必然と拒絶


あの日から幾年月。当時弱冠5歳の雲雀を赤子の手を捻るかの如く沈めて彼の傍らに控える権利を勝ち取り、ありとあらゆる方面からのスカウトを蹴り倒して並中生となった綱吉にも、やはり彼は訪れた。

「ちゃおっす。オレは「あ、間に合ってまーす」オイ扉閉めんじゃねえ殺すぞ。」
「じゃあこの町が無法地帯だからって銃刀法違反しないでくれる?オレが“秩序”に嫌われたらどうしてくれるの。」

脅しをかけてくる、家庭教師を名乗る赤ん坊ーーリボーンをとりあえず家に上げる。今の綱吉を見て母の奈々が家庭教師を雇う理由はないから、訪問販売のかたちで押し掛けてきたのか。

「お前は優秀だーー世の中の誰と比べても抜きん出ている。どうだ?オレを雇って、その才能を伸ばしてみねーか?」

にやり、口の端を上げて笑う彼に様子に溜め息しか出ない。

「…ボンゴレはどうあってもオレをボスに据えたいようだな、ヒットマン?」
「!!知っていたか。いや知っていて当然だろうな、イタリアにもお前の名前は届いてるぞ。」
「こっちはお前達の所為で暗殺者に狙われて迷惑してるがな。仮にも一般人の十代目候補者を殺そうとする奴等を野放しとは、どういうつもりだ?」

ていうか沈黙の掟はどうした。今はまだ雲雀も嬉々として咬み殺してーー手伝ってくれているからまだしも、並盛の風紀がこうも乱され続けては、渦中の綱吉がいつ切り捨てられてもおかしくない。そんなことになったらボンゴレ諸ともイタリアの裏社会を潰して死ぬしかない。それだけは嫌だ。殺されるのも死ぬのも怖くはないけれど、あのひとに嫌われたら。
背筋に走った恐怖をやり過ごして、苛々とリボーンを責め立てると、彼はボルサリーノの鍔をくいっと引いて顔を隠した。

「それはボンゴレとしても辟易してるんだぞ。十代目と公表してもいねえ“ジャッポーネの若き金獅子”が、いつ脅威になるか周りのマフィア共はひやひやしててな。だから暗殺者を放つのに、お前、生かさず殺さず見事に返り討ちにするだろう。それでまた名が上がって、恐れて、放つ…つまり堂々巡りしてんだ。」

低いトーンだが、恐らくちっとも悪びれていないことを、彼のしらない長年の付き合いで大体分かっている綱吉は、その言葉の意味を理解した瞬間に凄絶な笑顔で微笑んだ。漂わせる風格はまさに王者の持つそれだ。

「なるほどつまり都合がよかったんだ?このまま行けばオレは鳴り物入りでボス就任だもんね?9代目の義息子もオレがボスになるなら、って暗殺集団の頭で満足してるみたいだし?」
「…本当によく知っているな。」
「暗殺者の方々が毎度わざわざご丁寧に教えてくれるんでね。」

正確には、吐かせるだけ吐かせて海に沈めてやっていた。腐ってもボンゴレ。マフィア間では情報が駄々漏れでも、一般人にはどうしても情報が来なかったのだ。非道とか言うな正当防衛だ、殺さなかっただけ寛大だろう。
話せば話すほどに、リボーンのオレに対する視線が期待するように熱くなっていく。それに耐えかねて、綱吉は話を戻すことにした。

「それで、今回は何の用件だヒットマン。言っておくが十代目就任の話ならお断りだから帰れ。」
「…会うまでは分からなかったが、お前ほどボスに相応しい者もいない。就任すれば、容姿も才覚も、まさしくプリーモの再来と手厚く歓迎されるだろう。何故そんなに嫌がることがある。日本に残す友人か?母か?学業か?心残りなら言え、何とでもしてやれる。」

何を勘違いしたのか、並び立てられる言葉達に、綱吉は冷えた眼差しで応える。調べたらすぐにでも分かるだろうに。そんなものに、綱吉は心を砕いてなどいない。“神童”と畏敬の響きを持って呼ぶ友人達に友人と呼ぶ者などいないし、母なら連れていけばいい、学業はもっとどうでもいい。
綱吉が心を動かすのは身体を呈するのは愛するのは、今はたったひとりの少年だけ。

「何も。ただ、嫌なものは嫌だ。」

でも、それを口にはしない。綱吉が勝手に心奪われて勝手に縋りついているだけだから、それを理由にすることは許されない。


不審げにした家庭教師を追い立てて、静寂を取り戻した家で、綱吉は膝を抱える。ボンゴレになんてなりたくない、だって彼は何があっても並盛を選ぶから。そんな彼を、綱吉は愛したから。

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