「八番隊の裏手でいきなり消滅しています」
 阿近が唸るように画面の文字の説明をする。
 それは、誘拐の可能性が高くなったことを意味していた。殺されていれば霊圧の変化が起こる。今回はそれがなく、ただ消滅していたのである。

 八番隊の周辺は既に春水自身で目にしているが、異変は感じなかった。霊圧を隠すようなことをしているとしたら、異変を感じることは難しいのかもしれないが。
 春水は画面を睨みつけ、しばらく黙って考え込んでいた。
「……七緒ちゃん以外の霊圧はその地点にはない?」
「……確認します」
 春水の指示に、阿近は頷き指示を打ち込む。
 すると、微かながらに霊圧が認められたのだ。それも複数。
「……霊圧を遮断するようなものなどで身を隠して、伊勢副隊長に近づいたように見えます」
 阿近が痕跡を辿りながら発言をすると、春水が小さく悪態を吐いた。

「今この時期に、良い根性してるじゃないか……」
 明らかに自分に喧嘩を売っているとしか春水には見えなかった。
 八番隊の裏手であること、殺害ではなく誘拐という手段であること、既に実家の長老達は納得しているはずであるのに、あと僅かで結婚式を挙げようというこの微妙な時期であることなどから、自分に喧嘩を売っているとしか見えないのだ。

「ここから十三番隊に連絡はできるよね」
「はい」
 阿近は苦笑いすら浮かべる余裕はなかった。
「地獄蝶を持ってこい」
「はいっ」
 部下に命ずると、部下は椅子から転がり落ちるようにして立ち上がり、地獄蝶を取りに走った。
「地獄蝶を持ってまいりました」
 部下が息を切らせながら、小さな虫籠に入れた地獄蝶を差し出す。
「……浮竹。七緒ちゃんがさらわれた。卍解を使うかもしれないから、山じいに連絡しておいて」
 最も早く済む手段として友を選び、同時に阿近の目前で発言することで、十二番隊からも瀞霊廷内での措置を何かするようにと暗に語っている。
 蝶を放つと、春水は更に指示を出した。

「で、何処へ向かったかは解るかい?」
「はい、既に追跡を行っておりますが……」
「何?」
 言葉を濁す阿近に春水は続きを促す。
「途中で完全に消滅していて、追跡不可能です」
「どの辺りだい?」
 阿近が指さした場所を見て、春水は眉を潜めた。
「…………花街?」
「ええ、その辺りになります」
「人を隠すには適した場所かもしれないけれど……まあ、いいか」
 春水の呟きは物騒にしか聞こえなかった。
「ありがとう」
 春水は口元にだけ笑みを浮かべ笠を目深に被ると、瞬歩を使い出て行ってしまった。

「阿近三席……」
「何も言うな。後の言い訳は京楽隊長がしてくれるさ」
 阿近は不安そうな部下を一瞥し、浮かんでいた冷や汗を拭った。
「それより、瀞霊廷内で戦闘体勢に入る可能性が高いぞ、準備をしておけ」
「は、はいっ」


 一方、この日は珍しく気分が良かった十四郎は、縁側でのんびりと茶を啜っていた。
 そこへ地獄蝶が不吉な知らせを運んでくる。
「何だと!朽木っ!」
「は、はいっ」
 側で一緒に茶を飲んでいたルキアを呼ぶ。ルキアも緊張した表情で十四郎を見上げた。
「一番隊へ向かうぞ」
「はいっ」
 一緒に地獄蝶の内容を聞いていたルキアは表情を引き締め、立ち上がり十四郎の後を着いて行ったのだった。


 その頃、花街に辿りついた春水は、昔馴染みだった店へと顔を出した。
「やあ」
「あら、京楽隊長。どうされました?こんな朝から」
 既に朝と言うよりも昼近くになっているのだが、夜の街であるここでは朝と言っても差支えないだろう。
 番台に座り帳簿を確認している女将も僅かばかりの化粧があるだけで、まだまだ時間前だと伺わせている。
「実は、婚約者がさらわれてねぇ……この辺りで霊圧が消えているんだ。何か不穏な噂とか聞いたことがないかなぁ?」



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