1/510000hitリク!「幻想」


「……七緒ちゃんは?」

 春水の険しい表情に、部下は唖然として誰一人答えることができなかった。
 息こそ乱してはいないが、明らかに探しまわってここへ来たといった様子である。
「…本日は休みの予定では?」
 その場に居合わせた辰房が答えると、春水は頷き事情を語った。
「ああ、今日はボクと七緒ちゃんで結婚式の予定を話し合うことになっていたからね。所が、待ち合わせの時間になっても姿を見せない」
 七緒らしからぬ行動であろうと、春水が真剣な眼差しで言葉を切る。
 
 春水の言い分を瞬時に理解した部下達は固唾を飲んだ。

 七緒が遅刻することだけでもあり得ないのに、更には連絡もなく、姿を全く見せていない。春水が明らかに探しまわった様子からして、かなり時間が経っているのではないかとも予想ができた。
「八番隊には朝から姿を見せておりません」
「そのようだね」
 唾を飲み込み辰房がはっきりと今一度答えると、春水は踵を返した。
「京楽隊長!どちらへ?」
「十二番隊へ行ってくる。先に実家には報告済みだ、何か連絡があれば、地獄蝶を飛ばして」
「了解しました」
 辰房が十二番隊へ赴き依頼をしても良いのだが、隊長である春水が直接口を聞いた方が私用ならば遥かに話が早く済む。
 八番隊へ連絡が通るよう話を済ませておけば、春水への連絡など簡単に済むというものだ。

 春水が瞬歩を使ってまで移動をしてしまうと、一同はその場の最高席である辰房を仰ぎ見た。
「今はまず、落ちついて、書類を片づけよう。連絡が来れば否が応でも動くことになる」
「はいっ」
 辰房の書類に対する姿勢は七緒に叩き込まれたものなのだろう、また、書類に向かえば少しでも気持ちは落ちつくこともできる。
 何より、実際に連絡がなければ動きようが無い。できることを片づける。一同頷き、書類に向かったのだった。


 一方、春水は十二番隊へ押し入っていた。
「京楽隊長、困りますよ」
「涅隊長には後で謝っておくよ。阿近君」
 丁度押し入った先には阿近が居た。話が早いと春水が笑みを浮かべる。
「七緒ちゃんがいなくなったんだ。瀞霊廷から出ていないか調べてくれないかな?」
「伊勢副隊長がですか?」
「ボクに何の連絡なく、いなくなるはずがないんだよ。一応実家にも捜査依頼は出しているんだけれどねぇ、せめて瀞霊廷内にいるかくらいは確認したくてねぇ」
 袖の中で腕を組み笑みを浮かべるが、その目は笑っていない。阿近は溜息を吐きだした。
 これは素直に言うことを聞いた方が良さそうだと、苦笑を浮かべる。
「後で、涅隊長へ話をしてくださいよ」
「ああ、いくらでもね」
 何時もならば多少なりとはぐらかしたり、少しばかりのんびりとした話方をする春水が全く余裕を見せない。剣呑な雰囲気を隠すことなく、寧ろ漂わせているから居合わせていた者は不運としか言いようがない。

 阿近は息を吐き出し部下へと指示を出した。
「伊勢副隊長の霊圧を補足しろ」
「は、はいっ」
 春水と阿近のやり取りを固唾を飲んで聞いていた部下達は、慌ただしく指を動かし捜索を始めた。

 しばらくして、一人が画面を凝視したまま呻くように報告をする。
「……伊勢副隊長の、霊圧が瀞霊廷内で感知できません…」
「……消滅時間や場所の特定はできるかい?」
 春水が低い声で阿近に問い掛ける。
「はい」
 阿近が身振りで部下に場所を変わるように指示し、己が席に座って端末を操作する。
 目にも止まらぬ速さで、指示を打ち込みそれに対して画面に表示される文字を一瞥すると次の指示を打ち込む。
 すると、赤い文字で画面に何か浮かびあがった。


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