敵は一体でないこともあれば、同時に襲ってくることもある。当然両方同時にできるに越したことはない。

 相手が先に動き、鬼道を仕掛けてきた。
 一秋は後ろに飛び退きながらも詠唱をし、相手の打ち込みを竹刀で払う。相手は遥かに大きな体格であるのに、小さな体ですばしこく動く。
「縛道の四、這縄っ!」 
 霊子の縄が現れ相手へと向かう。相手は飛び退いたものの一瞬早く縄が届き、なんとか足首に絡みついた。

「そこまでっ!」
 教官の声が響き渡り、二人は霊圧を治めて向き直り一礼をした。

 そこへ拍手が響き渡る。
「う〜ん、上手になったねぇ」
「げっ!親父っ!ってっ!!」
 うっかり親父と素で言ってしまい、教官に殴られてしまった。
「こらっ」
「す、すみません。京楽隊長…」
 頬を赤らめ一礼した一秋の発した言葉に、その場にどよめきが起きた。

 まさか、隊長が現れると思っていなかっただけに、声も上がるというものだ。
「ようこそ、いらっしゃいました。京楽隊長。伊勢副隊長」
「うん」
 教官が一礼すると、生徒達も慌てて頭を下げた。
「どう?七緒ちゃん、安心した?」
「そうですね。ちゃんと詠唱もしてましたし、霊子もちゃんと練ってましたね」
「そうだねぇ…」
「ただ、その分切っ先が少し下がっていたようですが」
「その通りだ」
 七緒の指摘に春水は大きく頷いた。
「相手をけん制、もしくは威嚇するなら切っ先は上げておかないとね」
「は、はいっ」
 じっくりと見られていたのだと一秋は頬をますます赤らめて俯いた。
「一秋君」
「はいっ!」
「ちょっと、稽古つけようか」
「え?あ、は、はいっ!!」
 一瞬何を言われたのか解らなかったが、春水自らが相手をしてくれるのだと解り大きな返事をして頷いた。

「それ、貸してくれるかい?」
 側にいた生徒へ竹刀を貸してくれるように頼む。
「は、はいっ」
 生徒は頬を染め両手で竹刀を差し出した。
「ありがとう」
 竹刀を手にし、先を一秋の方へと向ける。
「おいで?」
 
 春水の構えもせず力の抜けた状態に、一同固唾を飲んで見守った。
「たあ!!」
 一秋は勢いよく踏みこみ、春水へと打ち込んだ。

 打ち込んだはずだった。
 だがその場には春水の姿はない。瞬歩を使った訳ではなく、ただひらりとかわされただけだ。かわしたようには全く見えなかったのだが。
 竹刀が何時の間にか下に下がっている。良く見れば春水の竹刀が、少し触れているだけで竹刀を持ち上げる事ができないのだ。
「え?」
「…遅いよ」
 軽い感触が背中に当たったと思ったら、一秋は床に伏せていた。
「うわっ!」

 首を捻って春水を見上げると、春水は竹刀を持ったまま指一本だけ立てていた。
 つまり、指一本で倒されてしまったのだ。
「うっそ…」
「力の使い方だよ」
 昔もっと子供の頃、人差し指一本額に押されただけで全く身動きが取れなくなった事があった。それも遊びの一つだと面白がっていたのだが…。
 しかも春水は笠も肩に掛った着物もそのままだ。竹刀も指も力が加わったようには感じなかったのに、動くこともできなければ、簡単に倒されてしまった。
「…でも、大きくなったねぇ?」



[*前] | [次#]
[戻る]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -