1/474747hitリク!「初デート」


「七緒ちゃん、今度のお休みデートしよ!」
「は?」
 春水の言葉に七緒は怪訝そうに首を傾げた。
「デート、知らないの?」
「それくらいの言葉は存じておりますが」
 右手で眼鏡を持ち上げ冷ややかな視線を向ける。四六時中一緒にいるのに、何を言っているのだろうと七緒は思ったのだ。付き合い始めて日が浅いこともあってか、どうもデートという言葉に反応が鈍いようだ。

「んー…こんな例えを言うのは心苦しいんだけれども…」
 春水は苦笑いを浮かべ笠を外して机に置き、頭を掻き、腕を組んで説明をした。
「あのねぇ、花街でも気に入った子と外を一緒に歩いたり、遊んだりして親睦を深めるんだよ。あそこでは夢を売りものにもしているから、擬似的に恋人同士として付き合いもするんだ」
「……本物の恋人同士なら、当たり前だと?」
「そういうこと」
 七緒が不機嫌そうな表情ながらも彼の言いたい事を言い当て、春水は満足そうに頷いた。

「……夢を売るとおっしゃいますが、デートなどしては情が移りませんか?それでは商売と言うには……」
「仕事だと割り切るには、あまりにも切ないよ。逆に情がなくてはやっていけないんじゃないかなぁ?」
 七緒は考え首を傾げ指摘をしたが、春水は寂しげな笑みを浮かべて肩を竦めた。
「……隊長は、そういう方たちとデートされたんでしょう?」
「ん、まあ、一つのルールでもあるからねぇ…」
 今の恋人である七緒に言う事ではないと思いつつも、真面目な彼女へ対してはぐらかしたいとは思えない。自分が初めての男であると知っているから尚更だ。
「…ルール…ですか?」
「そう、あそこは面倒なんだよ。一見さんお断り、デートしたり持ち上げたりして金を散々払って、ようやくなんだから」
 だが、上流貴族である春水はその事を盾にしてあえて同じ女を買わなかった。それは逆に花街では暗黙の了解となっていたようであるが、そこまでの事情を話すつもりはない。
「それは…つまり、同じ人に入れあげると?」
「まあ、結果的にそうなるねぇ。だから、貴族で余裕があったり、浮気は甲斐性とか言ってる連中は、本当に気に入れば嫁に貰ったり、妾に貰ったりはしているねぇ…」
 その口調があくまでも他人事であったので、七緒は少しばかり安堵した。
「ま、それもボクが学院に入るまでのことだから、今はどうだか?」
「は?」
「ん?花街遊びは学院ができるまでのことさ。あんまり女遊びが酷くって、学院が出来たと同時にこれ幸いと、兄貴に無理やり入学させられたの」
「え?」
 七緒は驚きに目を見張るばかりだ。そんなに昔の事だとは思いもよらなかったのだ。
「まあ、七緒ちゃんと恋人同士になるまでは、そりゃちょっとは利用したけれど。隊長がふらふら出入りできないでしょ?」
 春水が苦笑いを浮かべて首を傾げる。
 七緒は素早く頭の中で計算をした。学院に入ってから今までの年数はかなりのものである。その間に全く女っ気がないとは絶対に言えないし、確かに花街にいつも出没するとは聞いていない。
 実際に夜など春水を探しに行くと大抵居酒屋で捕まった。花街にまで足を踏み入れた覚えはないのだ。
 最も前任者のリサの時は行っていたかもしれない。彼女なら堂々と床入りの場面であろうと踏みこめるだろうから。だが、七緒はそうはいかない。それもあって遠慮していてくれたのかもしれない。

 そこまで考えてみると、初めて結ばれた日、春水が激しく七緒を求めた理由も理解が出来てくる。
 
 見る間に顔を赤らめていく七緒を見つめ、春水は「これは脈がありそうだ」とほくそ笑んだ。

「でも、デートって?何処へ…」
 七緒は赤らんだ頬をそっと指先で抑え、指先のひんやりとした感覚を感じながら問い掛けると、春水が笑顔で内容をいくつかあげた。
「そうだねぇ…、商店街を二人でぶらぶらしたり、現世へ行って遊んだり…」
 天井を見上げどんな内容がいいだろうかと指折り挙げた内容に、七緒の表情が曇って行く。
「…人前で?」
「デートってそういうものでしょ?」
「……あんまり人前には…」
 普段から隊長と副隊長として人前で歩いたり、指示をしていたりするので変わり映えしないと思ったのだ。
「うーん…人があんまりいない所がいい?」
「できましたら、その方が…」
 二人きりなら多少の粗相も許されるだろうと思う。春水は寛容なので、二人きりなら多少七緒が失敗しても許してくれるだろう。だが、人前では恥を掻かせてしまうことになりかねないと思うと、七緒には居た堪れない。
「七緒ちゃんてば、恥ずかしがり屋さんだねぇ…」
 でもそこがまた愛らしいと思い、思わず目を細めて頷く。



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