我願ふ、彼が倖せを。
彼は、いつだって悲しい顔をしている。
いつだって、主の事を想い護ろうとしている。
独りの世界で、いつだって、涙を流しながら――
「天鎖斬月、また来てくれたの?」
「梓紗、身体はどうだ?」
「完全な回復にはまだ遠いけど、大丈夫よ」
私の主だった死神は、藍染と尺魂界を裏切った。そして、虚宮で主は卍解した黒崎一護に敗れ消滅した。
本来主と共に消滅する筈だった私は、天鎖斬月に触れ、その強い霊圧が私の中に流れ込んだおかげで消滅を免れた。
だけど、傷は酷くて新たな主を見つける事も出来ない。そんな私に罪悪感を感じるのか、彼はこうして私に会いに来てくれる。彼の所為ではないけど、彼の存在に酷く安心した。
「天鎖斬月、また悲しそうな顔してる」
「!…済まない」
「どうして謝るのよ、謝らないで」
彼はいつも悲しい顔をしている。
彼はとても優しい人だから、そして彼は斬魄刀だから。
「大丈夫よ。きっと貴方は主を護れる。今だって、主を護れているじゃない」
「梓紗…」
「貴方は、貴方の想いのまま動けばいいのよ。貴方はとても強いんだから」
だからお願い、泣かないで。私は、貴方に幸せでいて欲しいの。
「貴方と貴方の主は、私の主を救ってくれたわ。藍染に言いように使われていたあの人を、貴方達は助けてくれた。迷う必要なんて、ないわ」
私はいつでも願ってる。貴方が、幸せそうに笑ってくれるのを。
「ありがとう、梓紗。また、来る」
「無理を、しないでね」
この世界には、二つの禁忌の恋がある。一つは、持ち主との恋。
そして、もう一つは――
「梓紗」
斬魄刀同士の、恋。在ってはならない恋。決して結ばれぬ恋。
だって
「天鎖斬月…どうか、笑って」
ずっと願ってる。貴方の、倖せを――
貴方が、微笑むことを――。
(いつか、貴方の笑顔が見れますように、)
← / →