オレの片割れの恋愛事情のこと 前


雲雀とデートなのだ、と酷く上機嫌の奈都菜が出掛けた直後。愛らしい相貌に反して鬼畜な目の前の家庭教師によって、綱吉の穏やかな日曜日の朝はぶち壊された。

「オメー、ちょっと雲雀とナツを尾行してこい。気配を消してターゲットを追うのもボスに必要な能力だぞ。」

…何が悲しくて双子の姉が彼氏といちゃつくのを見なければならないのだろう…。


しっかり呼び出されていた獄寺と山本を伴って、リボーンが何故か知っていた二人の待ち合わせ場所まで向かう。片割れを溺愛している様子の雲雀は大抵家まで迎えに来ていたので珍しいことだ。
深く深く溜め息を吐く。逢瀬をこそこそと嗅ぎ回って、怒られるの(で、果たして済むのだろうか…?)を想像すると背筋が凍る思いだが、それだけではない。
綱吉にとって雲雀恭弥は確かに恐ろしい人物であるが、それと同等に尊敬に値する人物だ。ただの異常に強かな不良かと思えば、中学生ながらに財団を立ち上げてしまうほど賢しく、唯我独尊なわりに、その心に住まうことを許した相手には特別配慮する。片手で数える程度しかいないその対象者のなかには不思議なことに綱吉も含まれていて。昔から何かと助けて貰っていた己にとって彼はヒーローとか神様とか、そういった偶像に近いのだ。
その恋人の奈都菜もまた綱吉の自慢の姉弟であり憧れだ。雲雀との関係を長年隠されていたのは淋しかったが、「他人には気を配っていたけどねえ…ツナには言わなかっただけで特に隠してなかったよ?」と言われ、聞けば事実毎年誕生日には雲雀が訪れ奈々にも挨拶していたらしいのに自業自得だったことを知った。どんだけ鈍いんだオレ。
だから、そんな二人を尾行せねばならない、と思うと、恐怖より先に申し訳なさが先立って、綱吉の足取りはどんどん重くなるのだ。
気が進まない。全然進まない。今すぐに帰りたい。隣の獄寺が「ぶち壊してやりましょう!」と意気揚々としているのも辛い。山本に慰められるように肩を叩かれ苦笑を返し、悶々としながらも歩みは止めなかったので、指定された場所には呆気なく到着してしまったのだが。
物陰に隠れて伺うと、当然ながらそこには可愛らしく着飾った奈都菜と、雲雀が談笑する姿があった。いつもの学ランではなく、黒を基調にシンプルでシックな服を纏った彼はハンサムだ。恋人らしく腕を絡ませ、街を歩き出したその後ろ姿を付かず離れずの距離で追う。笑顔の絶えない片割れ、無表情ながら優しげな雲雀の眼差しが、綱吉の罪悪感をじくじくと刺激したが、幸福そうな二人の姿は、見ていてとても安心できるものだった。
奈都菜も雲雀も、一人のときに受ける印象は異質さと危うさだった。前者はどこか儚くて、後者はあまりにも鋭くて。けれど、二人並んでいるときはそれがない。まるでパズルのピースのようにぴったりと嵌まって、姿が揃っているのが当たり前にさえ見える。
雲雀をギリギリと睨め付ける親友が、奈都菜をどんな親愛の情で見ているのかは知らないが、きっと彼の望みが遂げられることはないだろう。

「恭弥さん恭弥さん、ここです!入りましょ!」
「そんなに急がなくたって、カフェは逃げないよ。」
「スタッフは逃げ出しそうじゃないですかっ。」
「…存外毒吐くよね、きみ。」

奈都菜がはしゃぎながら雲雀の腕を引いて、洒落たカフェに入っていく。後を追って店内に入ると流石にバレてしまうだろう。リボーンの言い付け上、諦めて帰る訳にはいかず、綱吉らは二人が出てくるのを待つことになった。

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