目が覚めた時にまず見たのは、マスターの焦った表情だった。 見慣れた小さな部屋に見慣れたマスターの姿。ずっとずっと、オレがインストールされてから毎日見てきた小さな世界。 マスターがオレのソフトウェアを開いているその間だけはこうしてマスターに触れられる。嬉しくて嬉しくて嬉しくて、いつしか本職の歌うことよりも楽しみになっていて――― 「どうしようレン、皆がいない……」 言葉に視線を上げれば振り返ってオレを見詰めるマスターの顔。身体のどこか奥が熱を帯びる。 「昨日までは普通だったのに………ミクも、KAITOも、MEIKOも、ルカもいない」 どこに行っちゃったんだろう。と彼女は呟く。 随分とアイコンが減ってすっきりとしたマスターのデスクトップでは矢印が所在なげに右往左往していた。 「ねえ、リンもいないのよ。レンはいるのにリンがいないなんて、有り得ない……」 「マスターは、リンが必要なの?」 自分でも少しぞくりとするような冷たく静かな声が出た。 マスターも気付いたのか、不安げな視線をオレに向ける。 彼女の目に映っているのはオレだけ。オレ、だけ。この、鏡音レン、だけだ。 「当たり前でしょう」 「じゃあオレは必要じゃないの?」 「な、何でよ。リンだって、レンだって、みんな大切だよ?」 「みんな……」 ふうとほとぼりが冷める感覚がした。 同時に沸き上がるのは、きっとこれは嫉妬。 「オレはマスターが大切だ。マスターがいればそれで充分なんだ。マスターの隣にいれればもう歌なんてなくてもいい。マスターがいればもう何もいらない。邪魔なものはみんないらない、マスターだけがいればそれでいい。だから邪魔なものはみんないらないんだ」 「…レン?」 「オレはこんなにもマスターのことを思ってるのに、オレだけのマスターになってほしいのに、あいつらはすごく邪魔だった。リンなんて特にそうだ。ソフトを開いて貰ったと同時に飛び出してずっとマスターにへばりついて」 「それなのに、マスターまでそんなこと、言うんだ」 怯えた表情の彼女は、今まで見てきた中でとびきり似合っていた。 ちらつかせたオレの右手のそれから目を反らせずに真っ青なマスター、 (マスター、マスター、オレ、嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼) 青はオレの色じゃない。腹が立った。 待っててマスター、今オレが取ってあげるから。 手近にあったカッターを、まっすぐに彼女の腹に突き刺した。 「なあ、オレだけのマスターになってよ、マスター?」 吐息が掛かる程の距離で囁く。 腹からは赤が滲み、広がり、花が咲くようで美しくて、思わず見とれた。 疑問、 (これのどこが罪とでもいうのだろう)(ねえ教えてよ、マスター、ねえねえねえねえ) * ヤンデレやふーい。個人的にはこういうの好きなんです。 あんまり細かく書けないのが課題ですね。気をつけよう。 お粗末様でした。 10,01,18 蜜蜂 [*前] | [次#] ページ: |