1/434343hitリク!「目標」


「やだ!やだやだ」
 珍しく地団太を踏み瞳には涙を滲ませているのは、狛村家の長女の南槻だった。
「…困ったわねぇ…」
 母の三夏が溜息とともに呟く。

 いつもは聞き分けの良い三つ子なのだが、この日は違った。
 と、言うのも…。
「ととさまのとこ、いくの!!」
「お仕事だって言ってるでしょう?」
「じゃ、てっちゃん!」
「射場副隊長もご一緒です」
「うー!!」
 大好きな父も鉄左衛門もいなくて、寂しくて仕方がないのだ。

 執務室ならば邪魔をしない程度、顔を見たりその場での読書程度ならば許される行為なのだが、今は現世に出撃しているのだ。
 強敵相手ならばいつもは身軽な十番隊や十一番隊へ真っ先に命令が下るのだが、珍しく二隊とも出撃していて七番隊へ命令が下った。
 隊長である左陣に、副隊長である鉄左衛門だけでなく、何名かの部下も連れてのかなり大がかりなものであるだけに、とても子供たちは連れて行けない。
 
 父も鉄左衛門も直ぐに帰ってくると言い聞かせても、瀞霊廷に霊圧が感じられないことが子供たちにとってかなり不安らしく駄々をこねているのである。


「三夏ちゃん?あ、いたいた。どうしたの?」
 娘と孫たちを探し当てた春水が顔を見せた。当然いつものサボりだ。
「あ、お父様。子供たちが…」
 春水の暢気さがこの時ばかりはありがたいと、三夏は表情を和ませた。
「ん?」
「じいじ!!」
「じいじ、あそぼ!」
「あそんで〜?」
 三つ子に一斉にねだられて春水は思わず笑み崩れた。
「お、今日は随分甘えん坊だねぇ?」
 三つ子を抱え込み嬉しそうに頭を撫で回す。
「左陣様たちが出撃してて…」
「ああ、あれ、七番隊に回ってきたんだ?」
「お父様の所にも話が?」
「ん?まあ、一応ね。意見交換って所でね。何せ、今十一番隊も十番隊も、六番隊もいないからねぇ」
「あら、六番隊もですか。一秋兄様や、冬二兄様も?」
「ん、二人も行ってるようだね」
 十一番隊の一秋も、六番隊の冬二も当然一隊員としてお供しているのだ。
「珍しいですね。そんなに一度に…」
 夫だけでなく、兄が二人も現世に行っていると解ると三夏の表情も不安そうなものに変わる。

「だからさ、一応ボクや浮竹にも意見をね」
 春水や十四郎自身が赴く事は滅多にない。寧ろ二人が腰を上げた時は相当な事だと判断しても良いだろう。
 だが、その二人に相談と言えど話が通っているとなると相当な案件であろうとは解る。
「…大丈夫、ですよね?」
「勿論だよ。三夏ちゃん。狛村君は強いからねぇ。…それに一秋君も、冬二君も強いよ?」
 三つ子たちは母と祖父の会話をじっと見上げていた。

「じいじ…ととさまだいじょうぶ?おじちゃんもだいじょぶ?」
 南槻が心配そうに瞳を潤ませて春水の袖を掴んで問いかける。
「うん、大丈夫だよ」
「ほんとー?」
 直ぐに問い返したのは西治だ。
「本当だよ」
「ととさまと、じいじどっちが強いの?」
 さらに問い掛けたのは、今度は西造である。
「うう〜ん、難しい質問だねぇ?じいじの方がながーく隊長さんやってるから、じいじが強いってことにしておこうか」
 にっこりと笑い子供たちにわかりやすく伝える。
「ええー、ととさまの方がつよそうなのにぃ?」
 春水の言葉に不満を漏らしたのは南槻だ。
 何せ見た目が強そうな上、普段から真面目に鍛錬をしているところも見ているのだが、春水がいつも遊んでいる為と七緒に叱られているところを見ている為、どうしても父親の方が強そうに見えるのだ。

「あっさり否定されちゃったなぁ…」
 笠を外し苦笑いで髪を掻く。



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