大気×亜美 | ナノ




君の隣 −後編−

5月30日

夜に生放送の音楽番組に出演するために昼過ぎからリハーサルがあり、午前中は雑誌取材もあったためスリーライツの三人は学校を欠席した。
昨夜も遅くまで仕事だったようで電話だと迷惑になるかと思い、日付けが変わってすぐに「お誕生日おめでとうございます」とメールしたところ、すぐに電話がかかってきたのには少しだけ驚いた。


「それで、ここのxにさっきの公式で出た答えを入れて」
火川神社のレイの部屋でいつものように亜美が泣き言を言ううさぎに説いていると突然スパーーーーンと入口が開かれた。
「……はぁっ…はぁっ…」
「「「「美奈子ちゃん?」」」」
そこにいたのはスリーライツと同じく仕事で学校を休んだ美奈子だった。
「ーっ、こんなっ、ところで、なに、してるの?」
ひたりと亜美を見据えて真剣な声音で言う美奈子に、うさぎ達三人は押し黙る。
「勉強会、だけど…」
「勉強会だけど、じゃ…ぬわぁぁぁぁぁいっ!!」
美奈子が顔を上げてキッと亜美を睨む。
「あの、ねぇっ!今日は何月何日だと思ってるの!?そう!5月30日よ!ご・が・つ・さ・ん・じゅ・う・に・ちっ!何の日だと思ってるの!」
「…………」
亜美は何も応えずに美奈子から視線を逸らせる。
「誕生日でしょっ!大気さんのっ!恋人のっ!」
「…………」
「そんな大事な日になんでこんなとこでのんきに勉強してるのっ!」
いつもなら止めに入るレイも美奈子の剣幕に呆然としている。
「やることがあるでしょっ!行くところがあるでしょうっ!」
「…………」
美奈子の言葉にやはり亜美は応えない。
「亜美ちゃん昨日っていうか今日、日付けが変わってすぐに大気さんと電話で話したんでしょう?」
「……っ」
亜美はこくりと頷く。
「今日スタジオで会った時、亜美ちゃんからプレゼント貰ったの?って聞いたら『まだですが一番におめでとうを言ってもらえたので』って大気さんすごく嬉しそうだったのよ」
「……っ」
「亜美ちゃん…プレゼントは持ってきてないの?」
亜美は小さく頷く。
「なんで?」
「今日は学校に来られないのは聞いていたし、お仕事が終わってからじゃ…」
「なんで?」
「っ」
「なんで今日中にプレゼントを渡しに行こうとしないの?なんで会いに行こうとしないの?」
「それ、は……大気さん最近ずっと忙しくて疲れてるのに、我侭言って…迷惑かけたくな――」
「そうやって我侭言わずにいい子でいることが相手のためになるとか思ってるんじゃないわよっ!」
「っ!」
亜美がひくりと息を飲んだ瞬間まことが口を開いた。
「ちょっと美奈子ちゃん言い過ぎだよ!大気さんが仕事で学校に来られないのは美奈子ちゃんだって知ってるじゃないか!」
「知ってるわよっ!だけどなんでそれで諦めてるのっ!大気さんは遠征に行ってるわけじゃないわ!仕事が終われば家に帰ってくるじゃない!」
自分の方を見ようとしない亜美に痺れを切らせた美奈子が彼女の両肩をつかむ。
「大気さんが亜美ちゃんを迷惑だなんて思うって本気で考えてるのっ!?ここにいる誰もそんな事ミジンも思ってないわよ!」
「そんなの…なんで美奈子ちゃんにっ…」
「わかるわよ!大気さんが亜美ちゃんを大好きなことくらい誰が見てもっ!分かってないのは当事者の亜美ちゃんだけよ!ニブチン!」
「にぶ…っ」
「亜美ちゃん」
声のトーンを落として美奈子は亜美の瞳を覗きこむように言葉を紡ぐ。
「自分の気持ちに嘘つかないで素直に応えて――今日中に大気さんにプレゼント渡せなくて本当にいいの?」
「…っ」
その言葉に亜美がきゅっとくちびるを噛みしめる。
静かな沈黙が部屋に満ちる。
誰も何も言わずに亜美の応えを待つ。
「――――っ」
亜美の消え入りそうな小さな言葉を聞いた美奈子がうさぎ達に振り向き笑った。



午後六時過ぎ、リハーサルを終えて司会者や共演者との挨拶をすませたスリーライツは楽屋で本番が始まるまで時間を各々のやり方で過ごしていた。
星野は買ったばかりの携帯ゲームの新作ソフトを黙々とプレイし、夜天は音楽を聴きながら静かに目を閉じていた。
大気は本に目を通しているが、内容は先ほどから入ってこない。
「……」
内心で想うのはこの本の持ち主でもある恋人のこと。
日付が変わってすぐにメールで誕生日を祝ってくれて、急いで電話をかけると優しい声音で「お誕生日おめでとうございます」と言ってくれた。
誰よりも真っ先に亜美からの言葉を貰えたのはすごく嬉しくて幸せだった。
『お仕事頑張ってください』
本当は三限目までは学校に行けるはずだったのが急な仕事が入ってしまい行けなくなった事を伝えたら、亜美はそれだけを言った。
大気は「ありがとうございます」と応えて電話を切った。

生放送が終わるのは九時前。
挨拶を済ませてスタジオを出られるのは九時半過ぎか十時前か。
(それから会いにいくのは亜美が気を遣うでしょうし)
今夜は確か亜美の母がいるはずだ。
公認の関係だからと言ってそんな時間から家に訪ねるのは、やめておいたほうがいいだろう。
(……亜美)

夜天はそっと大気を見て内心でやれやれとため息をつく。
そんな時、スマートフォンが震えた。
メールを見て星野をちらりと見つめると、しっかりと目が合い夜天がこくこくと頷くと彼も同じように頷き、どこか上の空の大気の後ろ姿を見つめる。

星野は携帯ゲーム機を置くとスマートフォンを取り出し、メールを打つ。
相手は同じ楽屋にいる夜天。
『あとどのくらいだ?』
『二十分くらいみたいだね』
『渋滞に巻き込まれないといいけどな』
『そこは大丈夫みたい。もうすぐ駐車場だってさ』
「は?」
「どうしました星野?」
「あっ!いや、なんでもねぇよっ!ちょっとな、敵が強くてさ」
「そうですか」
「読書の邪魔して悪い」
「いえ」
『バカ星野』
『しょーがねーだろっ!駐車場って事は二十分もかからないだろ!?』
『かかるって言ってるんだからかかるんでしょ』
『そういうもんか』
『たぶんね』
二人がそんなやりとりをしているとは全く思っていない大気は本に集中しようと努めていた。



ちょうど三十分後スリーライツの楽屋がノックされ、星野と夜天が一瞬アイコンタクトをとりリーダーである星野が返事をする。
「はーい?」
「大気さんにお届け物でーす」
「は?」
大気が怪訝そうに眉をひそめる。
「ナマモノなんで早めに受け取ってもらいたいんですけど」
「「ぶっ」」
ドア越しの相手の言葉に星野と夜天が吹き出す。
「……何を企んでるんですか?」
それを見た大気がジロリと二人を睨む。
「人聞き悪い事言うなよ?今日の主役はお前だぜ?」
「そうそう。言いがかりはやめてよね」
夜天がガチャリと楽屋のドアを少しだけ開く。

「どうぞ」
「しっつれーしまーっす。愛の必殺お届け人です♪」
「……愛野さん?」
「はいはーいっ♪」
大気は簡単な変装をした美奈子が手をひらひらと振る背後で夜天がドアを閉めない事に眉をひそめる。
「何をしに来たんですか?愛野さんは今日は出演しませんよね」
「しないわよ〜♪大気さんにお届け物だって言ったじゃ……って、あれ?何してるの!もうここまで来ちゃっちゃんだからっ!」
美奈子がドアの向こうに戻る。
「いいから観念しなさいっ!」
「でもっ!」
「っ!?」
その声を聞いた瞬間、大気は弾かれたようにドアを開け放つと、驚いたようにそこにいた亜美を見つめる。
「あ…っ」
「逃がさないわっ!」
「っ!」
ガシッと美奈子がとっさに身を翻した亜美の手首をつかむ。
「はい、大気さん交代」
「え?」
「離したら亜美ちゃん全力で逃げちゃうわよ?」
「……ありがとうございます」
大気が礼を言ってそっと亜美に触れるとトンと美奈子が彼女の背中を押す。
「きゃっ!」
「っと」
バランスを崩した亜美の身体を抱きとめると同時にパタンとドアが閉められた。
「俺ちょっと電話してくる」
「僕、喉渇いたからお茶してくる」
「あたしも〜っ♪」
楽屋の外に出た三人はあっけらかんと言う。
「それじゃあごゆっくり〜♪」
美奈子が明るく言うと三人は楽屋前から離れていく。
出演予定のスリーライツの二人と美奈Pの愛称で親しまれている今をときめくトップライドルの愛野美奈子の三人が歩いているのをスタッフや他の出演者が不思議そうに見つめていた。
「あ、俺達、大気の作詞作業の邪魔しないためにちょっとお茶してくるんでなるべく楽屋開けないでください」
「作業中の大気って話しかけられたりするとすごい嫌がるんですよ」
「あっ!忘れてたわ」
美奈子がくるりと楽屋前に戻りると『入らないでください』と書かれたドアプレートをノブにぶらさげる。
「これで心配いらないでしょ?」

そんな小細工がされているとは知らない楽屋内の二人は、大気が亜美を抱きとめた姿勢のまましばらく固まっていた。
「ごめん、なさい…」
亜美の声に大気はハッとする。
「亜美?」
「…っ」
俯いて顔を上げようとしない亜美にそっと手を伸ばし変装のために被っていたであろう帽子を取るとクセのある碧い髪を優しく撫でる。
「っ」
びくりと小さな身体が強張ったのを感じ、そっとあやすように髪を撫でる。
「そんなに怯えないでください」
「でもっ…大事な本番前なのに」
「あとは本番だけなので心配いりませんよ」
今日の生放送番組に出演経験のある美奈子の時間配分を把握した手際の良さに大気は心の内で賞賛を送る。
「会いに来てくれて嬉しいです」
「えっ!」
驚いたように見つめてくる亜美に大気は苦笑しながら変装目的でかけていた伊達眼鏡を外す。
遮蔽物のなくなったサファイアの瞳にかすかな怯えが混ざっているのを見逃さなかった。
「あ、の……あたし、大気さんがお仕事だから我侭言って困らせたくなくて」
「うん」
「でも、どうしても、会いたくてっ」
「うん」
「だから美奈子ちゃんに無理言って……っ。ごめんなさ――っ!」
大気はそっと人差し指で亜美のくちびるに触れる。
「私は『ごめんなさい』よりも、亜美から聞きたい言葉があるんですが?」
「ーっ///」
大気に優しく微笑まれ亜美はここに来た目的を果たすために意を決して彼を見つめる。

「大気さん」
「はい」
「お誕生日、おめでとうございます」
そう言ってふわりと微笑む亜美に大気はどうしようもない愛しさと、喜びを感じる。
「ありがとうございます」
他の誰からの言葉よりも亜美からの言葉が嬉しいと思う。
「これ」
そう言って亜美が紳士ブランドのシックな袋を大気に差し出す。
「受け取ってくれますか?」
「もちろんです。開けてもいいですか?」
「はい」
大気が丁寧にラッピングを解いていく様子を亜美は緊張しながら見つめていた。
けれど段々と不安になってきてうつむいてしまう。

「ありがとうございます亜美。素敵なネクタイとネクタイピンですね」
大気はそう言うとつけていたネクタイをしゅるりとほどく。
「っ///」
その仕種にどきりと亜美の鼓動が跳ねる。
「亜美?」
「はいっ」
「真っ赤、ですよ?」
「そんなことっ///」
プイと視線を逸らせる亜美に大気はくすくすと楽しそうに笑うと、もらったネクタイをつけようとシャツの襟を立てて左右に垂らしてから、ふと彼女を見つめる。
「亜美は」
「はい?」
「ネクタイは結べますか?」
「はい、結べますけど」
こくりと頷く亜美に嬉しそうに微笑む。
「結んでもらっても構いませんか?」
「えっ?」
「自分以外には出来ませんか?」
「いえ。出来ると、思います」
「では、お願いします」
「は、はいっ///」
亜美は大気に近付くと頭の中で自分で結ぶときの事を思い出しながら、手を動かす。
一方の大気はネクタイを結んでもらいながら、思わずにやけそうになるのを持ち前のポーカーフェイスで保つ。
「亜美」
「はい?」
シュッと結び目を襟元に上げた亜美がハッと慌てる。
「あ、苦しいですか?」
「いえ、そうではなく、こうしてもらってるとなんだか……」
そこまで言って一度止めると亜美に不思議そうに上目遣いで見上げられてどきりとする。
「はい?」
純粋を溶かしこんだサファイアに吸い込まれそうになりながら、鈍感なところに愛しさがこみ上げる。
「新婚みたいですね」
「ーっ//////」
一瞬で耳まで真っ赤になる亜美にふっと笑うと、ネクタイピンをつける。
「どうですか?」
「あ、っ///」
「似合いますか?」
亜美はこくこくと頷く。

大気へのプレゼントは少しカジュアルな印象のギンガムチェックのネクタイだった。
ギンガムチェックの大剣部分に対し、小剣が水色になっている。

「綺麗な水色です」
「あ、はい」
「亜美の色ですね」
そう言って優しく微笑まれ亜美の鼓動がトクトクと早鐘を打つ。

『隠れて見えなくてもその後ろには亜美ちゃんの好きな色があるってすごく素敵だと思うけど?』
とアドバイスをくれたのはレイだった。
はじめは大気をイメージした紫に近い色合いにしようと思っていたのだが、そう言われて心が揺らいだのは紛れもない事実。

「亜美」
「はいっ」
「すごく嬉しいです。ありがとうございます」
本当に嬉しそうな大気の笑顔に亜美は安心する。

こんなところまで押しかけたのに嫌な顔一つせず迎え入れてくれた事はもちろんだが、プレゼントを喜んでもらえたことが何よりも嬉しい。

一方の大気もこんなところまでわざわざプレゼントを届けに来てくれたことを喜んでいた。
今日はもう会えないだろうと諦めていたし、だからと言って「家に来てください」なんてプレゼントを催促してるようで格好悪くて言い出せなかった。

このまま二人きりの時間を過ごしたいところだが…大気はチラリと壁の時計を見る。

――6時57分

本番まであと一時間ほど。
楽屋の外も人の往来が激しくなるだろうし、これ以上亜美をここに留めておくのは危険だ。
「亜美」
大気は彼女の名前を呼ぶと小さな身体をそっと腕の中に閉じ込める。
「た、大気さん///」
驚いている亜美をよりいっそう強く抱きしめる。
「少しだけでいいですから、亜美を感じさせてください」
そう言うとキュッと背中に回された腕がすがるように抱きしめ返してくれる。
大気は亜美のぬくもりをしっかりと堪能し、ゆっくりと抱きしめていた力を緩めてそっと碧い髪を掻き上げ額にチュッとキスを落とす。
「っ///」
本当は唇にしたかったが、それをしてしまうと歯止めが効かなくなるだろうことを大気は自覚している。
「亜美」
大気の声音が亜美にしか聴かせたことのないトーンで名を紡ぐ。
「はいっ///」
真っ赤になって俯く亜美が可愛くて愛しさがこみ上げる。
「亜美にお願いがあるんですが…」
「はい、なんですか?」
「もし亜美が嫌じゃなかったら――」
「えっ?」



その後、星野達三人が戻り亜美は美奈子と共に「お邪魔しました」とそそくさとスリーライツの楽屋を後にした。
「愛野はともかくあの水野がねぇ」
星野が感心したように言うと夜天も小さく笑う。
「嬉しそうだね、大気」
「えぇ、まぁ」
そう言う大気の表情は先ほどまでとは違い柔らかい。

――コンコン

「はーい」
「みなさんそろそろ準備でき…ってまだ着替えてないんですか!?」
楽屋に入ってきたのはスタイリストの女性だった。
「あ、すみません。ちょっとお茶しに行ってて」
「もーっ。あと三十分切ってるんですから早く……あれ?大気君さっきとネクタイ変わった?」
「え?あぁ、ちょっと」
「……ふむ」
大気をじっと見つめた女性はこくこくと頷いた。
「あ、とにかく着替えてください」
そう言うと楽屋の外に出て行った。



――そして番組放送の午後八時

「やーっと始まったぁ」
レイの部屋でゴロゴロしていたうさぎが番組開始の音楽を聞いてがばりと身体を起こした。
「ちょっとなんであたしの部屋で見るのよ…」
「だってあとで星野が迎えにきてくれるって言ってくれたんだもん!いいじゃない!レイちゃんのケチ!」
「二人とも静かにしなよ!」
「「はい」」

『スリーライツ』の紹介とともに階段上に登場する三人。

「へぇ、今回の衣装はみんな同じ色合いのスーツなんだね」
「CMのタイアップだからだって星野が言ってたよ」
「……」
「「レイちゃん?」」
何も言わないレイを不思議に思った二人が振り向く。
「レイちゃん!?どしたの?」
「はっ?何がよどうもしないわよ!」
「嘘!すっごく嬉しそうだったもんっ!」
「そんなわけないでしょ」
「そんなことあるよ!ね!まこちゃんも見たよね!」
「うん。レイちゃんすごく嬉しそうだったよ。なに?気になるじゃないか」
レイは少しバツが悪そうに二人から目を逸らせる。

これを自分が言ってしまうのは、どうだろうかと思う。
「ほら、いいからテレビ見てなさいよ」
ひらひらと手を振って自分もテレビに視線を送る。
一組目が終わりCDランキングがあけ、早くもスリーライツの番となった。

『今日は大気さんのお誕生日なんですよね』
司会者の女性の言葉に会場と他の出演者から拍手があり、大気が『ありがとうございます』と頭を下げる。
『もうプレゼントなどはいただいたんですか?』
『えぇ、いくつか』
『何か気に入ったプレゼントは何かありましたか?』
『はい』
『そう言えばリハーサルの時とネクタイ違いますね。ひょっとしてそれですか?』
女性司会者の鋭い指摘に星野と夜天が自然に会話に入る。
『それはスタイリストさんがこっちの方がいいって言って急遽変更になったんです』
『大気が気に入ったのって僕達があげた安眠枕じゃないかな』
『今日もらったばかりなのでまだ使ってませんよ』
大気が言うとスタジオに笑いが起こる。

『さて、それではお時間の方になりましたので準備の方お願いします』
『『『はい』』』
ステージ向かう三人が画面から見えなくなり、女性司会者は他の出演者に話を振っていく。



「っ///」
美奈子のマネージャーに車でライツマンションまで送ってもらった亜美はリビングのテレビの前でクッションに顔をうずめていた。
まさかさっき渡したばかりのネクタイをつけて生放送に出演するなんて思ってもいなかった。
恥ずかしいけれど、それ以上に嬉しくて亜美は小さく微笑む。

――♪〜〜〜

聞こえ始めたイントロに顔を上げてテレビを見るとしっとりしたスローバラードに三人の歌声が重なる。
大気のアップになり胸がきゅぅっと締め付けられそうになる。

「もし亜美が嫌じゃなかったら――」
楽屋で大気に言われた言葉。
「今夜、家に泊まりませんか?」
これに対し「え?」と言葉が漏れたのは嫌だったからとかではなく、突然の事で迷惑がかかるのではないかと思ったからだった。
そう思っていたからこそ亜美の中で「ライツマンションにお邪魔してプレゼントを渡す」という選択肢は存在しなかったのだから。
「星野と夜天のことなら気にしなくていいですよ」
「えっ?でも…」
「いつも私が家事全般をしてるんですから、今日くらいは我侭を言ってもバチは当たらないでしょう?」
そう言ってくすりと笑う大気の言葉に亜美も小さく笑う。
「あのっ」
「ん?」
何かを言いかけたところでノックの音と星野の「入っていいか?」の声が聞こえたため、亜美は「待ってます、から///」と短く告げると大気は嬉しそうに笑顔を見せた。

スリーライツの曲が終わったため、亜美はテレビはつけたままにしてソファから立ち上がる。
手作りのケーキは用意できなかったが、せめて軽く食べられるものを用意しておこうとキッチンへと入っていった。






遅くなりましたが大気さんお誕生日おめでとうございます!

お読みいただきありがとうございます。

このあとちょっとしたおまけもありますが、だいぶ短くなるのでここではなくFruits Basketの方に載せます。書ければリンクを貼りますのでしばらくお待ちください。



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