小説 | ナノ


君は君自身


目覚めたお前の中に

「貴方……誰?」

俺はいなかった。

「アリアちゃん…何言ってるの?」
「俺達が分からねぇのかぁ?」

どうなってんだ?コレ…アリア?

「ご免なさい、私…何も覚えてないんです。皆さんの事も…何も」

何言ってんだよ…アリア!

「ご免なさい…本当に…」

ご免なさい」


「検査の結果、アリアは記憶喪失だと断定された」

「原因は何なんですかー?」

「外傷がねぇことから、恐らく敵の技か何かで脳に直接影響を与えられたんだろう」

「記憶は戻るのかぁ?」

「正確な原因が分からねぇ以上どうする事もできねぇ。だが…もしもの事もあり得る。
覚悟しておけ


「可哀想ですねーアリアセンパイ…」
「アリアちゃんもそうだけど、辛いのはベルちゃんよ」
「ベルとアリアは付き合っていたからな」
「もし…アリアセンパイの記憶が戻らなかったら、どうなるんですかー?」
「妥当に言えば…ヴェリアーをやめさせられる。記憶が戻らなきゃ戦えねぇ。いくらあいつが強くても…此処にはいれねぇ」



「……………アリア」

本当に、忘れたのか?

「ベルフェゴールさん」

「!アリア」

余所余所しく自分の名を呼んだアリアに、違和感を覚えた。その表情は、どこかぎこちない。

「あの…その…本当にご免なさい……私…皆さんの事…」

何も分からない。覚えていない。自分と過ごした日々の事も全部、全部……アリアの言葉は聞く度に、自分との間に狭間を感じる。

「ベルフェゴールさん……訊いてもいいですか?」

「…何だよ」

「ルッスーリアさんから…聞いたんです……私と、ベルフェゴールさんが付き合っていたって…」

「付き合ってたじゃねぇよ。付き合ってんの」

「……ご免なさい」

「何で謝んだよ」

「私が…記憶を無くしてしまったから。ベルフェゴールさんに…辛い思いを」

イライライラ

「だから、ベルフェゴールさんに謝らなきゃ「…じゃねぇ」え……」

「ベルフェゴールさんって…呼ぶんじゃねぇ」

「…じゃぁ、なんて「ベル」ベル?」

「ベルでいい。アリアはそう呼んでた」

「でも私、記憶が「んなモン関係ぇねぇよ」

俯いている顎に指を掛け、上を向かせる。愁いを帯びた瞳に、自分の顔が映った。

「なぁ、アリア。アリアは、記憶が戻ってほしい?」

「………………出来る事なら」

「なんで?」

「それは……記憶は無いけど…でも、此処には、私の大切なモノがある…そう感じるんです。だから、記憶が戻ってほしい…取り戻したい。失うのは嫌なんです」

そう言った彼女の姿、以前の彼女と重なった。


「ベル、私はどんな事があっても、ヴァリアーをやめるつもりないわよ」
「はぁ?なんでだよ」
「此処には、私の大切なモノがあるの。ベルだけじゃないわ……ルッスーもスクもレヴィもフランもボスも。皆私の大切な人。失いたくないのよ」



あぁ、そうか。彼女は彼女なんだ。

「要らねぇよ、記憶なんて」

「!どうして…」

「記憶なんて、また作ればいいじゃん。敬語も要らねぇし。呼び方だって、お前が呼んでたの教えてやるよ」

「……………………………」

「王子が手伝ってやっからさ。無理に頑張ろうとすんなよ。アリアは、アリアらしくしてりゃいいって」

「……はい…………ありがとう、ベル」

「ししし、どう致しまして」

記憶が無くてアリアは変わらねぇ。俺を呼ぶ声も、笑顔も、優しさも。何一つ変わらない、アリアはアリア。



(なぁアリア、一発ヤれば記憶戻るんじゃね?)(はっ!?)

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