オレの或る不幸で幸せな日のこと 後


目を白黒させて後方に首を回らす。と、そこには振り上げた片足を下ろすセーラー服姿の奈都菜がいて、ただでさえ動揺していた綱吉は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「何でここに!?ていうか何それ?」

綱吉の視線の先、小首を傾げた奈都菜の、膝より少し長い丈のスカートに隠されているほっそりとした脚が穿いたロングブーツは、明らかな死ぬ気の炎を纏っている。先程男を蹴って吹っ飛ばしたのは奈都菜なのだろう、と位置関係的には理解出来たが、彼女が戦う術を持ち、死ぬ気の炎を扱えることを知らなかった綱吉には青天の霹靂だった。
奈都菜が「うん?」ぱちぱちと瞳を瞬かせた。

「場所も解らないのに恭弥さんが行くっていうから心配でついてきたんだよ。このブーツは拳使えないからって、前に恭弥さんがくれた。」
「そういうことじゃなくてね!?あとオレの心配微塵もなしか!!」
「当然。」

叫びはばっさりと切り捨てられて、綱吉はずーんと沈んだ。年々、この双子の姉は綱吉に対して容赦がなくなってきている気がする。昔から決して甘くはなかったが、最近は顕著にドライだ。雲雀が成り行きとはいえ綱吉の雲の守護者を引き受けているのが気に食わないのだろうか、いやでもその件は特に何も言われてないしなあ。
何だろうなあと綱吉が落ち込みながら考えを巡らせている間に、奈都菜は綱吉の縄をするする解いてゆく。

「ていうかさあ、相手は次期ドン・ボンゴレをまず殺さずに身代金要求してくるようなマフィアだし、恭弥さん自ら行くんだから、死ぬ訳ないだろ?」
「…え、さっきのそういうこと?」
「そういうこと。きょーやさーん、縄解けました誉めてー!」

綱吉の頭をひとつ撫でて、吹っ飛ばされた男を今の今まで咬み殺していた雲雀に、奈都菜が満面の笑みで手を振る。綱吉はその横顔を見ながらはにかんだ。雲雀が一番に特別なのは揺るぎない事実だけれど、やっぱり奈都菜は綱吉にとって、優しい姉なのだ。
…二人に倒された、マフィアだという三人の男達のお仲間が、怒り狂って群がって来るのを、雲雀と一緒になって躍るように蹴り飛ばし始めた姿には、まだ慣れそうもないけれど。

「沢田さんっ!?」
「ツナっ無事か!?」

綱吉がちょっぴり生温い目をして事態を見守っていると、リボーンを肩に乗せた獄寺と山本が、雲雀の破壊した壁穴から飛び込んできた。息が上がっていながら、綱吉の姿を確認した途端に安堵の表情を浮かべた友人二人に、余程心配をかけたのだと綱吉は分かってしまって、嬉しいような申し訳ないような気持ちになった。

「オレは大丈夫だよ。ごめんね、ありがとう。」
「お怪我なども…無さそうです、ね。よかった…!」
「ホント、ひやひやしたぜ。」

獄寺が胸を撫で下ろした横で、山本がからからと笑うのを見て、綱吉は面映ゆく微笑んだ。が、傍らの戦場っぷりに、直ぐ様それを打ち消さざるを得なかった。

「…オレは、だけどね…。」
「え?」
「お?」

移した目線の先は凄まじかった。雲雀がトンファーを振るって飛ばしたマフィア達を、ロングブーツに死ぬ気の炎を纏わせた奈都菜が次から次へと蹴り上げて、人の山を作っている。目算でもざっと三十はいたろうに、残っているのは既に片手の数だ。
山本がきょとんとした。

「…ナツ、つえーのなー。」

綱吉は一言で全てを受け止めてしまうこの友人を恐ろしいと思う。「流石お姉様だ…!あの細いおみ足であんなに素晴らしい蹴りをお持ちになっていらっしゃるなんて!!」と、惚れ惚れしている獄寺はまあいつものこととして、あのリボーンが奈都菜を見てからずっと呆然としているというのに。

「おい、そっちこそ大丈夫か?」
「…ナツのやつ、武器の調達は雲雀からだろうが、何故死ぬ気の炎を…?しかも大空属性だと…?只者じゃねえのは知ってたが、訓練もなしに死炎を扱えるとはザンザスと同レベルの天才…いや、初代の血統なんだからそれ以上か…」
「おーい、リボーンー」
「いつから使えたんだアイツ…待てよ、出会い頭にわざわざ俺に不信感を与えてきたのはその為か?死炎を扱えると分かれば自分に白羽の矢が立ちかねないから、確実に十代目候補がツナになるところまで持っていきたかったのか?どんだけボンゴレ嫌いなんだ…!」

あ、たぶん駄目だこれ。
身動ぎもせず独り言を呟き続ける家庭教師にさっくり結論付けた綱吉は、共同作業が終わったものの後片付けの為にそれぞれ電話している姉と義兄が落ち着くのを待つことにした。
終わりよければ全てよし。何はともあれ皆で帰れるなら、今日もそんなに悪い日じゃなかったかもなあと綱吉は思った。




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