「なまえー、帰ろー」

「わっ!祐希!?」


帰りのホームルームが終わったすぐあとのこと。
まだ騒がしさが残る私の教室に、今日は珍しく祐希の方から迎えに来てくれた。

半開きの扉の隙間から顔だけをこちらに突き出し、よほど早く帰りたいのか、こちらをじーっと見ている。


この絵面ちょっとホラー感あるな…なんてのん気に考えつつ、荷物をまとめる手はてきぱきと動かしてゆく。


「ごめんお待たせ!帰ろっか!」


まわりの女子たちからの様々な感情が入り混じった熱い視線をじりじりと全身で感じながら、祐希のもとへと駆け寄る。
相手はかの有名な 浅羽祐希。注目する気持ちはよく分かる。

でも、こんなふうに彼の方から迎えに来られると、うれしけど、こんなにもみんなからの視線が注がれるのは、日ごろなるべく目立たぬよう注目されぬよう過ごしている私にとっては、少しハードな時間ではある。



「…ねえ、祐希さん」

「んー」

「今日なにかあるの?」

「なにかって?」

「珍しく祐希の方から迎えに来てくれたから。」

「ああ、今日アニメージャの発売日だから。早く読みたいじゃん。」

「そういうことね…。」

「そーゆーこと。来月の発売日もまたなまえのクラス行くから。」

「えっ」

「『え?』」


来月も、か。 また今日のようなあの少しつらい時間が訪れるのか、と思うと気が重たくなり、もうすぐ階段に差し掛かるという所で、つい足が止まる。



「…どしたの」


前を歩いていた祐希が振り返り、少しうつむいている私の顔をかがんでのぞく。



「えっとね、私のクラスに迎えに来てくれるのはすごく嬉しいんだけど、」

「うん」


「…ほかの女の子からの視線が、ね…」

「あー…そう……」


口調はいつものように淡々としていたが、目線は遠くをみつめ、口元に手をやり、思考を巡らせているのがわかった。





「…なまえ、こっちきて。」


言葉の通りに彼の方へ近寄ると、祐希は階段を1段下に降り、私の方へに振り返った。


…あ、こうすると目線の高さが同じになるんだ、なんて悠長に気付きを得ているのも束の間、

祐希の手がやさしく私の頬にふれ、反対側の頬に やわらかいなにかがふれた。




「………へ?」


「いやー階段さんいい仕事するねー」



先の話をしたにもかかわらず、どこで誰に見られててもおかしくないようなこの場所で、彼はなんて大胆なことしちゃっているのだろうか。

付き合ってもうすぐ二か月になるけど、こういうことはしたことがなかったし、
むしろ、もうしばらくは何もないままだろうなと少し残念に思っていたところだった。



「ほーら、いつまで驚いてんの、早く行くよ。」


驚きのあまり立ち尽くす私の手をとりすたすたと階段を下りていく祐希に、転ばないようになんとか着いて行く。



「…来月も迎えに行くから。」



「…うん、ありがと。」











→おまけ (まさかの目撃者)




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