小説 | ナノ


※甘い痺れに堕ちていく

(※吸血鬼パロ・描写濃いめ)


猿比古の吸血はねちっこい。勿論、彼と比べる相手など居ないのだがそう思う。
彼曰く、前座らしい行為がやけに長いのがその理由だ。

「んっ…」

鼻にかかった声を漏らし、猿比古が首と顔の間に唇を落とす。後ろから抱きしめられるだけでなく、器用にも彼によって絡められた足のせいで動くことができない。
そんな私の状態に、嬉しそうに口角を上げる彼の手が、静かにワイシャツをしめるボタンへ伸び、焦らすようにゆっくり外していく。せめてもの抵抗で腰を上げれば、即座に残った腕で腰を押さえられ、彼の身体に隙間なく引き寄せられた。

「さ、る比古っ」

「大人しくしてろって」

無茶な相談だ。喉から上がってきた言葉は、肩から首筋をなぞった猿比古の舌によってただのか細いものに変わってしまった。

「ひぅっ」

「かーわいい」

「こ、のっ…するなら早くして!」

「そんなに焦らなくても、ちゃんとしてやるよ」

そう言うなり、猿比古が下着がぎりぎり見えない位置まで前の開けられたワイシャツの襟を引き、素肌の肩に顔を埋める。

「あー…いい匂い」

「嗅ぐな変態!!」

「煩ぇなあ」

ボタンを外し終えた手が伸び、猿比古が顔を埋めている側の首を押さえる。首元をさらに広げるように、首を少し傾けられる。唇だけで、今度は首筋から肩口までをなぞられ、思わず身体がピクリと震えた。

「んんっ、ん」

小さく声を漏らしながら、猿比古が肩に場所を少しずつずらしながら吸い付いてくる。その度に身体が震え、しかしその回数だけ肩には赤い華が咲いているのだと思うと、溜息を吐きたくなる。痕は付けるな、といつも言っているのに、猿比古が聞いた試しなど一度としてない。

「あっ!」

「…イイ声」

焼けるような痛みと、それに重なって甘い痺れが身体を走る。じわりと流れる血の感覚を覚え、その後に猿比古の舌が肌を滑る。猿比古は、いきなり血を吸う――ということは絶対しない。
彼曰く、血を吸う前には必ず、吸う場所の匂いを嗅ぎ、痕を残し、そして少しだけ牙を突き立て流れる血を舐めとるのが、普通に血を吸うよりもかなり興奮するらしい――。
匂いで鼻を、痕で目を、少しの血で舌を、じわりじわりと刺激を与え、最後に思い切りかぶり付きたいそうだ。

「あっ、ふぅ…さる、ひ、こぉ」

「んー?」

どうした?なんて耳元で囁く猿比古が酷くワザとらしい。声は明らかに弾んでいるし楽しそうだ。こういう時の猿比古は、私が何を言いたいのか分かっているくせにワザと分からないフリをして言わせようとするから嫌だ。

「はぁ、やっく…!」

そう頭で分かっているのに、口にしてしまう私は、どこまでも猿比古に堕ちているようだ。
私の言葉と共に、先程とは比べ物にならないほどの痛みと甘い痺れが身体中を駆け巡る勢いで走る。耳のすぐ傍から鼓膜を刺激してくる水音は、脳を蕩けさせ、身体を甘く痺れさせ力を奪っていく。

「あっ、んぁ、さるひ、こっ」

「ん、んんっ」

「あああ――――」

一際強く甘い波が身体を痺れさせ、力の抜けた身体が猿比古に凭れかかる。荒く息をする私とは反対に、恍惚とした表情で舌なめずりをする猿比古にまた身体に熱が集まってくる。

「ご馳走さま」


甘く蕩ける食事
(君の甘さに)(遥か底へと堕ちていく)

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