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ボクは狡い。
乱菊の為にありとあらゆるものを利用した。
乱菊自身すら。
それはある意味彼女の強さも知ってるから。
これくらいなら大丈夫。
藍染から力を取り戻したったら、チャラになる。
誰が死のうと、傷つこうと…ただ、乱菊の為に…。
「…ギ〜ン、何考えてんの?」
乱菊が覆い被さるように覗き込む。
今ギンは乱菊の部屋へ泊まりにきていて、二人で寝台に潜り込んでいるのだ。
「……泣かせたなかったのに…」
「ん?」
「……でも…ボクの為に泣いてくれて…嬉しかった」
ぽつりと呟きほんのりと笑みを浮かべる。
「……ば〜か」
乱菊はギンの頬を指先で撫で、鼻先を指先で弾いた。
「あたっ…」
「ホントっ、あんたって最低っ」
鼻に皺を寄せ、ギンの上から退き横に寝転がり背中を向ける。
「……乱菊の力…戻ってる?」
ギンは天井を見上げたまま静かに問いかけた。
「……まあね」
「ホンマ?」
「…ふん…だ。藍染に力取られたって、あたしは副隊長になれたのよっ。あんたに心配されることなかったんだからっ」
乱菊は勢いよく寝返りを打ち、顔を見合せ唇を尖らせて文句を言う。言われて見ればその通りだ。
死神になったギンを追いかけ、時間は掛かったものの副隊長にまでなっていた。
「……あれ?じゃあ、なんで隊長になってへんの…?」
力が戻っているのならば、隊長格になっていてもおかしくないとふと思ったのだ。
「やぁよ。面倒くさいから」
せっかく勤勉な隊長に恵まれているのに、わざわざ仕事が増える隊長になるなど御免である。
「……乱菊の卍解は?」
「ナイショ」
「…猫にならへんの?」
「何で猫に」
「だって灰猫って、猫なんやろ?乱菊が猫になって攻撃アップ…あたたたっ」
ギンの妄想に、乱菊は黙って頬をつねりあげる。
「あ、ん、た、は、狐になるんですか?」
「なるわけあらへん、ボクの卍解は刀そのも…痛い痛い、堪忍してぇな…」
乱菊は正直に丁寧に説明しはじめたギンの頬を、今度は引っ張った。
「…全く…」
乱菊は指を離し溜め息を吐き出す。
「……怒った顔も、可愛いなぁ」
頬を擦りながら目を細め、うっとりと呟くギンに、乱菊の我慢も限界だ。
「あんたねぇ!」
布団を跳ね上げて起き上がり、のし掛かる。
「乱菊は親身になりすぎるから、心配やった…」
「……」
「自分とおんなし目に合わんようにって…」
「……あんたに助けてもらったからよ…最初から…」
乱菊は情に篤い。ギンはその点を心配していた。
泣かせても、泣くことで吹っ切ってくれれば良いとも。
だからこそ、自分の痕跡は消した。
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