちながら涙を零していた亜美の姿が思い出される。

「っ」
大気がギリっと拳を握りしめる。
「お、おい大気落ち着け」
「そうだよ」

「教頭先生、足代先生、草野先生。少しお聞きしてもいいですか?」
大気のただならぬ雰囲気に星野と夜天は頭を抱えたくなった。
美奈子もひくりと息を飲み青ざめている。
亜美は驚いたように大気の横顔を見つめる。

「先生たちが“彼女”に対して言った言葉は“思いすぎたがゆえ”ですか?」
「どういう意味だ?」

大気は制服のポケットからあるものを取り出す。

「SDカード」
「えぇ、何かあったらとこっそり彼女の制服にマイクを忍ばせていたんですよ。
足代先生が朝に“彼女”を呼び出した“あの時”に…ね」
『っ!?』
そこにいた全員が息を飲む。

「それと、私を呼び出した時の物も入ってます」
「なっ…大気お前は」
大気は話しながらポケットからなにやら取り出す。

「これをセットして再生すれば、先生方は言い逃れができませんよね?」
教頭達を見て、大気はくちびるを笑みの形に結ぶ。

「ですが、ここで再生するのはやめておきます。
言っておきますが、決して先生方のためじゃありません」
大気は亜美の肩を抱き寄せる。

「“彼女”のためです。
申し訳ありませんが、私は先生方のあの時の言葉を、校長先生のおっしゃるような“水野さんの事を思いすぎた言葉”だとは到底思えません」
大気の瞳が教頭達を射抜く。

「な、なにが言いたい」
「先生方はあの時のご自身の発言をどう思っているんですか?」
大気は真剣な表情を見せる。

「答えて下さい」

「……俺は」
足代がゆっくりと口を開く。
「俺が教師をはじめて20年以上経つが、これまで入学試験を満点で通った者は未だかつていなかったんだ。
それがはじめて満点合格者が出て、入学してから進路を聞いたら“医学部志望”だと聞いた。
俺は勝手に水野に期待してしまったんだよ。
だから“水野は医学部に行かなくてはいけない”と、そう思い込んだ。
そんなものは俺の身勝手なエゴだ。
水野、色々と失言をして本当にすまなかった」

足代は亜美に頭を下げる。

「え?あのっ…」

「水野さんみたいに優秀な子は頭脳を発揮しないともったいないとか、勝手に思ってしまっていたの。
本当にごめんなさい。
どこの大学に行くのかもう決まってるのかしら?
もしまだなら相談に乗るから」

「えっと…」

「僕もすまなかった。勝手な理想を一人の生徒に押し付けてしまった。
本当に申し訳なかったね。水野君」

「いえっ…あのっ…」

足代、草野、おまけに教頭にまで頭を下げられた亜美はどうしようかと慌てて大気を見つめる。

「悪いことをしたら、ちゃんと“ごめんなさい”をしないとね?」
大気はそう言ってくすりと笑うと、手にしていたSDカードを指でパキンと折る。

「色々と生意気な態度を取ってしまい、すみませんでした。
データはこれにしか入っていないのでご安心ください」

“にっこり”と笑って言う大気をみんなが唖然とした表情で見ていた。



「大気、おっまえ…」
「大胆すぎるよ…」
「いつの間にボイスレコーダーなんて持ってたの?」
「念には念を…ですよ」
そう言って校長室を後にした大気は微笑む。

「亜美」
「あ、はい」
「どうかしましたか?」
「…あの…大気さん」
「なんですか?」
「さっきの話は本当ですか?」
「どの話ですか?」
「制服にマイクを仕掛けた話です」
「あぁ───嘘ですよ」
大気はサラッと言ってのける。

「「「「え?」」」」
「ああ言って先生方の良心を試したんですよ」
「なぁ、大気それって…」
「もし先生達が前と同じように言い張ってたらどうするつもりだったのさ…」

「その時はその時です。徹底的にやりますよ?
それに私を呼び出した時の物が入っていたのは事実なので」
「大気さんってぜっっっったい敵に回したくないわ」
「美奈子ちゃんそんなに力いっぱい言わなくても…」

「に、しても良かったね水野」
「え?」
「大気さんが制服にマイクとか仕掛けてなくて、よ?」
「あ、うん///」

「では、帰りましょうか?」
「はい」
「おだんご達、教室で待ってるってさ。今日はオフだしこのままみんなでどっかでなんか食ってこうぜ」
「ねぇ、せっかくだしレイちゃんも呼んでいい?あ、そうなると雄一郎さんも来るかな?」
「うん、多分ね。そうなると木野も浅沼君呼べばいいだろうし」
「大人数になるな。どっか店開いてっかなぁ?」
星野は歩きながら器用にスマホを操作する。

美奈子はパタパタと走り教室に一番乗りで行くつもりのようだ。
その後を呆れながらも追いかける夜天。

「大気さん」
亜美が大気の制服の裾をキュッと掴む。
「はい?」
「あ、の///」
「ん?」
「色々とすみませんでした」
「何が、ですか?」

「また、大気さんにたくさん迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい」
しゅんとする亜美の碧い髪をよしよしと撫でる。
「私が勝手にしたことです。亜美が謝ることじゃありません」
「っ、はい」
そう言いながらも納得はしていないようで、大気はくすりと笑う。

「そうですね。じゃあ謝るんなら───キスしてください」
「えっ//////」
「今すぐ、ここで」
「なっ///」
亜美が真っ赤になってうろたえる。

大気はしてやったりと言った表情で、続ける。
「それが出来ないなら、亜美の“ごめんなさい”は聞かなかった事にします。
私が欲しいのは───っ!」

───チュッ

「っ///」
「“ありがとうございました”?」
大気の制服をくいと引っ張り、背伸びをして触れるだけのキスをひとつ。

誰もいない放課後の廊下だから出来た。

珍しく赤くなる大気に亜美はくすくすと笑う。

「たまには“仕返し”です♪」
ふわりと笑って、亜美はパタパタと教室に向かって走る。

「〜っ」
大気はズルズルと座り込む。

(今回はやられました。
なんなんですか、あの可愛さは…)

大気は深呼吸して立ち上がる。

「亜美はやっぱり笑ってる方がずっと可愛いですね。
亜美の涙は綺麗ですが、傷ついて流す涙は見たくないですからね」
大気は小さくそう呟いて、亜美の背中を追った。






あとがき

麻緒様お待たせいたしました!

まずは19000のキリリクありがとうございます!

ライツ×亜美ちゃんのコラボということで、こんな感じになりました。

遅く&長くなってしまって申し訳ありません。

以前からいつかは書きたいと思っていたお話だったのでリクエスト戴けて嬉しかったです♪

少しでも気に入って戴けると嬉しいです。

では、お粗末さまでしたm(_ _)m



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