ほど好く人為的に温められた室内に、俺と彼女だけ。他には誰もいない。二人ぼっちというやつだ。 俺が主人と仰ぐ彼女はデスクトップを睨みつけたまま一向にこちらを振り向いてくれるようなそぶりをみせない。俺は声を掛けたいのに出来ない。かれこれこんな時間を二時間は過ごしている。 もどかしくない訳ではない。動きたいけどどうすればいいのか分からないだけ。 伸ばしかけた手のやり場に困り、引っ込め、どうしたものかと思案しているうち、んー、と彼女が大きく伸びをした。 「あの、マスター?」 「ん?」 「今日って何の日か知ってます?」 思い切って尋ねてみたものの、彼女の反応は今ひとつぴんとこないものだった。 え?うーん…といった曖昧なものばかりが発せられるばかりなので、仕方なく「俺、誕生日なんですよ」控え目に告げる。 「………あっ」 「………マスター、忘れてましたよね」 「そんなことない」 「嘘はいけません」 「嘘じゃないもん」 「じゃあ誕生日プレゼントとか呉れるんですか?」 「うっ」 「はあー……俺、そういうの貰ったことないんですよ」 別にそんなものが欲しいとかそういう訳じゃないけど、気まずそうに目を逸らす彼女が面白くてついからかう意図でそんなことを言ってしまう。 「私」 「は?」 「プレゼントは、私だから」 「はあっ?」 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。嘘と分かっていても頬がかあっと火照る感覚がする。 瞬間、冗談に決まってるでしょ、と冷静につっこまれてしまった。 内心のどこかが急に冷めていく感覚に、そんな自分の単純さが愚かしく思われる。 「しょうがないな、ちょっとアイス買ってくるから」 今日は特別ダッツにしたげる。そう言って靴をつっかけようとしゃがむ彼女の背中、俺は反射的に慌てて抱きしめていた。 彼女の愛用している石鹸の香りときつすぎない香水の香り、それに混じって彼女自身の匂いが鼻を擽る。 僅かに官能的な芳香は、脳を麻痺させていく気がして、 「わっ」 「要りませんから、ダッツは」 「あの、KAITO?」 「…ください」 芳香麻痺 (痺れて溺れて本来の感覚など忘れてしまって) * 兄さんお誕生日おめでとう。約二時間のロスタイムでやっと完結です。 甘系の話を書いてないな、書きたいな、と思ってたのになんじゃこりゃあああ。 立場的、年齢的にはには兄さん<マスターだけど普段なら兄さんもちょこちょこマスターをからかったりしてるといいよ。色恋沙汰(?)になると途端に慌てたりするともっといいよ。 なんか消化不良な気がしますが…うーん。 あ、ちょっと遊び心で兄さんの最初の台詞とマスターの最後の台詞は重なるようになってます。だからといって何もありませんが。 一応誕生日記念夢ということで今月末迄なら煮るなり焼くなりお好きにしていただいて構いません、とだけ言わせてください。笑 お粗末様でした。 10,02,17 蜜蜂 [*前] | [次#] ページ: |